5年ぶり! ファン待望のシリーズ6巻その後の物語『RDG 氷の靴 ガラスの靴』 宗田真響の視点で描く、新たなRDGの世界とは?

新刊著者インタビュー

2018/1/10

州の山奥でひっそりと育った平凡な少女が、人類存亡の鍵を握っていた……。
胸躍る壮大な世界観の中、自分の生き方を懸命に模索する少年少女の姿を躍動感あふれる瑞々しい筆致で描いたRDGシリーズが大団円を迎えてはや5年。
第1巻「はじめてのお使い」で史上最強の頼りなさを惜しみなく発揮していたヒロインの泉水子(いずみこ)が、第6巻「星降る夜に願うこと」で歩むべき道を見出した力強い結末に、感動しつつ胸をなでおろした向きは多かったことだろう。でも、同時に、もうあの子たちに会えない寂しさもあったはず。そんなファンにとって最高のプレゼントとなる一冊が届いた。シリーズの新刊だ。

著者・荻原規子さん

荻原規子
おぎわら・のりこ●東京生まれ。1988年、『空色勾玉』でデビュー。ファンタジー作家として次々と名作を発表。2006年、『風神秘抄』で第53回産経児童出版文化賞・JR賞、第46回日本児童文学者協会賞、 第55回小学館児童出版文化賞を受賞。代表作に勾玉三部作のほか、「西の善き魔女」シリーズなど著作多数。

 

「『泉水子の話』としてのRDGは6巻までで書ききったと思います。だから、単純に続編を書くことははじめから考えていませんでした。一方、これまでの単行本には収められていない外伝的な短編がいくつかあったので、そちらをまとめて書籍として日の目を見る形にしたいとは思っていました。ただ、今ある分だけでは足りなかったため、スピンオフ的なお話を新たに足して一冊にすることになったのです」

 そういうわけで、今回は各種特典として書き下ろされていた深行を巡る三つの短編と、電子文芸誌「小説屋Sari-sari」に連載された表題作が収録されることとなった。

■視点を変えたから見えてきた新たなRDGの世界

 相楽深行(さがらみゆき)。文武両道に優れ、端整な容姿で女子に人気のあるこの大人びた少年は、何事につけ優柔不断なヒロインに成り代わって物語を引っ張る役割を負っていた。今回の三編では、泉水子視点で描かれていた本編のエピソードが、深行視点で再構築されている。

「書いてみるまで私も思っていなかったのだけど、深行も意外と大人ぶっているだけだったみたいです。なんでもよくできる子だから、本編ではツッコミ役に徹してもらっていたので、そういう部分はあまり見えませんでしたが。泉水子だけだとぽわぽわして流れてしまう部分が、深行が入ることによってシビアなことも書けるのが、私としてはとてもおもしろかったんですよ。泉水子だったら引くところを、深行は前に出ていくでしょう? だけど、深行に寄り添って書くと、意外な面を発見できました。たとえば、深行が父である雪政をどう思っているのか、という部分。泉水子視点だと、ただひたすら反抗する姿ばかりが浮かび上がりますが、深行視点だと、一生懸命反発して、でも全然敵わなくて、もう本当にくやしくて、言いつけにはあれもこれもすべてそっぽを向くけれど、心の底では雪政を認めているのがわかってくる。そんな様子をここまでしっかり書けたのはよかったですね」

 そして、表題作となった「氷の靴ガラスの靴」は、6巻ラストのロマンティックな瞬間から半月ほど経った時期から始まる、ちょっとした後日談になっている。

 とはいえ、主人公は泉水子ではない。真響(まゆら)、真夏(まなつ)、そして真澄(ますみ)の宗田(そうだ)三姉弟だ。三つ子として生まれながら、その家系ゆえに数奇な運命に翻弄されてきた彼らの物語は、本編でもたびたび登場してはいたが、あくまでも本筋と関係のない部分はほのめかされる程度のまま終わっていた。今回はその空白部分がしっかりと語られることになった。

「真響たち宗田三姉弟の背景は、泉水子のRDGシリーズを書きながらすごく自然に出来上がっていったものでした。だから、今回書いたような様々な設定はもともと私の中にはあったのだけれども、本編に直接絡まなければ出さなくていいと思っていたのです」

 本編を未読の読者のために詳細は伏せておくが、この三つ子、とても特殊な存在として設定されている。

「男女混在、しかも一人は……って、すごいものがありますよね(笑)。ファンタジーにおいて、双子が出てくる作品はもうたくさんあって、男女の双子もちょっとマンネリ気味じゃないですか。ならば三つ子にしようと思っただけのすごくシンプルな発想だったし、三つ子の三人目が実は、というのもごく自然に出てきたので、当時は特段ユニークとは思っていませんでした。ただ、異能力を持ちながらも、自分たちの思い通りには制御できない存在として書きたかったというのはあります。三人はともに生まれて育ち、上下関係はない対等かつ親密な存在です。普通以上に仲がいいけれど、本人たちにとってはそれが当たり前。でも、それじゃあいけないんだというのを周りの人間に諭され、突っつかれる。この先、どう転ぶかわからない辺りがまるで泉水子と同じで、下手をすると大変なことになってしまいかねません」

 RDGの世界が抱えたもう一つの地雷。しかし、問題の大きさとは関係なく、彼らが抱える「大人は誰も自分たちのことをわかってくれない」という悩みは、思春期の子どもにとっては普遍的だ。三つ子、特に長姉である真響が葛藤する姿は、多感な時期を過ごそうとしている若い人たちの心に寄り添おうとして描かれたものなのだろうか。

「そこまで意識しているわけではないけれども、若い人を応援したい気持ちはずっと強く持ち続けています。いまだ先が定まらない、大人になりきっていない人たちの気持ちに添いたい。たぶん、私が小説を書く動機は、いつもそういうほうに向かっているんですよ」

■読者と一緒に生きていく そんなキャラクターに

 骨太な物語性とともに、RDGの人気を支える二本柱となっているのが、個々のキャラクターの魅力。荻原さんの元に届くファンレターには、まるで現実の人間の行く末を心配するように、登場人物の将来がどうなるか、やきもきする気持ちを綴ったものも少なくなかったという。

「ラストについても『その先どうなったか知りたいのに!』というご意見をたくさんもらいました(笑)。その気持ちはよくわかります。ただ、私がRDGで書きたかったのは人類の運命ではなく、とてつもなく大きなものと対峙せざるをえない宿命を負った女の子がどう生きていくかという点でした。だから、泉水子にしろ、他の子たちにしろ、まだまだ未来のある登場人物たちが、ずっと読者の心の中に在り続けるような存在でいてくれたら、それが一番うれしいのです」

 そして、何よりも読者に伝えたいことがある。

「もう少し生きてみよう、という気持ちですね。若い人は意外とバッド・エンドも好きなようなんです。『泣ける』とか言って。でも、私は、死に向かう物語ではなく、生きているといろいろと大変だけども、それでもたまにはいいこともあるかもしれないから、もうちょっと生きてみようと思ってもらえるような話を書きたい。そして、生きていくためには、現実に絡め取られない何かがすぐ隣にあるということを想定したほうが、世界のすべてに絶望した時にも、まだ残るもの何かを抱えていられると思うのです。人間同士のコミュニケーションがうまくいかなくても、神霊や人間外のものが周りにいると考えれば、世界の見え方に別の抜け穴があるってことに気づけるかもしれません。読書の世界ぐらい、現実よりも広い場所があるというのをみなさんに見せていければなと思っています」

取材・文:門賀美央子 写真:冨永智子