広末涼子「萬斎さんを違う空気にしてみたい」

あの人と本の話 and more

2018/2/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌巻頭の人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、舞台『シャンハイムーン』で中国の偉大な文学者・魯迅の妻・許広平を演じる広末涼子さん。「女優として幅広い役が演じられるようになった今が、とても楽しい」と語る。これまでの道のり、そして5年ぶりの舞台にかける想いを訊いた。

広末涼子さん
広末涼子
ひろすえ・りょうこ●1980年高知県生まれ。94年CMデビュー。97年、初主演映画『20世紀ノスタルジア』で各映画賞の新人賞を総ナメに。99年『鉄道員』で日本アカデミー賞優秀助演女優賞、08年『おくりびと』で日本アカデミー賞優秀主演女優賞、12年『鍵泥棒のメソッド』でブルーリボン賞助演女優賞などを受賞。
ヘアメイク:山下景子 スタイリング:道端亜未 衣装協力:STAIR アガット NOJESS
ヘアメイク:渡部幸也(ELLA) スタイリスト:上野健太郎 衣装協力:ニット 9万3000円、パンツ 3万3000円(ともに STONE ISLAND /トヨダトレーディング プレスルーム TEL03-5350-5567) ※ともに税別

「5年もやってなかったなんて、お恥ずかしいんですが、舞台は大好きなんです。ライブ感はもちろんのこと、それに向けて筋トレしたり、健康管理も大事になってきますし、みっちり稽古もして、日々発見もあって、贅沢だなって思います」

 野村萬斎はじめ、鷲尾真知子、土屋佑壱、山崎一、辻萬長と手練れぞろいの共演者たちに「ワクワクしています」と意気込みを語る。

「萬斎さんとは先日ポスター撮りでお会いしたんですが、想像通り、ぴりっと透き通るようないい緊張感のある方でした。私が演じる広平は、旦那さまの3歩後ろをついていくような古風な一面もあれば、堅物のちょっと困ったさんをてのひらで転がすようなしっかりした一面もある奥さんで、魯迅の本妻への思いを知った時に嫉妬やせつなさも見えてくる。それにつれて夫婦のかたちも変わっていくと思うし、多面的で人間味あふれる女性像は、観てくださる方たちにも、きっと共感してもらえるんじゃないかという予感があります」

 弾圧の吹き荒れる上海。国民党政府より逮捕令が出た魯迅(野村萬斎)は、広平(広末涼子)とともに日本人夫婦が営む書店に身を潜める。

「井上ひさしさんの脚本も栗山民也さんの演出もすごく楽しみなのですが、萬斎さんが『対峙する人で芝居は変わるよね』とおっしゃっていたのが意外で。こう言っては失礼かもしれませんが、萬斎さんは誰を相手にしても変わらない印象があったんです。だったら萬斎さんを違う空気にしてみたい、違う萬斎さんを見てみたいって、楽しみがもうひとつ増えました」

本誌では、井上雄彦作品について熱く語ってくれた広末さん。

『バガボンド』にちなんで「広末さんが思う〈強さ〉って何ですか」と水を向けると、少し考えて「愛すること、ですかね」という答えが返ってきた。

「武蔵は、まず自分を愛せなかったから弱いんだって、沢庵和尚は見抜いていましたよね。自分をまず愛せないと、人のことも愛せない。おつうさんに向かっていけないのもそういうことだと。自分より大切なものができたら無敵だなと。たとえば母親なら子ども。愛することが強さなのかなと、今は思います」

「じゃあ、広末さん、今、無敵じゃないですか」と言ったら、「アハハ。そうですね。怖いものなしです!」と満開の笑顔になった。

「息子たちを見ていると、私よりずっといろんなマンガを読んでいるし、多感な時期に出会ったものはすごく鮮明なんだろうなって。私も10代の頃は、感覚的にはとらえられるんだけど、自分では表現できない気持ちを言葉にしてくれているような本を探していた気がします。高校生の頃、この仕事を始めて、脚本から感情を読み取って演じるようになったので、プライベートで読書する時はそこから離れたくて『ソフィーの世界』や『存在の耐えられない軽さ』のような、ちょっと哲学的なものを読んでいました。その頃、読んでいた本は、受験勉強でもないのに線がひいてあるんですよ。同じことをいつも言ってるようじゃダメだ、自分のものにしなくてはいけないと。たぶん必死だったんでしょうね。二重線だったり赤線だったり、今となってはどういう意味でひいたのかもわからない線でいっぱい。きっとそうやって自分の言葉を一生懸命探していたんだと思います」

 当時は女優としても「何か枷(かせ)がなかったら、やる意味がない」「メッセージがないものはやってもしょうがない」と自分を追い込みがちだったという。

「いろんな葛藤や不安があって、むだに重い鎧を勝手に着ちゃってたんだと思います

 視点が変わったのは、結婚して初めて仕事から離れた20代前半。

「昼間に再放送している連ドラとか2時間ドラマを観たら、すっごく楽しかったんです。ホームドラマって大事だなって。私、観るのが大好きだったから、この世界に入りたかったんだと、その時に思い出させてもらったんです。それなのに、観る時間もなくて、へんに吸収しなくちゃって、へんに目標を立てて自己満足でしたね。好きだからやってたのに、好きなことを忘れてたっていうのが本末転倒だったなと。そこからなんにでもチャレンジしたいという気持ちになれたし、この仕事ができることが本当にありがたいって思うようになりましたね」

 幅広い役柄を演じられるようになった30代、原点回帰して初心にまっすぐ向き合える今がある。

「この仕事を始めた時から自分の中に一貫してある想いというのは、実は変わっていないんです。自分が女優という夢をかなえてもらった恩返しではないけれど、観てくださる方の原動力になりたいですし、パワーとか元気とか信じる気持ちに通じるものを伝えたい。もちろん、いつもハッピーエンドのものができるとは限らないけれども、エンターテインメントの世界で女優という影響力のある仕事をさせてもらっているからには、希望の光になるようなポジティブなものを届けたい。甘いと思われるかもしれないけれど、フィクションの世界だからいいんじゃないかなって。そこはデビューした頃からぶれずにあるし、貫いてもいいところだと自分では思っています」

(取材・文:瀧 晴巳 写真:鈴木慶子)

 

こまつ座&世田谷パブリックシアター『シャンハイムーン』

こまつ座&世田谷パブリックシアター『シャンハイムーン』

作:井上ひさし 演出:栗山民也 出演:野村萬斎、広末涼子、鷲尾真知子、土屋佑壱、山崎 一、辻 萬長 2月18日(日)~3月11日(日) 世田谷パブリックシアター 以降、地方公演あり 
●『阿Q正伝』などで知られる中国の偉大な文学者・魯迅(野村萬斎)は文学革命、思想革命の指導者でもあった。国民党政府より逮捕状が出された魯迅は妻の広平(広末涼子)とともに内山夫妻が営む書店に身を潜める。激動の中国を舞台に魯迅とその妻、彼の臨終に立ち会った4人の日本人が繰り広げる、おかしくも哀しい物語。