大谷亮平「堕ちていく人間たちを描くというより、一人ひとりのドラマが連鎖して展開していくところがこの作品のおもしろさ」

あの人と本の話 and more

2018/5/7

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、韓国での活躍を経て、16年より『逃げるは恥だが役に立つ』など日本のドラマ業界で大注目を浴びている大谷亮平さん。このたび、映画『ゼニガタ』で初主演を果たす彼のおすすめとは?

大谷亮平さん
大谷亮平
おおたに・りょうへい●1980年、大阪府生まれ。2003年より韓国で俳優活動を開始。映画『神弓-KAMIYUMI-』『バトル・オーシャン 海上決戦』などに出演。ドラマ『ラヴソング』『逃げるは恥だが役に立つ』などの出演で日本でも注目を浴びる。ドラマ『ラブリラン』出演中。10月より連続テレビ小説『まんぷく』出演予定。
ヘアメイク:堤 紗也香 スタイリング:伊藤省吾(sitor) 衣装協力:シャツ6万4000円(ジョルジオ アルマーニ/ジョルジオ アルマーニ ジャパン TEL03-6274-7070)

「主演というのはもちろん、ありがたくて嬉しいお話だったんですが、それよりも脚本がおもしろかったので、参加したいと思ったんです」

 映画『ゼニガタ』で大谷さんが演じるのは、10日で3割という超暴利で金を貸す闇金屋・銭形富男。だが、誰にでも貸すわけではない。居酒屋の店主としてカウンターに立ち、“客”を見極めようとする。静かで寡黙、表情もほとんど変えない、謎の男。

「監督に言われたのは、とにかくぶれない男になれということ。僕自身も、それを貫くことがこの作品の肝だと思っていたので、気をつけていました。格下のチンピラだろうと、買い物中毒のOLだろうと、因縁のあるヤクザだろうと。どんな相手だろうと、カウンター越しに相対したとき主導権を握れるような、圧倒的な存在感と人間としての強さをもっていること。富男が軸としてどんと構えていることで、客を通して見られる群像劇も引き立つと思ったので。緊張しましたけどね。渋川(清彦)さん演じるヤクザがカウンターに座ったときは、『ラスボス、きた!』とか内心思っていました(笑)」

 一見、無関係にみえた客たちは、裏社会に足を踏み入れ、金を通じてつながっていく。そして債務がかさんで追い詰められた人間は、手段を選ばず、暴力的な手段で目の前の障害を取り払おうとするもの。

「誰もが金に縛られていて、自由を求めてもがき苦しんでいる。それは富男の弟・静香も同じで、過去のトラウマもあって金にとりつかれている。富男だけは、金儲けのために金貸しをしているわけじゃないし、足を洗おうと思えば抜け出せるはずなんだけど、弟の関係がしがらみのひとつにもなって、やっぱりどこにも行けないでいる。ただ堕ちていく人間たちを描くというより、一人ひとりのドラマが連鎖して展開していくところがこの作品のおもしろさかなと思っています。富男はそのドラマを他人事のように面白がりながら、どこか金によって人が救われていく姿を見たいのかな、なんて一瞬もあったりするし」

〈大したことない人間になるのをおそれるか、大したことないと思われるのをおそれるか。後者の人生は伸びない。お前は前者だからつけてやる〉。安達祐実さん演じる脱サラ農家の留美に、金を貸す際、言う言葉だ。

「全編通じてナイトシーンが多くて、天気が荒れることばかりだったんですが、安達さんが畑を耕すところと、ある場面だけが明るく晴れていて。富男の私生活も過去も謎に包まれたままだけど、そこに彼の人間性みたいなものが、ほのかに垣間見えるのかな、なんて思います」

 そんな富男とは逆に、一見愛嬌がよく善意に満ち溢れていながら、不穏な気配をただよわせるのが小説『火の粉』に登場する武内だ。一家殺害事件の元容疑者で、無罪判決をくだした元裁判官・梶間の隣家に越してきた彼は、感謝とともに愛想をふりまき、いつのまにか梶間家の一員のようにふるまいはじめる。

「サスペンス小説を読むのがすごく好きで、雫井さんは『犯人に告ぐ』でめちゃくちゃハマったんです。映画化されたときもすぐに観に行きました。あの作品は、犯人を追う刑事に感情移入しながら夢中になって読みましたけど……『火の粉』はもっと闇が深いですよね。読みながら常に、ゾワゾワした暗い影のようなものを間近に感じていました」

 自分の判決は正しかったのか? 戸惑う梶間をよそに、武内とかかわりだして以降、近辺では不可解な事件が起こりはじめる。だが武内が原因だという証拠も、動機も、何もない。

「困っているときに善意の手を差し伸べれられれば、掴んでしまうのが人間。僕も韓国で俳優をしているとき、慣れない環境で途方に暮れていると、たくさんの人たちが親切にしてくれました。昔からそういうところは恵まれていて、バレーボールをしているときも、俳優を始めたときも、周囲に支えられてやってこられた。そのぶん、恩返しをしたいと思いながらできずにいることばかりだけど……この作品のように行き過ぎた親切や善意は、人間関係のバランスを崩していく。その過剰さが、奇妙なざわめきを呼んで、ページを繰る手が止まらなくなる。かなり分厚いけれど、一気に読んでしまった作品でした」

(取材・文:立花もも 写真:干川 修)

 

映画『ゼニガタ』

映画『ゼニガタ』

監督:綾部真弥 出演:大谷亮平、小林且弥、佐津川愛美、安達祐実、升 毅、渋川清彦 配給:AMGエンタテインメント、スターキャット  5月26日(土)より全国公開 
●居酒屋「銭形」は深夜0時になると10日3割の暴利で金を貸しつける闇金屋へと変わる。店主・銭形富男(大谷)は腹違いの弟・静香(小林)とともに苛烈な取り立てを繰り返していたが、ある日“人殺しボクサー”の八雲を雇って――。
(c)2018「ゼニガタ」製作委員会