達人に聞いた出張先での楽しみ方! プラス半日でディープな福岡を満喫する方法

暮らし

公開日:2018/4/17

 出張先の楽しみといえば、やはりご当地グルメ。東京からのワクワクする出張先としてよく地名が挙がるのが、九州最大の都市である福岡市だ。博多・中洲・天神と言ったほうがピンとくる方も多いのかもしれない。

 仕事終わりに中洲の屋台で1杯。〆は豚骨ラーメン。それももちろん気分が良いのだが、せっかく福岡まで行くのだから、もう少し掘り下げたいわゆる「ジモティー」なスポットにも足を運んでみたいもの。

 そんな時におすすめな、今じわじわと話題沸騰中の福岡ガイドブックがある。『福岡穴場観光』(Y氏(山田孝之)/書肆侃侃房)という1冊だ。本書では、大手の観光ガイドブックではなかなか取り上げられることのない福岡の“穴場”観光スポットに光が当てられ、詳細に解説されている。

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 本書の著者のY氏(本名:山田孝之)さん(以下、山田さん)は、福岡で事業を営むブロガー。郷土史研究家。会社PRのために立ち上げたオウンドメディア「Y氏は暇人」にて福岡のB級スポットや郷土史を紹介し反響を呼び、『福岡のB 面』(クラウドナイン)、『福岡路上遺産』(海鳥社)を出版されている、まさに“福岡の達人”だ。また、2017年には山田全自動名義で『山田全自動でござる』(ぴあ)も刊行。山田全自動と聞いてピンとくる方も多いのではないだろうか。

 そんなセンスあふれる山田さんが紹介する福岡のノスタルジックな一面を知ることができる本書。その内容をより一層掘り下げ、県外に住む我々の福岡出張や旅行をもっと楽しくしたい。そんな動機で今回私は福岡に向かい、山田さんから直接お話を伺うことができた。

■つげ義春さんの漫画の影響を受けて、ノスタルジックな街の虜に

 山田さんが街のB 面や郷土史の紹介といった活動をされるようになったのは、漫画家のつげ義春さんの影響が大きいという。そこでつげ義春さんの世界観とマッチする福岡の古い宿場町やノスタルジックな風景について、山田さんに訊ねてみた。

「つげ義春さんは、色々なところを転々としていたようで、知り合った読者の女性を頼って北九州に潜り込んでいたこともあったようです。そういった点からしても、北九州の旦過(たんが)市場は良いですね。昭和そのままの、雑然とした感じが“つげっぽい”です。それから宿場町で言えば、前原宿(まえばるしゅく:糸島市)も良かったですね。江戸時代から残る白壁の雰囲気がグッときます」。と山田さん。

 そう語る山田さんの紹介する福岡穴場スポット。ノスタルジックなもの、味のあるもの、エモいものが大好きな方ならハマってしまうこと間違いなしだ。

■福岡出張「+半日」で気軽に行ける穴場観光スポット3選

 福岡も都会といえどもやはり地方であるため、多くの観光地は車がないと行きにくい。しかし出張で楽しむのがグルメだけというのも何だか寂しい。博多・天神エリア(福岡市の中心地区)に宿泊する人が、少し時間に余裕がある時に気軽に行ける穴場観光スポットはないか、山田さんに聞いてみた。

「まずぜひ行ってもらいたいのは、呉服町の東長寺にある博多大仏(地下鉄祇園駅そば・博多駅からも徒歩圏)ですね。意外と知られていませんが、木造座像では日本一大きいものなんです」。(山田さん)

「また、天神地区でしたら、“不思議博物館分室 サナトリウム”というカフェがおすすめです。長期療養所をコンセプトにした喫茶店で、おもしろい。きっと良い土産話になると思います」。(山田さん)

「それから景色の一押しは博多ポートタワーです。福岡タワーも良いですが、こちらのポートタワーはなんと無料。博多駅からもバスを使えば10分くらいで行けますし、飲食店も多くて便利ですよ。夜遅くまで開いていて、福岡の夜景も楽しめます。夜はお客さんが少なく、貸し切り状態の時もありますよ。ここは本当に“穴場”って感じですね」。(山田さん)

■山田さんイチオシの福岡グルメは、うどん!

 少しディープな観光を楽しんで、それでもやはりグルメは欠かせない。山田さんの一番好きな福岡グルメを聞いてみた。

「僕は断然“うどん”ですね。諸説ありますが、福岡はうどん発祥の地としても知られています。もつ鍋や豚骨ラーメンがとても有名ですが、うどんはもっと歴史が深いんですよ。福岡に来た人にはぜひ福岡のうどんを食べてみてもらいたいですね。麺がやわらかいのが特徴です。福岡の“ごぼう天うどん”はご当地グルメですよ。僕のおすすめは地下鉄呉服町駅の近くの“みやけうどん”という古いお店です。また、福岡のうどんはチェーン店でもしっかりおいしいです。“牧のうどん”も博多駅の中にできましたし、“ウエスト”もおいしいです。ラーメンよりも、個人的にはやっぱりうどんですね」。(山田さん)

■中洲の屋台以外でも「飲み歩き」

 出張の仕事後の1杯は格別だ。福岡の「飲み歩き」を中洲の屋台で楽しむ人も多いが、山田さんのおすすめの、ちょっとディープな飲み歩きプランを教えていただいた。

「三角市場は福岡市の中心部にあるレトロな飲食店街で、地元の人もよく訪れます。小さな飲み屋やバーが軒を連ねていて、あと、ここにある“因幡うどん”もおいしいですよ。それから渡辺通(中心部)にあるサンセルコという商業施設の地下にある“お好みのれん街”という通りも独特の雰囲気があって好きです。地元の人が好む古い居酒屋や小料理屋があります。ここは変わったお店が多くて楽しいですよ」。(山田さん)

■福岡は島も楽しい! 行きやすい島もたくさん

 昨年、宗像・沖ノ島と関連遺産群が世界遺産に登録されたこともあって福岡の海は今注目を集めている。博多湾・玄界灘には魅力的かつ距離的にも行きやすい島がたくさんあると山田さんは語る。

「断然行きやすいのは、能古島と志賀島ですね。能古島はフェリーですぐですし、志賀島は車があれば陸続き(陸繋島=砂浜で本土と繋がっている島。道路も直通)なのでドライブで簡単に行けますね。漁村の島ならではの暮らしに入り込むことができます。本当に“ここにしかない暮らし”といった感じです。しかも神社の参道の街並み。そして島の食べ物は、やはり海鮮がおいしいです。福岡は魚が本当においしいんです。島に行く時、たどり着くまでのワクワク感もあって良いですよね。市内からは遠いですけど、世界遺産に登録された筑前大島も良いですよ。自然・歴史どちらも充実しています。世界遺産になったおかげで、バスが島に走るようになりましたよ。知り合いのバスマニアが風景の写真を一切撮らずに、島のバスの写真ばかり撮って帰ってきました(笑)」。(山田さん)

「ちなみにですが、福岡って、バスマニアの人が多いですね。西鉄のバス網が発達していることと関係があるのかもしれませんね。というか、何か変わった人が多い気がします、福岡は」。(山田さん)

■ノスタルジックな街並みが壊されていくということ

 ここまで具体的な穴場観光のアドバイスをいただいたが、山田さんがこのような活動をされる中で感じることについても聞いてみたい。本書の巻末には“変わりゆく街”に対する山田さんの思いが綴られており、これが大変胸に刺さる文章だったからだ。特に福岡市は今最も勢いのある地方都市としても注目される成長中の都市で、「古いものが壊されて街がアップデートされる」ことも多いのだという。

「こんな活動をしている身でこういうことを言うのも変かもしれませんが、歴史のある建物を壊してしまうのは仕方のないことだと僕は思います。もったいない・寂しいなと感じないわけではないですが、街がアップデートされるのはごく当たり前のことなのです。それが街の発展に繋がり、今の福岡という都市があるわけですし。僕は郷土史研究のような活動もしていて、古い建物の所有者の方と話すこともあるのですが、とにかく維持費が大変だと、皆さまおっしゃいますね。昔の日本家屋とかだと、置いておくだけで維持費が年間何千万円にもなるようなケースだってありますから。更地にしてマンションを建てた方が合理的・経済的だという考えも間違っていないでしょう」。(山田さん)

 古い街並みの地権者の方や建物の所有者、役所の担当の方などから話を聞いていくうちに、「街のアップデート」に対する自身の考え方も変わっていったと山田さんは語る。

「周りからの“壊すな”という圧力や無言のプレッシャーは、やっぱり良くないですね。所有者にプレッシャーを与えて苦しめるようなことは、してはいけないことだと思います。もしどうしてもその建物や街並みを保存したいのならば、資金を提供したり、役所が援助をすべきであり、無責任に“もったいない”“壊すな”と主張するのは良くないと、この活動をするようになってから思うようになりました」。(山田さん)

 そういった自身の考えに基づいてこの活動をされている山田さん。常に心掛けていることがあるのだという。

「もちろん、そのままであった方が良いのではないかと心の中で思うこともありますが、絶対に“残せ”などとは言わない、また書かないように僕は心掛けています。慣れ親しんだ街が変わって寂しいという気持ちも分かりますが、それで結果的に良くなることも多いですし。なので、抵抗せずに、流れるままでいいと思います。“新しいものは悪”みたいな風潮は色々なところにありますが、持っている側の人のこともしっかりと考えなければならないと思います。なので、僕はあくまでも、記録として写真と文章に残して、皆様にご紹介するという形でこの活動をしています」。(山田さん)

取材・文=K(稲)