「子供を育てるのは情操教育や教科書じゃありません」辻村深月×尾木ママ対談【後編】

社会

2018/4/22

 読売新聞で連載されていた辻村深月さんの『青空と逃げる』が、このほど中央公論新社より単行本化。先日、東京・神楽坂で開催された第3回本のフェスで、教育評論家の“尾木ママ”こと尾木直樹さんと「“母になる”ってどういうこと?」と題した出版記念の子育て対談が行われた。6歳と2歳の子を持つお母さんである辻村さんだけに、「尾木さんに聞きたいことがたくさんある!」と対談はヒートアップ。後半は親子の「対話」の重要性に迫ります。

■子供の声を心で受け止めて、「心」を聴く大切さ

辻村深月氏(以下、辻村):私、自分が妊娠・出産する時に「出家する」みたいな気持ちだったんです。メディアがおどすんですよ、眠れないとか、ワンオペ育児になるとか。出産したら自分の楽しみもすべて子供に捧げなきゃいけないし、そうすることを世の中に求められるんだろうと思ってたんです。で、出産してはじめて思ったのは、「え? かわいいんだけど」だったんですね(笑)。

 マイナス100くらいと思い込んでいたのにプラスがある。それに出産しても私は私のままで、急に母親という別のものになるわけではなかった。でも、一つ思ったのは「これで勝手に死ねなくなってしまった」ということ。この子を残して死んでいくというのができなくなってしまった。一人ではなくなったという喜びと責任感が生まれました。今回の小説では父親にも頼れない状態で、「この子には自分しかいないとなったらどうなるのか」を常に考えながら書きましたが、早苗には子供とたくさん「対話」をしてほしいと思ったんですね。それは私自身の目標でもあるんですが。

尾木直樹氏(以下、尾木ママ):子供との対話ってほんとに大切。子供の声はよく聞いてあげることです。お母さんたちが「聞いてるのに聞いてよってエプロンひっぱる」ってよく言うんですが、それは生理学的に聞いているだけで、心で受け止めないから。やっぱり聞くというのは心で受け止めて、相手の「心」を聴くことなんですよね。そして聞いてもらえている子は「愛」を感じるのね。大事にしてもらっていることを、言葉だけでなく態度で感じると、その子は他者にやさしくなれるの。情操教育やっても教科書作ってもだめなんですよ。子供たちが大事にされる家庭や社会があって、はじめてやさしい心遣いのできる子になる。

■「厳しいしつけ」はいらない!

尾木:よく「今日は雨がふりそうだから、長靴はいていこうね」とか親が先に言っちゃいますけど、できればやり取りをして自分で選ばせた方がいいですよ。幼児期から「自分で決める」というのをやるのがどんなに大事か。本人が決めたことなら嫌なことがあっても受け入れますから、たくましい子になりますよ。

辻村:子供の意思って、どこまで尊重したらいいんでしょう。

尾木:どうしても小さい子だと転ばぬ先の杖じゃないですが過干渉になりがち。大変ですけど子供の意思を尊重していくのは極めて重要です。日本では昔から「いい加減、言うこと聞きなさい」っておしりペンペンする「しつけ教育」が定着していますよね。でも実は昨年、あるデータが発表されたの。日米の大学の共同研究なんですけど、おしりペンペンする家庭としない家庭の3歳半から5歳半の2年間を調べて、我慢強いとか規律を守れるかとか6項目くらいの要素がどう定着するかを調査したのね。面白いことに、おしりペンペンをされなかった子たちの方が1.5倍くらい育っていたんですね。日本はいつも「厳しいしつけ」と言ってきたけど、違うぞと。なんでだと思います?

辻村:自分で考える力がつくからですかね。

尾木:そう! 作家さん尊敬しちゃうわ~。なんなんですか、もう(笑)。

辻村:自分で育児をしているとわかるようになりました。やっぱり厳しいだけが正解じゃないし、「お母さんが怒るからやらない」になっちゃいますよね。

尾木:そうそう。鬼のような顔を見たくないから、条件反射的にやめるんですよ。おしりペンペンしない時は説明するでしょ? 「しつけ」というのも「説明する」に置き換えるといいんです。子供は繰り返すものですが、それでも繰り返し説明してあげればいい。僕はそれを体験的に知っていてね、うちのおやじは叩いたことも、ほとんど怒鳴ったこともありせんでしたけど、それはおやじが父親からすごく叩かれてきたからなんです。「叩かなくても言ってくれればわかるのにってずっと思ってたから、自分の子は絶対に叩かないと決心した。だからよく聞いてね」と、説明してくれたんですね。そういうことがデータで出たわけです。ただ、辻村さんの下のお子さんは2歳のイヤイヤ期ですから、かなりのものですよね。まあ長い人生の中のたっ5ヶ月って考えたら、超かわいいわよ。何言ってもイヤって言うんだもの。80過ぎのおばあちゃんがイヤイヤって言ったらウザいでしょ(笑)。

■親が悪い時は子供に「ごめんね」を

辻村:『青空と逃げる』を書き終えてから“このシーンが書けたのは大きかった”と思ったのは、力がお世話になった人たちに嘘をつく羽目になってしまったと、早苗を責めるところで。その時に早苗がちょっと考えてから「そうだね。嘘だ」って謝るんです。親が子供に謝るってなかなかできないものなんですけど、私自身も意識的に自分が悪い時には「ごめんね」って言おうと、「親だからいいでしょ」ということにはあんまりしないようにしようと思っていて。

 とはいえ、子供を信じるっていうのはなかなか難しくて、自分の方が絶対に正しいと、つい「こっちにしなさい」とか言いがちになる。でも、この世の中に「正解」なんてないんですよね。よりよい道をみんなで探すっていうのはあるし、その努力はしていかなきゃいけないと思うんですけど、これが「正解」というのはいろんなことに対してない。正解のない世の中を自分は生きているんだという目線を持ちながら、子供の意思というものも間違っていると決めつけないでいきたいな、と思いました。

尾木:この間、うちの孫が元気すぎて怪我しないか心配になるんで、娘に「ずいぶんあなたの頃と違う」って言ったら、娘から「私は抑圧されてたんだよ」って言われたの。「そんな覚えはないんだけど…」って言ったら、「お父さんもお母さんも忙しそうだから、そんなふうにしたら迷惑をかけるって自分を抑えてた」って。それで「気がつかなかった。ごめんね」って言ったんです。そういうのって「いい子症候群」っていうんですよ。親を安心させよう、喜ばせようって、頭のいい子は自分を抑えちゃうの。そのままつるーっといってしまうと自分の本当の気持ち、ありのままの感情というのが空洞化しちゃって、たとえば就活が始まって自己分析なんかすると、今まで自分が全部親の感情で動いていたことに気がついてぽきっと折れちゃうこともある。手のかかる子ほど立派になるとかいうけれど、あれって本当だと思う。だから、いかに子供の思いを受け止められるか、共感する能力があるかっていうのは大事。お母さんだけじゃなくて特にお父さんにもね。そういえば、この会場は男性が多いですね。

辻村:ほんとですね。頼もしいです。

尾木:お父さんには絶対にイクメンをやってほしいと思うの。そうすると60過ぎの後半の人生を本当に豊かに楽しく生きられますから。イクメンしてないと、お孫ちゃんのキーキー声がうるさくてイライラしますよ。かわいいな、元気だな、と思うのは、イクメンやってない限り脳が変わらないから無理なんです。つまり、イクメンをやるのは自分の幸せのためなんです!

辻村:(笑)。私自身が尾木さんに聞きたいことがたくさんあったので、一人の母親としてすごく勉強になりました。本当にありがとうございました。この会場の中にも育児中の方がたくさんいると思います。ご一緒にがんばりましょう!

「いじめは絶対に解決します。人間のやることなんだから、絶対です!」辻村深月×尾木ママ対談【前編】

取材・文=荒井理恵