「女性の自己実現」がテーマ、 “キラキラ起業女子本”ブームの理由を社会学者に聞いた!

ビジネス

2018/3/15

 ここ最近、書店の女性向けコーナーにズラリと並ぶようになった、“キラキラ起業女子”たちの書籍。キラキラ起業女子とは、SNSを駆使して起業した女性のこと。ハイブランドの服を身にまとい、高級ホテルラウンジでのミーティングをするキラキラした姿から、こんな風に呼ばれています。

 生き生きとビジネスをする彼女たちの様子がテレビでも取り上げられるようになり、もはやブームと言ってもいいほど。そんな中でも、特に成功を手にした女性起業家たちが、SNSを飛び出し、次々に書籍を出版しているという状況なのです。

 たとえば、今年1月に発売された『未来を自由に選ぶ力』(WAVE出版)の著者、鈴木実歩さんは、31歳のときに一念発起し、起業。自称、金なし・夢なし・彼氏なしの生活から、一気に年商1億円の起業家になるという、ジャパニーズ・ドリームを手にしました。

 しかし、起業前の鈴木さんは、ごく普通のOL。本書では、変化のない毎日をもどかしい思いで過ごしていたことが詳細に書かれています。

「朝9時。今日も自分のデスクに始業時刻ギリギリに着席する。これから夕方6時まで、このオフィスから一歩も出ずに一日を過ごすんだ……」

 そんな鈴木さんですが、当時唯一持っていた、クライアントの悩みを整理して目標達成をサポートするコーチングの資格を活かし、まったくの未経験から仕事を始めるようになります。これが段々と軌道に乗り、株式会社設立へと繋がっていくのです。

 2月に発売された『わがままに生きるほど世界はあなたの味方になる: 彼からもお金からも一生愛され続けるワケ』(三笠書房)の著者、向井ゆきさんも、元々は専業主婦。そこからブロガーとして徐々に人気を集めるようになりました。今や複数の会社を経営する女社長へと華麗なる転身を遂げています。

 会社員からフリーランスの美容家として独立した鈴木絢子さんは、さつまいもの美容効果に目をつけ、研究を開始。今ではさつまいも美容家として、メディアに出演するまでに。その軌跡をまとめたのが、『普通の女子がフリーランスで年収1000万円稼ぐ本 「好き」を「お金」に変える夢のワクワク・ライフ』(大和出版)です。

 いずれの本も、「好きなことで稼ぐ!」「自分の価値を高める!」といった、成功の法則がたくさん書かれています。今までも、自己啓発本で似たような言葉はたくさん目にしてきましたが、そこにさらに「女性の働き方」「SNSでの発信の仕方」という要素が上乗せされたのが、これら「キラキラ起業女子本」の特徴なのです。

■SNS起業は、女性の新しい働き方のロールモデルになり得るのか?

社会学者・新雅史氏

 キャリアもコネも資金もない女性が、SNSを駆使して、自由な生き方・働き方を手にする――。実際に体現できたら素晴らしいなと思うのですが、社会学者の新雅史先生は、「これが新しい仕事のロールモデルになるのかという点については、やや疑問」だと言います。

「本を読む限り、現実的にできるやり方を示しているかと聞かれると、そうではないですよね。年収1000万円や、年商1億という大きな数字ばかりが目立って、肝心の自立の仕方、仕事のやり方などにはあまり触れられていない気がします」

 ただし、「女性たちの新しい働き方の選択肢としては、十分考えられるのではないでしょうか」と続けます。というのも、政府が打ち出した「すべての女性が輝く社会づくり」という政策は、まだまだ発展段階。実際には、仕事も家庭も我慢している女性が多いのが現状です。この「ワークライフバランス」の考え方を、男女で比較してみたのが下の図です。

「男性は、割と〈ワーク=仕事〉は我慢するものと考えている人が多く、リアルな収入と安定を求める傾向が強い。その代わり〈ライフ=生活〉では、甘えや自由を求めます。一方、女性たちは、ワークとライフの両方を我慢していることが多い。出産や育児で休職すれば、必然的に家事をする割合は増えます。そんな女性たちが、『仕事もプライベートもずっと我慢してきたんだから、そろそろ自由を求めたい』と思うのは当然のことです」

 また、もともと女性と自営業の相性はいいといわれています。戦後、夫を亡くしたたくさんの女性たちは、家計を支えるため仕事をする必要がありました。そこで選ばれたのが三次産業=商売だったのです。

「やらなければならない事情があったとはいえ、女性たちには自営業という働き方が意外にも合っていた。今でもその名残で商売をしている人たちもいるほどです。我慢して働く雇用労働よりも、自己肯定感を強くさせてくれる自営業のほうが女性たちにはマッチしていました。それが、こうした本のブームを後押ししているのではと考えます」

 より自分らしい生き方をしたいという願望は、女性のほうが強いと新先生。そんな女性にマッチしたのがSNSを使った起業でした。

「女性がSNS起業を選ぶのは、シンプルに、SNSで自分を表現するのが簡単になったのが大きいと思います。SNSが発達する前のネット上のコミュニケーションツールといえば、“2ちゃんねる”が圧倒的でした。文字ベースでいかに面白い、あるいはシニカルな発言をするかが重要で、自慢より自虐が中心という、今思うと特殊なツールです」

 ところが、mixiにはじまり、TwitterやFacebook、Instagramなど、新しいSNSが次々に登場したことで状況は一変。素敵なものを“素敵”と言える風潮が高まり、ストレートな自分の気持ちを表現できるようになりました。てらう必要がなくなったのです。

「2ちゃん全盛期のような、シニカルな視点での物言いや自虐は、今の時代には合わず、むしろ“サムい”とまで言えるくらいになっている気がします。そんなことをするよりも、センスがあってインパクトのある写真や動画をアップしたほうが、よっぽど反応が返ってくる。それに気がついた女性たちが、どんどん活躍の場を広げています」

 もちろん、この著者たちのようなビジネスが、この先10年、20年と続くかはわかりません。SNSのブームと同様に、目まぐるしく変わっていくことが予想されます。そのため一概にこの働き方を真似しよう!……とは言えませんが、視野を広げる手助けにはなりそうです。今の生活にモヤモヤを感じている人がいたらぜひこの記事で紹介した本を手に取ってみてほしい。

取材・文=中村未来(清談社)

新 雅史(あらたまさふみ)
社会学者。専門は産業社会学・スポーツ社会学。東洋大学助教。著書に『商店街はなぜ滅びるのか 社会・政治・経済史から探る再生の道』(光文社)『「東洋の魔女」論』(イースト・プレス)などがある。