「平日の睡眠不足」「休日の寝溜め」は危険信号! 精神科医が教える心のケア

ビジネス

2018/2/13

「働き方改革」やAIの進化で、この先、働き方はどう変わっていくのだろう。社会の変化にキャッチアップするのも大事だが、忘れてはいけないのは自分のメンタルヘルス。変化の激しい時代だからこそ、どう気をつけるべきか。新時代を生き抜くヒントを探るべく、職場の人間関係解決法に関する著書もある精神科医の西多昌規先生に話を聞いた。

■自分への客観的な意見をくれる職場仲間を作ろう

――最近、臨床の現場に寄せられる仕事の悩みは変わってきていますか?

西多昌規先生(以下西多) :以前から、休日に出勤しても仕事が終わらないという業務量の多さに関する悩みは多かったのですが、最近はそこに時短の流れが加わって、業務量は変わらず労働時間だけ減らされている現状がありますね。セキュリティ問題から家に持ち帰ることもできず、破綻するケースが30〜40代の中間層に多い。

 そういう状況には自己啓発的な努力は限界ですし、とにかく健康に気をつけて「直接の上司がダメならその上に言わないと難しい」と助言するくらいしか手がない。以前のように労働時間が長いのであれば、労働基準監督署に訴えることもできたでしょうが、いまは見かけ上は労働時間が少なくなっていますから隠れた職場ストレスが多くなっていますね。

――なるほど。そういう環境は日本特有だと思われますか?

西多 :そうかもしれません。日本はまだ、上司が休まないと休めないとか、上司が帰らないと帰れないみたいなところがありますから。その点、外国人ははっきりしている。実際、みなさんの職場にも外国人が増えていると思いますが、彼らに指示を出す場合は「適当にやっておけ」みたいなことは通用しませんし、具体的な指示内容や意味を説明しなければ、「これは私の仕事ではない」と返されることもある。ある意味、今後は日本人も彼らのように意識的になるといいのかもしれません。

――たしかに「上司に倣う、従属する」という意識を持ちやすいですね。実際、ハラスメントやマウンティングという上下関係に起因する現象も目につきます。

西多 :被害者が声をあげやすくなり可視化されたのでしょう。「この人はハラスメントをしているのでなんとかして」と声をあげれば、たとえば大学なんかだとハラスメント委員会が対応してくれるようにもなりました。そうした機関はきちんと調べますから、「毎回怒られている」といった曖昧な状態ではなく、文書を残したりしたほうが効果的です。

 ちなみに周囲の人にも話を聞いたところ、ハラスメントを訴えた人が感情的になっていただけだったというのもよくある話です。客観的に意見を聞ける仲間を職場に作って、自分が主観的になり過ぎていないか振り返るのも大事ですよ。

■仕事のモヤモヤに使える「自分ふりかえり表」

――客観的な視点から自分を点検するわけですね。よく雑誌等で「うつ病予防にセルフチェックをしましょう」というのも見かけますが、そうやって自分自身の確認を心がけるのは大事でしょうか?

西多 :うつ病予防のチェックテストはネットにも多くありますね。たとえば次のようなサインが出たら利用するといいと思います


・平日の睡眠不足と休日の3時間以上の寝溜め
・日中に激しく眠くなる
・遅刻、欠勤が増えてきた

 これらは明らかに睡眠不足が進んでいるサインですから、思い当たったらセルフチェックをしてみるといいでしょう。なお、そうしたテストの結果次第では「気軽に医者へ」とあったりしますが、その前に休暇をとるなど自分でも工夫してみてください。気軽に医者にかかることで不用意に薬を出されてしまい、一生薬から抜けられなくこともないわけではありませんから。もちろん睡眠障害には医療的な介入が必要なこともあります。寝不足が進み過ぎると自分に問題があるかどうかもわからなくなりますし、最悪、過労死や自殺に進んでしまうこともありますから。

――「なんとなく仕事でモヤモヤを抱えている…」という声も聞きます。そうしたモヤモヤの原因は自分なりに分析したほうが前向きになれるものでしょうか?

西多 :実は人間というのは無意識にいやなものから目を背けているもので、自己分析とは自分でそれを直視するということですから、逆に落ち込むかもしれません。むしろそういう場合には認知行動療法を取り入れるといいでしょう。簡単な表を作って、左から「今日1日にあったいやなこと」、次に「その時の気持ち」、次に「別の考え方はなかったか」、最後に「もっと合理的思考はなかったか」と4項目で行動を細かく分けていくんです。

――「自分の行動ふりかえり表」みたいなものですね!

西多 :そうです。これを1日1回でも週に何回でも、モヤモヤしたときに作ってみましょう。うつ病の人にも使えるエビデンスのある方法ですが、実はスポーツ選手のメンタルトレーニングにも応用されていて、元気な人のメンタルヘルス維持にも使える方法です。7項目くらいに細かくするものもありますが、詳しいやり方はネットにも出ているので参考にしてください。専用のアプリもありますよ。

■「誰とでもうまくやろう」と思い過ぎなくて大丈夫

――最近は大人の発達障害にも注目が集まっています。職場のダイバーシティ化が意識される中、そうした認識も大事ですよね。

西多 :発達障害の認識が広まったことで「生きやすくなった」という人はとても多い。かつては受け入れる側も「これはどう接したらいいのか」と戸惑っていたわけですし、双方にメリットがあります。働く環境をよくしていくには、こうした知識を誰もが押さえておくのは必須でしょう。

――一方で、先生の著書の『職場にいる不機嫌な人たち』(KADOKAWA)で、マイナスを撒き散らす不機嫌な人と距離をとるべきなど、「調和」の逆メッセージが新鮮でした。

西多 :その本を書いた3、4年前は、まだ日本的な「和」が大事で、どの人ともうまくやることを前提に「適当な距離を」としましたが、最近は距離どころか話もしないほうがいいと思っています。凄惨な事件の犯人など、明らかに「ヤバい」人はいますからね。危ない人をうまく察知して、そういう人と出会わない・話さないのが大事な人間関係のテクニックになってきました。

 危険な人とは適当な距離はとれませんし、むしろ適当な距離をとろうとしたらうつ病になってしまうこともあります。ただDVをする人は総じて外ヅラがいいように、危ない人は外見だけではわからないもの。見極めには社会経験が必要な部分もありますが、少なくとも「誰とでもうまくやらなきゃいけない」と思い過ぎないほうがいいでしょうね。誰とでも仲良くないとダメなのではなく、話さない人がいたっていい。

――なるほど。「ダイバーシティ」というと、つい「コミュニケーション」に力点がいってしまいますが、そういう割り切りもありですね。

西多 :もちろんコミュニケーションは大事です。就職の現場などで「コミュ力が必要」と強調されることもありますし、そういうタイプが好まれる面もあるでしょう。とはいえ友達は少なくてもいい学生はいますし、いろいろ繊細になってきた時代だからこそ、コミュ力だけで一点突破しようと思っても逆に難しいところもある。さまざまな力で世の中は成り立っている、さまざまなタイプが共存しているという現実をしっかり自覚しておくのが、まずは大事でしょうね。

西多昌規先生

文=荒井理恵