寺島しのぶ「見てくれている人はちゃんと見ている。生きていれば、きっと何かいいことはある。そうした小さな幸せを感じられる映画です」

あの人と本の話 and more

公開日:2018/4/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、カンヌ国際映画祭を皮切りに海外映画祭を席巻している『オー・ルーシー!』で、愛すべきリアルなヒロイン“ルーシー”を演じた寺島しのぶさん。おすすめ本『ぞうのエルマー』のほかに、もう一冊、携えてきてくれた絵本のこと、そして「すごく楽しかった!」と語る、映画撮影現場でのエピソードを訊いた。

寺島しのぶさん
寺島しのぶ
てらじま・しのぶ●1972年、京都府生まれ。映画『赤目四十八瀧心中未遂』『ヴァイブレータ』で日本アカデミー賞最優秀主演女優賞、『キャタピラー』ではベルリン国際映画祭最優秀女優賞をはじめ、数々の賞を受賞。2018年は『ヘッダ・ガブラー』『愛のゆくえ』と舞台出演が続く。公開待機作に映画『のみとり侍』。
ヘアメイク:片桐直樹(EFFECTOR) スタイリング:中井綾子(crepe)
衣装協力:ノーカラーコート4万6000円、パンツ3万5000円(チノ/モールド TEL03-6805-1449)、リング 4万5000円、ピアス2万8000円(エナソルーナ/エナソルーナ神宮前本店 TEL03-3401-0038)

「わ! まだ、あるんだー!」

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5歳の息子、真秀くんに絵本を読み聞かせたくて、ふらりと入った本屋で再会したのは、加古里子の『だるまちゃんとてんぐちゃん』

「子供が生まれるまで、絵本ってちょっと遠ざかってしまうじゃないですか。小さい頃、この本が大好きだったんです。だから“あ、まだ、ある!”って、もう、うれしくなってしまって。そして読み返したら、“まだ、ある”理由がわかった。だるまちゃんが、てんぐちゃんと同じものを手に入れたくて、工夫する。そんなだるまちゃんを家族で支えているという部分など、この絵本は一冊のなかに大切ことをいっぱい含んでいる」

“てんぐちゃんのようなうちわがほしいよう”。
だるまちゃんのために、家中のうちわを出してきてくれる、お父さんのだるまどん。でも、てんぐちゃんのうちわとは、みんなちょっと違っていた……考えているうちにいいことを思いついて……。

「工夫すれば幸せは得られる。だから、自分なりに考えて工夫していこうよ、想像していこうよということがとてもわかりやすく描かれていますよね。それは人生にそのまま投影できる。真似から始まるけど、できあがったものはまったく違う。それでいいんだよ、それが自分らしさにつながるんだよ、ということがものすごくシンプルに伝わってくる。子供の時、何気なく読んでもらっていた感じと、大人になって、子供にわからせてあげるために読む感じが違うのも面白い。子供にも大人にも通じる絵本ですね」

真秀くんが夢中になるのは、どれが、てんぐちゃんの持っているものみたいになるか、だるまちゃんが考えているところだという。たとえば、見開きいっぱいに描かれた、だるまどんが家中から出してきた帽子。そのページにくると、一緒に考えたり、「どんな帽子が好き?」「あ、これ、歌舞伎にも出てくるよねー」「かぶと、5月に作ったでしょ」という楽しい語らいも。

「一冊のなかに選択肢がいっぱいあって、子供の想像力みたいなものを掻き立ててくれますよね。それは読んでいる私も同じ。自分なりのオリジナリティで、オンリーワンのものを見つけていくことが、やはり人間形成につながるということなんだなと改めて感じさせてくれます」

映画『オー・ルーシー!』の脚本を執筆した平栁敦子監督と出会ったときも、そんなオンリーワンの力強さを感じたという。

「平栁さんはこの作品にかけているんだなという心意気を感じました。オリジナルでここまで書ける監督が、私にオファーしてくださって、ともに映画をつくることができる。それが、もう本当にうれしくて幸せでした。」

昨年9月、NHKでドラマ版が放送され、大反響を呼んだ同作は、カンヌ国際映画祭批評家週間に、日本人監督としては10年ぶりに選出される快挙を達成。フランス、アメリカをはじめ、各国での公開も決まっている。寺島さん演じる節子=ルーシーの、ピンポン玉をくわえたビジュアルも印象的だ。

「映画のなかにも出てくるあのピンポン玉は、節子の人生の大きな転機。このピンポン玉とウイッグで、“ルーシー”にさせられて、人格まで変わったような気になるという、そこが節子の何かのはじまりなんです」

寺島さんにとって、初となった日米合作映画の撮影現場は、とてもエキサイティングなものだったという。

「台本を見たとき、“この余白の多さは何なんだろう”って思ったんですが、“これは役者が好きにやっていいってことだよね”って思いました。それは撮影にもつながっていて、平栁監督は、現場で私のやることなすこと、すごく楽しんでくれて、いちばん敏感な視聴者でいてくださいました。自分で書いたオリジナルの脚本なのに、そのセリフすら、役者に託してくれる。そんな監督の余裕のようなものも、この映画には反映されているような気がします」

「これってハッピーエンドなんでしょうかね?」
監督とは、そんなことも一緒に考えたという。

「観る方に、色々なものを投げかける映画だと思います。近年の日本映画にはないような、ばっさり切ったり、ぷつっと終わったり、“あれ、なんだったんだろうね?”という感触の、ヨーロッパ映画に近い感じですかね。節子は誰からもあまり受け入れられない人だけれど、見てくれている人はちゃんと見ている。生きていれば、きっと何かいいことはある。そうした小さな幸せを感じられる映画ですね」

(取材・文:河村道子 写真:冨永智子)

 

映画『オー・ルーシー!』

映画『オー・ルーシー!』

監督:平栁敦子 共同脚本:平栁敦子、ボリス・フルーミン 出演:寺島しのぶ、南果歩、忽那汐里、役所広司、ジョシュ・ハートネット 配給:ファントム・フィルム 4月28日(土)より公開 
●怪しげな英会話教室で“ルーシー”となった瞬間、43歳・独身の節子の世界は一変! ハグしてくれたイケメン講師ジョンの愛を求め、東京からカリフォルニアへ。ハリウッドがデビューを熱望した平栁敦子の初監督作。
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