松坂桃李「沢尻さんとのシーンは大事なものばかりでした」映画『不能犯』松坂桃李×沢尻エリカ対談

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公開日:2018/2/1


 2月1日(木)より公開の映画『不能犯』。原作は、依頼者の歪んだ思いに応じ、思い込みやマインドコントロールという特殊能力で立証不可能な殺人を行っていく宇相吹(うそぶき)を描いた同名サスペンスマンガ(宮月新:原作、神崎裕也:作画/集英社)。『貞子vs伽椰子』などを手掛けた白石晃士氏が監督を務めたことでも話題を呼んでいる。公開を記念して、宇相吹役の松坂桃李さんと、彼の特殊能力が通用しない刑事・多田を演じた沢尻エリカさんにお話をうかがった。

■脚本を読んで二人とも「この映画はいける」と思った

――松坂さんはもともと、『不能犯』の作画者・神崎さんの描いたマンガ『ウロボロス-警察ヲ裁クハ我ニアリ-』がお好きだったんですよね。『不能犯』も読まれていたんですか?

松坂桃李(以下、松坂) 読んだのはお話をいただいてからですね。最初は、映画というよりドラマ向きだなという印象で。1話完結型で事件が起こり、その都度登場する宇相吹の謎と展開が気になっていくスタイルだったんで。宇相吹は、特殊なマインドコントロールによって欲にまみれた人間の感情を増幅させて死に追いやっていく。なんていうか、『笑ゥせぇるすまん』を現代風に味つけした感じがしました。でも脚本を読んでみたら、エピソードを繋ぎあわせた一本の映画として完成度が高かったんです。原作には宇相吹も含めて愛嬌のある描写が多いんですけど、そういう部分はそぎ落としてダークな部分一色で攻めていた。これは映画としてうまくいくな、と思いました。

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沢尻エリカ(以下、沢尻) 私は脚本を読んだときはただ新鮮に、「これは面白い!」とのめりこんじゃいました。原作では私の演じる多田刑事、男の人なんですよね。宇相吹のビジュアルは知っていたから、松坂さんを見たときは「原作そのままじゃん!」って思いました。

松坂 原作と全然ちがうビジュアルにするか完璧に寄せていくか、作品によってどちらがいいかはちがうと思うんだけど、今回は後者だと思ったので。青年誌は寄せたほうがいいものが多い気がします。

沢尻 脚本は面白いし、松坂さんはぴったりだし、私も「これはいける!」って思いました。……言い方、軽いですかね?(笑)

松坂 全然、大丈夫。俺も思った。いけるっしょって(笑)。

■不敵な笑みとアクション。互いに初挑戦の役づくり

――松坂さんはダークヒーロー、沢尻さんは刑事役に初挑戦ですね。

沢尻 いやもう、大変でした。アクションも多かったので。

松坂 多かったねえ。

沢尻 でも私、ずっとアクションやりたかったんです。だから最初にこのお話いただいたときも、お受けすることに迷いはなくて。でも始まってみたら想像していた以上にむずかしかったんですよね。映像をみても、殺陣師の方にお手本みせていただいても、最初は「いけるかな」って思うんです。あまりにスムーズにみなさん、動いているから。でも、いざやってみるとなると、これまでそんな身体の使い方したことないから全然思ったように動けない。手錠をかける動作ひとつとっても、なかなかうまくできなくて。

松坂 手錠は案外むずかしいんだよね。

沢尻 慣れた感じでやらないといけないし。ナイフを刺すときも、位置や角度で見え方が変わってきちゃう。アクションしながらそういうことも気をつけなきゃいけないから、よけいに難しかったです。何回もやりなおして、試行錯誤のなか完成した感じですね。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――冒頭から全力疾走で犯人を追いかけていますし、アクションは見どころのひとつでした。なにか特別に体力づくりされたりしたんですか。

沢尻 もともとトレーニングは定期的にやっているので、特には……。でもストレッチはいつも以上に入念にやりました。一度、足をケガしてしまったことがあって。病院で、階段をかけあがるシーンで、朝イチだったんですよね。

松坂 朝イチのダッシュはきついなあ。

沢尻 歩けなくなって、やばい、どうしよう、と。テーピングで固めて冷やしたら大丈夫になったんですが、やっぱりストレッチはしとかなきゃなって思いました。

――松坂さんは何か役づくりしたことはありますか。

松坂 鏡の前でひたすら口角をあげる練習をしてましたね(笑)。

――宇相吹の、あの不敵な笑みは劇中、かなり印象的でした。それこそ『笑ゥせぇるすまん』みたいに、彼の得体のしれなさが表れていて。

松坂 普通しないですよね、あんな顔(笑)。初めてです、あんなに口角あげたの。人間、こんなにあがるものかと自分で驚きました。でも演じていると、宇相吹がニタァと笑う気持ちはなんとなくわかりました。自分のいざないによって、他人が思うとおりに操られて堕ちていく。その瞬間をまのあたりにすると、出ちゃうんですよね。あの、ニタァとした笑みが。それで思う。「ああ、やはりあなたもですか。残念ですね」って。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――完全に宇相吹に同化されていたんですね。

松坂 そのニュアンスをつかんでからも、撮影前はけっこう練習してましたね。こう、指でぐいっとあげたりして。

沢尻 現場ではそんな練習風景見たことないし、もう完全な宇相吹だったんで、近づきがたいオーラが放たれてました。すごく怖くて、どう接していいかわからなくて、近づきにくいなあと(笑)。

松坂 申し訳ない(笑)。

沢尻 撮影が始まったあと、監督を含めてみんなでごはんを食べにいったとき、気さくに話してくれたから、「よかった、ちゃんと血の通った人間だった(笑)」って安心しました。

松坂 やっぱりこういう役なので、現場であんまり和気あいあいとするわけにもいかなくて。僕は沢尻さんがスタッフや刑事チームが楽しそうに話してるのを、ちょっと孤独に眺めていましたよ。基本的に僕、刑事チームが来ると帰るんで。

沢尻 追われる身だもんね。

松坂 同じシーンで絡むのもほとんど沢尻さんだけだったしなあ。

■“流されまくり”な沢尻さんに、松坂さんも驚き

――沢尻さん演じる多田は、宇相吹の特殊能力が効かない珍しい相手。だからこそ唯一、宇相吹を止めることができる。二人の因縁は物語が進むにつれて深まっていきます。共演シーンの思い出などはありますか?

松坂 宇相吹がこれまで出会ってきたのは、欲に溺れてしまう人間ばかり。復讐される側だけでなく、する側も殺意に溺れるという意味ではみんな同じなんです。でも多田はちがう。正義感が強くて、自分の感情に勝つことができる。たぶん宇相吹は、そういう人にずっと会いたかったんだと思うんです。だから「これはおもしろいぞ」と興味を持っている。その感情はとても新鮮でしたね。だから、沢尻さんとのシーンは僕にとって大事なものばかりです。たとえば、多田をナイフで刺そうとするところとか。

沢尻 クランクアップの日だ。

松坂 そうそう。あそこは、自分の能力が本当に効かないんだって思い知るシーンだから、印象的だったなあ。

(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

――正義感の強さ以外に、多田には、宇相吹のマインドコントロールが効かなかった理由は何だと思いますか。

沢尻 とにかく芯が強い女性ですよね。正しいと思うこと、守らなきゃと思うことがぶれない。自分を持っているというのがやっぱり強さなのかなあと思います。他人からもたらされる概念にふりまわされない、だから宇相吹にもコントロールされない。

松坂 確かに、宇相吹は概念的な存在ですよね。ぼくは彼を、あまり人間としてとらえていなくて。欲をたくさん持った人の現身(うつしみ)のような気がする。だから、欲にまみれた人間がいなくなったとき、彼も消えてしまうんじゃないのかな。多田に「僕を殺してくださいよ」って迫るのも、どこかでそういう人が増えてくれればいいという希望を見出しているのかもしれない。

沢尻 多田みたいに自分を貫けたらかっこいいですよね。こんな女性がいたら、憧れる。わたしは全然ちがうんで……。

松坂 え、そうなの?

沢尻 もう、流されまくりだから。

松坂 流されまくり!

沢尻 ほんとどうにかしてって思う(笑)。

松坂 意外だなあ。そんなふうに全然見えないのに

――劇中の宇相吹の台詞で「脆さと強さ、どっちが人間の本質かを見極めたい」というのがありますけども、お二人はどちらだと思いますか。

松坂 強くありたいと思う人はたくさんいるんでしょうけど、僕はほんと、自分に弱い部分ばかりなんで……。最終的には、自分の敵は自分だって思いますよね。毎朝、仕事に行きたくない、もうちょっと寝たい、とか思うし。

■強くありたいけど脆い自分。その隙をついてくるのが宇相吹。

――そういうときはどうやって自分を奮い立たせるんですか。

松坂 遅刻するとマネージャーさんが怒るからなあ、怒られるのはいやだからなあ、しょうがない、起きるか、って(笑)。この映画にもあるように、自分に勝てるというのがやっぱり強さなのかなと思いますね。朝起きるっていうのはまあ、めちゃくちゃ低いレベルの話だけど(笑)。結局は何事も精神状態に左右されるし、何があっても前向きに自分の心をもっていけるかどうか、前に進もうとできるかどうか、が分かれ目のような気がする。

沢尻 私も、脆いなあって思いますね。

松坂 やっぱり、自分ではそう思っちゃうよね。

沢尻 でも脆いからってあきらめるのはいやだなと思う。強くなりたいし、ちょっとでも今の自分よりよくなれるように努力をしないと、って。

松坂 えらい。

沢尻 努力し続けることで自信に繋がっていくのかなと思うし。たとえばトレーニングを続けて身体が変わってくると、だんだん自信がもてるようになってくる。精神的なことでも、私はこう生きるぞ、っていう信念を持ち続けることで強くなっていくのかなと。ちっちゃくても努力を積み重ねることが大事かなって思うけど、なかなかね。

松坂 そのちっちゃな努力がむずかしい。

――強くありたいのに、なれない。ちょっと怠けたり、流されたり。そのみんなが当たり前にもっている隙を突いてくるから、誰も宇相吹からは逃れられないんですよね。

松坂 自分の欲や、背負っている業に勝てるかどうか。それを多田たちだけじゃなく、観客のみなさんもぞくぞくしながら体感できると思います。スピーディな展開にあっというまに呑み込まれますし、観終わったあとはいろんな話ができるんじゃないかな。意外と、デートムービーにもなると思うんです。

沢尻 アクションも見ごたえ充分です。幅広い世代に楽しんでもらえるはず。

松坂 うん。子供連れでも楽しめそう。あとはもちろん、白石監督ファンにも。監督ならではの描写がいっぱいあるので、通の人は観て、ぜひニヤリとしてください。

取材・文=立花もも
写真=GENKI


■映画『不能犯』


出演:松坂桃李 沢尻エリカ
新田真剣佑 間宮祥太朗 テット・ワダ 菅谷哲也 岡崎紗絵 真野恵里菜 忍成修吾
水上剣星 水上京香 今野浩喜 堀田茜 芦名星 矢田亜希子 安田顕 小林稔侍
原作:『不能犯』(集英社「グランドジャンプ」連載 原作・宮月新/画・神崎裕也)
監督:白石晃士 脚本:山岡潤平・白石晃士 音楽:富貴晴美
主題歌:「愚か者たち」GLIM SPANKY(UNIVERSAL MUSIC)
製作:岡田美穂 村田嘉邦 勝股英夫 水野英明 木下暢起 三宅容介 森川真行 
エグゼクティブプロデューサー:吉條英希 企画・プロデュース:中畠義之 森川真行 
プロデューサー:大畑利久 石塚清和 共同プロデューサー:宮城希 清家優輝 
ラインプロデューサー:小泉朋 撮影:高木風太 照明:豊見山明長 
録音:石貝洋 美術:中川理仁 装飾:藤田徹 VFXスーパーバイザー:鹿角剛 
スタイリスト:中井綾子,長瀬哲朗(沢尻エリカ担当) ヘアメイク:村木アケミ 編集:和田剛 
音響効果:岡瀬晶彦 スクリプター:阿保知香子 助監督:吉村達矢 制作担当:鍋島章浩
製作:関西テレビ放送 博報堂DYミュージック&ピクチャーズ エイベックス・ピクチャーズ BigFace 集英社 
ポニーキャニオン ファインエンターテイメント 制作プロダクション:ファインエンターテイメント 配給:ショウゲート
(C)宮月新・神崎裕也/集英社 2018「不能犯」製作委員会

2月1日(木)全国公開
公式HP:funohan.jp
公式Twitter:@FunohanMovie