玉木 宏「原作者の中村文則さんに対する興味が湧きました」

あの人と本の話 and more

2018/1/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌巻頭の人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『悪と仮面のルール』で、ひとりの女性への愛のために、顔を変え、過去を捨て、殺人を繰り返す“久喜文宏”を演じた玉木宏さん。その難役と対峙するため、アプローチしたこととは?

玉木 宏さん
玉木 宏
たまき・ひろし●1980年、愛知県生まれ。98年、俳優デビュー。映画『ウォーターボーイズ』で注目を集め、ドラマ『のだめカンタービレ』で人気を不動のものに。出演作にNHK連続テレビ小説『あさが来た』、映画『探偵ミタライの事件簿 星籠の海』など多数。公開待機作に映画『ラブ×ドック』『ラプラスの魔女』。
ヘアメイク:渡部幸也(ELLA) スタイリスト:上野健太郎 衣装協力:ニット 9万3000円、パンツ 3万3000円(ともに STONE ISLAND /トヨダトレーディング プレスルーム TEL03-5350-5567) ※ともに税別

 悪の心=“邪”を持つ者を送り出す家系に生まれた男は、みずからの運命に抗い、初恋の女性を守るため、13歳の時に父を殺して失踪。十数年後、整形によって顔を変え、別人の仮面をつけて香織の前に現れる――玉木さん演じる“新谷弘一”となった久喜文宏がスクリーンに登場するシーンは鮮烈だ。術後の包帯をほどき、現れたその顔はまさに“仮面”。

「あのシーンでは、僕がよく通っている鍼の先生にお願いして、撮影直前に、鍼を顔中に打っていただいたんです。うまく筋肉を使えないよう、動かしたくても、引きつるような違和感を覚えさせたかったんですね、顔に。そうした技術的な面においてもチャレンジすることができたのは面白かったです」

 玉木さんの、そうした俳優としてのストイックさは、人間の心に潜む闇と葛藤をどこまでも追求した作品そのものと重なる。一瞬たりとも気の抜けない場面の連続。殊に、テログループのメンバー・伊藤=吉沢亮、強大な悪の力を持つ兄・久喜幹彦=中村達也、探偵=光石研、刑事=柄本明との、“ぶつかり合い”とも言える対峙シーンは、舞台を観ているような錯覚にも囚われる。

「文宏は、いつも誰かと1対1で対峙しているんです。そして、その1シチュエーションは長い。いい意味で派手さはなく、互いに向き合って、自分の思いをぶつけ合っている。言葉は多いですが、誰もが真の部分ははっきりとは言わない。そこから自分の気持ちが自然に彷徨っていくような感じが出ていると思います」

 演じるにあたっては、「原作が助けになることが、たくさんありました」という。

「これほどまでに、重厚な小説を書かれた中村文則さんへの興味も湧きました。いったいどんな方なのかと。作品を読む限りでは、“相当、幸せな生活を送られてこなかったんだろうな”と想像してしまいました(笑)。だから撮影現場に中村さんが遊びに来られたとき、つい聞いてしまったんです。“幸せですか?”と、開口一番、失礼な質問をしてしまいました(笑)。ご本人は、あまりにもカラッとした明るい方なので、いったいこの方のどこから、こんな物語が生まれてくるんだろうと思いました」

“幸福は閉鎖だ”。観る人に刻まれてくる、映画のなかの、そのセリフは、原作でも作品の軸となる言葉。このひと言と対峙してから、玉木さんは思考し続けているという。

「“なんだろう?”と考え続けていますね。俳優の仕事でもそういう面があるように、幸せに慣れてしまうと、いろいろな感情に触れることができなかったり、日常のなかでも、どこか悲しい気持ちを感じていないと他人に優しくできない。たとえばそういうことなのだろうかと。実は、先日も中村さんとお会いしたので、この言葉のことをうかがってみたんです。すると“あ、それも一理ありますね”と、おっしゃられて。“あ、正解ではないんだ”と。それだけに、自分のなかに奥深く刻まれる言葉ですね」

(取材・文:河村道子 写真:干川 修)

 

映画『悪と仮面のルール』

映画『悪と仮面のルール』

原作:中村文則(『悪と仮面のルール』講談社文庫)監督・編集:中村哲平 出演:玉木 宏、新木優子、吉沢 亮、中村達也、光石 研、村井國夫、柄本 明 配給:ファントムフィルム 1月13日(土)より全国公開 
●11歳の文宏は絶対的な悪になるために創られたと父から告げられる。父が初恋の女性・香織を損なおうとする計画を知り、父を殺害して失踪――十数年後、彼は顔を変えて別人となり、香織を守るために殺人を繰り返していたが――。
(c)中村文則/講談社 (c)2017「悪と仮面のルール」製作委員会