「すべて自分で背負う覚悟ができた」俳優・青柳翔、進化の一作を語る【インタビュー】

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更新日:2018/5/8

 青柳翔は、佇まいが絵になる俳優だ。その姿から漂う静かな男の色気がグラビアからは伝わってくるし、スクリーンに立てば、真剣に演技と向き合っているからこそ伝わる覚悟が役に説得力をもたらしている。そんな彼の演技が近年、さらに魅力を増してきた。「HiGH&LOW」シリーズの九十九のような役柄はもちろん、特に最近多かったコメディ作品の演技でも、生真面目さからくるおかしみという境地を切り開いている。

 そんな進化のきっかけのひとつが、昨年公開された主演映画『たたら侍』であることは間違いない。錦織良成監督との『渾身 KON-SHIN』(2013年)に次ぐ2度目のタッグであり、撮影に3カ月近くをかけたという本作は、モントリオール世界映画祭ワールド・コンペティション部門での最優秀芸術賞をはじめ世界中から高い評価を得た。その『たたら侍』がスカパー!の時代劇専門チャンネルでGW特別企画として5月6日よる7時に放送される(5月26日よる11時より再放送あり)。時代劇として新しい試みの多かった本作がどう作られたのか、そして自身への影響についても語ってもらった。

侍になるために村を出た伍介と、夢のために札幌を出た自分が重なった

――本作は青柳さんにとって映画では初の時代劇ですが、時代劇ならではの難しさを感じる場面もありましたか?

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青柳 この作品は時代劇ではあるのですが、時代劇の常識というものに縛られず、新たな試みがたくさん入っています。なので、そういう難しさもありました。まず脚本を読んだとき「あれ、がっつり標準語じゃん」って思いましたし(笑)、着物に関してもこれまでの時代劇とは違う新しいテイストにしたいという話を監督からうかがったりして。いろんな新しいことにチャレンジした作品だったので、「ほんとにそれでいいのか」という葛藤や話し合いが多かったと思います。

――そういった新しい試みがなぜ多かったのか、監督からの説明はあったんですか?

青柳 それを聞いたのは撮影が終わってからなのですが、「わかりやすさを大切にしたい、子どもにも観てもらえる作品にしたい」とおっしゃっていました。同じ理由で本当なら血が出るシーンでも血の描写は抑えられているんです。今振り返ってみると、自然の美しさもそうですし、たたら製鉄の存在を伝えるためにも、子どもを含め、広くいろんな人に伝わる作品にしたかったんだと思います。

――時代劇というと主人公がヒーローとして描かれることが多いと思うんですけど、伍介がいわゆるヒーローらしくないところも新しいですよね。

青柳 そうなんです、伍介は決してスーパーヒーローではない。村を守りたいという気持ちで行動するんだけど失敗を繰り返して、最後には大切な人を殺されてしまう。そこも時代劇として新しいと思いましたし、役としても難しいけどやりがいがあると感じました。

――そんな伍介と青柳さんの共通点をあげるとするとどんな部分がありますか?

青柳 僕は札幌出身なんですけど、ずっと地元を出て東京に行きたいと思っていたので、そこは似ているかなと思いました。でも特に目的があったわけではなく、ただ漠然と東京に出たいと思っていた僕と違って、伍介の場合は村を守るために侍になりたいという強い意志があったし、当時、海すら見たことがないだろう伍介が村を出るのは、僕が飛行機で東京に行くよりも遙かに勇気のいることだったんじゃないかとも思います。

――仮に青柳さんが戦国時代に生まれて、伍介と同じ立場だったら、やっぱり村を出ますか?

青柳 そうですね、石井杏奈ちゃんが許嫁だったら村に残ります……というのは冗談ですけど(笑)。閉鎖的な村に生まれて、自分の将来も最初から決められていたら、それに反発する時期は俺でもあったのかなと思います。

――伍介という役を捉えていく中で、参考にしたものはありますか?

青柳 今回、たたら製鉄の製造過程に3度関わらせてもらったんです。まず一度現代の方法でやっているところを見学させてもらって、次に当時の方法を体験して、その次に撮影しました。普段、滅多に取材させてもらえないところらしいのですが、特別にお話を聞かせていただけて、その経験は伍介を演じる上で大きかったですね。今は熱した鉄を水に落として冷やすときにクレーンを使うんですが、昔は丸太の上に鉄を載せてみんなでそれを引っ張って落としていたんです。もちろん、今の時代ではやらないことなのでかなり難しくて。鉄が熱すぎて載せたらすぐ丸太が燃え始めてしまったり(笑)。「どうする?」ってみんなで試行錯誤したのが印象に残っています。

――話を聞いているだけでもかなり難しそうです。

青柳 すごいことですよ。「ほんとに人間ができるの?」ってぐらいの熱さと過酷さで、しかも当時は僕たちがやった時より少ない人数でやっていたと思いますし。改めて、たたら製鉄の技術のすごさを感じることができて、伍介や『たたら侍』の世界を理解する上で貴重な体験になりました。

――錦織監督とは『渾身 KON-SHIN』(2013年)以来2度目のタッグですが、青柳さんにとって自分自身の成長を感じる機会にもなりましたか?

青柳 そうですね、監督に成長したところを見せなきゃいけないなという気持ちもありましたし、前回よりお互い密に話し合うことができたと思います。セリフのニュアンスや最後に伍介がとる行動について、自分からも意見を言ったり、カメラマンさんも交えてこういう絵にしたいと議論したり。前作でご一緒させていただいた土台があるからこそ深く議論できて、すごくいい現場になったなと思います。

――作品のテーマとしてもうひとつ、“本当の強さとは何か”というのがあると思うんですが、それについて監督から何かお話はありましたか?

青柳 刀を抜かない美学という話をしてくれました。本当に強い人は争いを避ける、強い侍が刀を抜くのは死を覚悟した時だという、真の侍の精神みたいなもので、それがすごく勉強になりましたね。僕は戦国時代って、人の命がたやすく奪われる時代なのかなって思っていたので、そういった意味で監督の解釈は新しかったですし、素晴らしい話だなと思いました。

3カ月のロケで島根の人たちのあたたかさに触れた

――ロケ地の島根には長期滞在していたとうかがいましたが、島根にはどんな印象を抱きましたか?

青柳 3カ月近く滞在していたんですけど、ほんとに美しい場所ですね。神秘的な場所だと聞いていて、「なるほどな」と思うような寺だったり滝だったり、いろんなところを回らせてもらいました。島根県の人たちもあたたかく撮影に協力してくれて、一緒にお酒を飲んでくれたり、優しくしてもらいました。

――今の時代、それだけの時間をかけて、じっくり撮影できる環境というのは、映画の現場でも珍しいですよね。

青柳 そうですね、普段は限られた時間の中で撮影していることの方が多くて、こんなに集中できる期間をもらえることはなかなかないですね。時間のある分、役について考えたり、木刀を振ったりする時間が十分に与えられていたので、それをすべて出すためにも、撮影は一瞬一瞬すごく緊張感がありました。

――天気待ちで撮影を延期することも多かったそうですが、それも今では珍しいですよね。

青柳 ほんとに恵まれた環境だったなと思います、なかなかできることじゃないですよね。本来なら、製作費の事情もあり諦めてしまうところを粘る勇気というか。監督の人望や、本作のエグゼクティヴ・プロデューサーであるHIROさん、島根県の方々のご協力があったからこそチャレンジできたのかなと思います。

――撮影がお休みの日とかはどんなことをして過ごしていたんですか?

青柳 釣りをしていました。釣り具屋さんがあるんですけど、「またきたぞ、あいつ」って言われるくらいに通いつめていて(笑)。そのとき副店長だった人と仲良くなって一緒に釣りに行っていたんですが、撮影が終わってからも正月休みに1週間くらい島根に行って、その人たちと一緒に釣りをしながら過ごしました。

――ほんとに島根に密着した生活を送っていたんですね。

青柳 そうですね、いいところです。もちろん釣り以外もたくさん面白いところがありますよ(笑)。

――本作には同じEXILE TRIBEのAKIRAさんと小林直己さんも共演されていますよね。

青柳 直己さんもAKIRAさんもアクションのシーンが多かったんですが、アクション監督の方たちとコミュニケーションをとりながら練習しているところを見て、その努力を怠らない姿勢に改めて尊敬しました。特にAKIRAさんは芝居のことでいろいろ相談していたら飲みに誘ってくれたりして、すごく支えてもらいました。

――おふたりと一緒に演技をするのは他の方とやるときと何か違いがあったりしますか?

青柳 すごくやりやすかったです。例えばアクションシーンって、アクション部の方相手にやるのと役者さんにやるのって、気の持ちようが違うんですよ。でもAKIRAさんと直己さんはそこを気にしなくても怒らない人なので、思いっきりいけました。以前、AKIRAさんにそう言ったら「殴りやすいってこと?」って言われたんですけど、決してそういう意味ではなくて(笑)。全力でいっても受け止めてもらえる信頼があるからこそ、本気で向かっていくことができるんだと思います。

海外の反応を受け、改めて気づいた時代劇だからこそ伝えられるメッセージ

――『たたら侍』はモントリオール世界映画祭のワールド・コンペティション部門で最優秀芸術賞を受賞したのをはじめ、世界からも高く評価されました。海外の人たちからの反応はいかがでしたか?

青柳 とても素直な感想をいただきましたね。「映像美が素晴らしい」とか、「時代劇はヒーローを描くものだと思っていたけど、この作品は違うんだね」とか。あと刀に関する質問もすごく多かったです。「刀を作る前に何をまいてるんだ」って聞かれて、「あ、塩です」って(笑)。言われてみれば日本独特の行為ですよね。特に映像については、これも時代劇では珍しいのですがオープンセットで撮影したり、さっき話した天気待ちもそうですし、本当に景色にもこだわって撮影したので、その点を芸術賞という形で評価していただけたのは役者、スタッフ全員にとってすごく嬉しいことでした。

――海外の方は時代劇が好きな人が多いんでしょうか?

青柳 かなり多いと思いますね。それは大先輩方が培ってきたものだと思っていますし、侍だったり刀だったりに興味を持ってくださる方がほんとに多いんだなと今回実感しました。そんな中で海外の方に評価していただいてすごく嬉しかったですし、たたら製鉄であったり、刀を抜かない美学についてであったり、時代劇だからこそ現代に広く伝えられるものがたくさんあることにも改めて気づきました。

――今回の評価を受けて、今後海外で活動することにも興味が湧きましたか?

青柳 今、事務所としても海外に積極的な展開をみせていますが、自分はまずは足場を固めるではないですが、今いる場所でまず結果を出すべきかなと思っています。まだ何も成し得ていないと思っているので。

――でも青柳さんの演技はどんどん進化しているなと感じます。『たたら侍』以降、ご自身の中で演技に対する意識の変化はありましたか?

青柳 『たたら侍』で本当にいろんな人が協力してくださって、一人じゃできないんだなってことも実感したんですが、その反面、なんだかんだでやっぱり自己責任なんだなということにも気づいたというか。作品含め演技含め、すべて自分で背負う覚悟で作品と向き合わないといけないなと改めて気が引き締まりました。

――それは海外での反響を通して、受け取る側のことも考えるようになったからこその変化なんでしょうか。

青柳 それもあるかもしれません。あと、今回はかなりじっくりと時間をかけて作品と向き合うことができたんですけど、必ずしもこのような現場ばかりではない中で、それでも時間に負けずにしっかり結果を残さないといけないとも感じました。気持ちの切り替えとか、集中するタイミングを工夫して、いつでも本番にピークを持っていけるように努力しなきゃいけないなと思っています。

――『たたら侍』以降も出演作はどんどん増えていますよね。

青柳 最近はコメディ作品が続いていましたね。コメディはやりがいもあるし難しい部分もあり、前からチャレンジしたいと思っていた分野だったので、すごくいい経験をさせてもらいました。今後もこれしかできない、こういう役が合うよねとピンポイントで思い浮かべられる役者ではなく、幅のある役者になりたいと思っていて。そう考えると、まだ悪役をやっていないんですよ。今まで悪役のような役はあっても、どこかで救われていたり、こういう覚悟があったからこういう人間になったり、という設定があるので、一度根っからの悪役を演じて、さらに幅を広げられたらなと今は思っています。

 

【青柳翔プロフィール】
あおやぎ・しょう 1985年、北海道生まれ。2009年に舞台「あたっくNo.1」で俳優デビュー。その後劇団EXILEのメンバーとして活動。「HiGH&LOW」シリーズでは九十九役を熱演。2016年、1stシングル「泣いたロザリオ」で歌手デビューも果たす。
また、写真集『AOYAGI SHOW』(幻冬舎)が5月24日に発売される。

取材・文=原 智香 撮影=森山将人

【放送情報】
「たたら侍」時代劇専門チャンネルにて5/6(日)午後7時 ほか テレビ初放送

【時代劇専門チャンネル公式サイト】
https://www.jidaigeki.com/
ご加入のお問い合わせ:0120‐200-292(受付時間:10時~20時/年中無休)