水道橋博士「日常をドラマチックにしたいから、わざと自分で“劇場”を作ったりする。」

新刊著者インタビュー

更新日:2013/8/9

タレント、エッセイストとして活躍する水道橋博士の初となる電子書籍『藝人春秋』(文藝春秋)。
本書には博士のフィルターを通して、数々の芸人・タレントの人物像がユーモアたっぷりに、そしてときには感動的に描かれている。
電子書籍での配信について、作品への想いなどを取材した。
 

人間の「春」と「秋」の部分を書いた

水道橋博士

すいどうばし・はかせ●1962年岡山県生まれ。お笑いコンビ「浅草キッド」のメンバー。身長161cm、体重53kg。液型A型。漫才・コントのほか俳優活動、
ライターとして雑誌にコラムやエッセイの執筆などを行っている。

advertisement

――『藝人春秋』は、これまでお書きになったものと比べても、笑いにプラスして「泣き」の部分と言いますか、ぐっとくる話が多かったように思います。1冊にまとめる時に、そのあたりの色合いを意識した部分はありますか。

水道橋: もともとベースは高田文夫先生が編集長の『笑芸人』に連載していたものがベースなのね。その元原稿は、芸人の裏側的なもので、ちょっと泣きもあるシミジミな文章なの。幻冬舎の編集者が切り抜いて持っていてくれたり、いろんな出版社から単行本化を言われてたけど、結局、文藝春秋でやることになって。

それで『藝人春秋』っていうタイトルにしてから、ひっぱられているところはあるかもしれないですね。文藝らしさ、「春」と「秋」の部分を出してるというか。もし『芸人バカバカ狂騒曲』みたいなタイトルだったら、泣きの部分は減らしたと思うしね(笑)。でも、基本、ホラ話が好きだったり、三又又三みたいなダメ芸人のバカ話や、エロネタも多いし、桑野信義さんの回とか、掟ポルシェの回とか、下半身のことしか書いてない(笑)

――特におすすめしたい回はありますか?

水道橋: 石倉三郎さんの話とか……。甲本ヒロトとか。。

――石倉さんの話、とてもよかったです。「辛抱ってのは、辛さを抱きしめるってことだからな。今はひとりで抱きしめろよ」とか名言が多かったですね。

水道橋: 石倉さんって、もともと魅力的なんだけど、何気なく、ああいう名言を言うよね。いや、言うようにしてる気がするな(笑)。時代劇に出てるうちに、キメ台詞をぱっと作れる人になったのかな。

今回、石倉さん以外にも、ヒロトなんか誰がインタビューしても名言連発ですよ。彼は言霊となって届くからね。「武と人志」の最後の一言とか、間違いなく決め台詞ですね。もし、たけしさんの評伝書くならタイトルにしたいほどに。

――ほかにも甲本ヒロトさんの回に出てくる立川談志師匠の「添い遂げてくるとねぇ、かけがえがなくなるんですよね」だとか、名言が本当にたくさんありました。

日常を「劇」として捉えるんです

――やはり普段何気なく話を聞きながらも「今のいい発言、いただきました!」と思ったりもするんですか。

水道橋: ありますね。その場で”レコーディング”してる時がある。何回も頭の中でその言葉を繰り返して「おぼえとこう」と思う。前は自分が書き手であることを意識していなかったですけど、今はこうやって活字で発表する場があるから、普段から結構意識していると思う。

なんかね、日常を「劇」として捉えようという気持ちがあるんですよ。日常をドラマチックにしたいから、わざと自分で「劇場」を作ったりする。

湯浅さんも、なんであんなにおもしろい言葉が出るかっていうと、こっちが劇場を作って、セリフを言わせてるからなんですよ。今はあの人がそんなにおもしろいことを言えなくなったのは、誰も劇場を作っていないから。僕は共演している時からそういう空間に彼を追い込んで、ああいう大ボラが出るようにしていた。ふだんから、日常の中でもやってますね。おもしろいことを言わせる劇場を作るのか、心に響くことを言わせる劇場を作るのか、自分の中で設定してますから。

――常にそういう意識で日常を見ている。

水道橋: そうですね。今、この瞬間もどこかで劇場を意識していますよ。
『お笑い男の星座』では、編集者の目崎さんのことを書くぞ、と決めたら、そこからもう設定が始まっている。日ごろから彼のセリフを拾おうとするし、話をしながらも、ここは使えるかもとか思っているし。

爆笑問題といじめ問題」(第6回に収録)でいうと、あきらかにあれを書いていた頃は、「いじめ問題」の劇場を自分の中に設定してましたよね。ばらばらにある出来事や人の話を、いじめ問題というキーワードで拾っていく。

――なるほど、敏感に反応できる状態に、自分を作っておくということですね。

水道橋: そうそう。だから「爆笑問題といじめ問題」の中に、急に「世界は、遊びとは言えない殺し合いのようなキャッチボールなんだ」っていう大槻ケンヂのワンフレーズが入ってきたりするけど、あの台詞は確実に拾っているな。

僕のなかでは、最初はこれ、ボツ原稿だったんですよ。あの時はあまりにもまとまりのない文章だなって思ってたけど、今回読み直してみたら、ちゃんと「いじめ問題」劇場を作って、いろんなところから言葉を拾ってたんだなってわかって、おもしろかったですね。