水道橋博士「人の深みや濃淡を活字で表現したい」

新刊著者インタビュー

更新日:2013/8/9

タレント、エッセイストとして活躍する水道橋博士の初となる電子書籍『藝人春秋』(文藝春秋)。
本書には博士のフィルターを通して、数々の芸人・タレントの人物像がユーモアたっぷりに、そしてときには感動的に描かれている。
電子書籍での配信について、作品への想いなどを取材した。
 

電子書籍版は“メイキング”です

水道橋博士

すいどうばし・はかせ●1962年岡山県生まれ。お笑いコンビ「浅草キッド」のメンバー。身長161cm、体重53kg。液型A型。漫才・コントのほか俳優活動、
ライターとして雑誌にコラムやエッセイの執筆などを行っている。

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――『藝人春秋』は、草野仁、甲本ヒロト、松本人志、ビートたけし……といった錚々たる人物を描いた評伝です。博士の初めての電子書籍ですが、全6回で、1回分だとなんと85円です。3人から5人分の人物評伝が入っていて、しかもこれだけ中身の濃い文章を85円で読めるというのが衝撃だったのですが……価格決めに関しては博士も関わっているのでしょうか。

水道橋: これは俺が決めました。一番安い値段でやりたい、というのがあって。本当は「100円で読める」って言えたらいいなと思ったんですけど、円高で中途半端な値段になった(笑)。

安い値段でやりたかったのは、いわゆる紙の単行本を作る前の、メイキング的な意味合いもあるからです。完成形じゃないというか。

いずれ紙の書籍にするつもりはあるんですが、電子書籍版では、雑誌の連載当時のままを、2人を除いてほぼ時制もいじらずに収録しています。(湯浅卓さん、古舘伊知郎さんだけは今の時制での書き足しがあるんだけど)普段、連載を単行本にする時は、現在の状況を新たに付け加えたりするんですが、今回はあえてそれをせず、最終形じゃない、生の状態で読んでもらおうと。

――それはおもしろい試みですね。電子書籍と紙で違う楽しみ方をしてもらおうと。編集作業がかかっていない分、85円で提供できるんですね。博士は、今回に限らず、『お笑い男の星座』でもご自分でポップを作って販促活動をするなど「売り方」まで見渡して本を作られている気がするのですが。

水道橋: それはありますね。今回、85円にして、しかもツイッターと連動すればどんどん売れると思ったんですけど……思ったより動きが鈍いですね(笑)。

それは自分が意外とツイッターで宣伝やRTをしつこくやれない、というのが大きいんですけど。どうも恥ずかしくてできないんですよ(笑)。

ツイッターは、作家の方にとって本を知ってもらい、売るにはすごくいい媒体だと思うんです。新刊だけじゃなくて、旧作を読んでもらう機会にもなるだろうし。作家って、自分の作品は時間がたっても賞味期限切れは起こしてないって思ってますからね。ツイッターなら、古いものでも自分ですすめられる。

――どんどん自分で宣伝している作家の方もいらっしゃいますが、博士は恥ずかしいんですね。

水道橋: 恥ずかしいです。なんか、逆にフォロワーが多すぎて恥ずかしいっていうのもあるなあ。自分の本のことを語ったら、狙いが明白じゃない(笑)。明白なステマだもん。自分の本じゃなかったらもっとできるのにって思う。

過去には、樋口毅宏『さらば雑司ヶ谷』(新潮社)、春日太一『天才 勝新太郎』(文春新書)、クリストファー・マクドゥーガル/近藤隆文訳『Born to run走るために生まれた』(NHK出版)、とかは、しつこくツイートしました。

この場合は、処女作とか翻訳モノは、もともと基礎票がないだろうと思って。それと頼まれたわけじゃないってのがあって。

あ、一番凄かったのは『ハッブル3D』っていう映画。大阪のサントリーミュージアムで公開していたんですけど、もうすぐ劇場自体もなくなる、という時で僕が見た回は、観客も4、5人しかいなくて。すごくおもしろいから、絶対観に行ってほしくて、ツイッター上の『ハッブル3D』の感想に関しては全部RTするっていうのを続けたんですよ。そうしたら、大阪だけじゃなくて全国から観客が駆けつけて、最終的に満員になった。それでサントリーミュージアムから感謝状をもらったんですよ(笑)。当時の平松大阪市長からもなんの騒ぎだって問い合わせが来たくらい。

心底、ツイッターで訴えかけていれば、人を動かすこともあるんだなって実感しましたね。ただし、これは利害関係がなくて、誰にも頼まれてないことだからできる(笑)。やっぱり動機付けが純粋かどうかも大きいんでしょうね。

「ブログ」と「俺」の間で交信が始まった!?

――ツイッターの活用も素早かったですが、ブログも97年からとずいぶん早くからやってらっしゃいましたよね。

水道橋: ブログもね。芸能界で一番長くやっていると認定された。ちなみに、その15年間、一日も欠かさなかった約5000日の日記の総ヒット数が、ショコタンの一日のヒット数に負けてる!ってのが売りなの(笑)。でも始めた当時は「自分応援団」の団長というか……「自分ファンクラブ」の会報を書いてるみたいな感じで、やっぱりすごく恥ずかしかったですよ。すごく自意識と相談してる感じがしました。

「○○さん、ありがとう」みたいなことを、ここでみんなに見られながら言う自分ってなんなんだろうって。メールで済むことを、わざわざ人に見せたい自分って……みたいなことを考えちゃうんですよ。今はみんなやっているし、誰も自意識と相談なんてしないと思いますけどね。

ある時、ブログで日記を一日も欠かさず書き出したら、だんだんと起床から寝るまで、食事のメニューとか全部ほんとのことを書かなきゃ気が済まなくなって来て。でも全部書くはずなのに、女性関係のことは書かない自分、みたいなものが出てくるじゃないですか。そうすると、ブログと俺との間で「お前はうそつきかどうか」みたいな交信が始まっちゃって(笑)。嘘を書くのがいやだから、風俗とか浮気をやめるようにまでなった。今はもうその病気からは離れましたけどね(笑)。

まあでも、日記みたいなものを克明に時間軸に沿って書いておくと、後から文章を書くのには絶対いいはずなんだけど。あの人とこの時会って、俺はこう思ったはずだ、みたいな、ことを思い出しやすいんですよ。

――なるほど、『藝人春秋』だったら、僕が会っている人物評だから日記を記憶を呼び起こすきっかけとして使えると。博士の文章の具体性は、そうやって引き出していっているんですね。

水道橋: そうですね。『藝人春秋』だったら、僕が会っている人物評だから「あの人と、あの時、あの店で飲んだ」っていうのが日記上に書いてあるから、そこから色々と思いだして、必要な情報を問い合わせて……とか、そういうこともできますから。