松坂桃李「他人に見せることで昇華する感情をきちんと受け止めること。それがリョウを演じるなかで、大切にしていた心情でした」

あの人と本の話 and more

2018/3/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『娼年』で、“娼夫”リョウを演じた松坂桃李さん。センセーショナルな性描写と、そこに存在する優しく繊細な心理を紡いでいくなかで、自身が見つめていたものとは――。

松坂桃李さん
松坂桃李
まつざか・とおり●1988年、神奈川県生まれ。2009年、俳優デビュー。出演作に、映画『日本のいちばん長い日』『キセキ―あの日のソビト―』『彼女がその名を知らない鳥たち』『不能犯』、大河ドラマ『軍師官兵衛』、連続テレビ小説『わろてんか』、ドラマ『ゆとりですがなにか』など多数。公開待機作に映画『孤狼の血』(5月12日公開)がある。
ヘアメイク:高橋幸一(Nestation) スタイリング:伊藤省吾(sitor) 衣装協力:シャツ 3万3000円(フーワット) 価格は税別

ストーリーの半分以上を占めるのは、圧倒的なリアリティと繊細さで表現されるセックスシーン。これまでも自身の印象を塗り替えていくごとく、様々な役に果敢に挑み続けてきた松坂さんだが、本作は

「完成作品を観たとき、“演って良かった”と思いました。一昨年、同じ役を演じた舞台では、表現しきれなかったことや、映像作品ならではのものをプラスしたことによって、監督の三浦大輔さんもおっしゃるように、この映画で“『娼年』という作品”が完成したのだ、と確信しました」

 舞台でもタッグを組んだ三浦×松坂コンビが、映像という表現のなか、新たに追求していったのは、肉体を通したコミュニケーションの、その内部にある繊細なやりとり。はじめは“女なんてつまらない”と言っていたリョウが、女性たちと身体を重ねるたび、変化していく、こまやかな表情と内面の成長だ。

「身体と身体のコミュニケーションって、お互いの柔らかい部分を提示し合うところがあると思うんですね。隠している欲望とか、触れられたくない、他人から何か言われたくない部分が、人には絶対にあるような気がする。それを他人に見せることによって、自分のなかの尖った想いや、傷が昇華されていくようなところがあると思って。リョウを演じているとき、僕が心情として持っていたのは、そうしたものをきちんと受け止めたい、ということでした。そして、相手の発信を見逃さない、ということ。より細かい部分のところを、丁寧に掬っていく。それがリョウを演じるなかで、僕が大事にしていたところだったのかな、と思います」

 ある条件でしか快感を得られない40代の女性、出産後、夫から求められなくなったセックスレスの主婦、上品な装いをした未亡人の老女……様々な女性たちの欲望と、その奥にある想いにリョウは真摯に向き合っていく。

「どんな女性がいるのかも知らないし、知ろうともしなかった彼が、様々な女性と出会うことで、“あ、こんな女性もいるんだ”“こんな想いを抱えているのなら、こうしてあげたい”と、人としての根本的な優しさがどんどん大きくなっていく。そして、どんな立場であっても、どんなに年齢を重ねていたとしても、女性は平等であるということを彼は体現しているんですね。70歳を越える女性とも、娼夫として関係を持つリョウですが、僕自身、演じるなかで、“そうだよな”と納得した部分があって。いくら年齢を重ねても、女性は“女性”であることに変わりはない。性の部分を出す機会が単純になくなっていったり、出す相手がいなかったり、ということだけだと思うんです。そうしたことを描き出した、石田衣良さんの原作は、すべての女性が性に対して、平等であるということを表現している作品なのだと改めて感じました」

 撮影は、肉体的にも、精神的にも、“過酷”の連続であったという。

「だんだん感覚が麻痺していったというか。その世界観に入り込める麻痺の仕方でしたね。それは三浦さんの現場だからなのか、『娼年』という作品ゆえなのか、もしくは両方のせいなのか、わからないのですけれど」

これまでの映像作品やセックスの描写で、表現されてこなかったものを、この映画で実現したいという三浦さんの想いのもとに、「スタッフもキャストもまるーい円になっていったような」現場であったという。

「近年なかなか観られないような日本映画になったと感じています。そうした作品に参加することのできた喜びも。そして僕は、しばらく濡れ場はやらないんじゃないかな、とも思っています。この映画で演じた分くらい、そう、多分、7、8年くらい(笑)」

(取材・文:河村道子 写真:干川 修)

 

映画『娼年』

映画『娼年』

原作:石田衣良(集英社文庫) 監督:三浦大輔 出演:松坂桃李、真飛 聖、冨手麻妙、猪塚健太、桜井ユキ 配給:ファントム・フィルム 4月6日(金)よりTOHOシネマズ新宿ほか全国ロードショー 
●会員制ボーイズクラブのオーナー・御堂静香に誘われ、“娼夫”リョウとなった大学生・領。様々な女性たちと身体を重ねながら、彼女たちの心の奥に隠されたそれぞれの欲望や心の傷を癒していく。
(c)石田衣良/集英社 2017映画『娼年』製作委員会