名物書店員たちによる「帯トーーク!」 砂田麻美書き下ろし小説『一瞬の雲の切れ間に』ラストに一同、驚愕!

文芸・カルチャー

2018/5/3

 加害者、被害者、傍観者……ある交通事故がきっかけで、少しずつ日常がゆがんでいく人々を描いた小説『一瞬の雲の切れ間に』(ポプラ社)。映画『エンディングノート』の砂田麻美監督が書き下ろし、その静謐で細部までリアリティに富んだ筆致と巧みな構成で、「本の雑誌」2016上半期ベスト1に輝くなど話題を呼んだ同作。文庫化にあたり、6人の名物書店員が推薦帯を書くという企画を実施。これを記念し、そのうち3人を招いて「帯トーーク!」を開催! 作品の魅力とともに、帯やポップにこめた想いを語っていただいた。

■予想だにしない展開と結末で、書店員一同を痺れさせた傑作

内田 単行本が出たとき、『本の雑誌』の上半期ベスト1に選ばれて、書評でも絶賛されていて。これは読んでおかないと、と手にとってみたら、衝撃に撃ち抜かれた。気持ちの変化によってふとした仕草や情景が変わっていく細やかさは映像作家ならではのフレーム感。音や光、匂いがたちのぼるかのような図抜けた文章力。映像では表現しきれないことを文章で再現していると感じた。さっそく平積みはしたけれど、それ以上の仕掛けはしそびれて、売り逃した後悔があった作品です。

櫻井 私も発売前にいただいたゲラを読んだとき、一気に心をつかまれたので、あの年の本屋大賞一次に投票したような気はするのですが、それ以上は何も……。もうちょっと売れるはずだったのに、と心残りのある作品なので、今回、売り伸ばすチャンスをいただけて嬉しいです。

久田 とにかく構成がすばらしかった。とある死亡事故をきっかけに、日常が壊れてしまった人々を描き出しているのだけど、第一章は傍観者の視点からはじまる。事故に関わってもいない、加害者夫の若い不倫相手・千恵子。事故をきっかけに関係が破綻していくのだけど、第一章を読み終えた段階では、短編集なのかな? と思わせておいて実はしだいに登場人物が折り重なっていく連作短編で。

内田 その後の展開が、まるで予期しない方向に転がっていくんですよね。

久田 そう。二章では被害者の母親・吉乃、三章で加害者夫の健二、四章で加害者であり健二の妻の美里……と視点が変わり、どんどん事故の全容と当事者たちの心情があらわになっていく。

内田 どこへ連れていかれるのか、最後までわからない。五章の結びは想像だにしなかったので、震えました。

久田 いきなり吉乃の視点から悲劇が語られていたら、ここまで揺さぶられなかったかもなあと思います。誤解をおそれずにいうならば、この作品において人の死はそれほど重要じゃなくて。誰かが死んだのちも生きていく人々の生活こそがメインで、どの立場の人にもそれぞれの社会があり、生活があるということが描かれているんです。何気ない日常の延長に事故があるから、なおさらその重さが胸に響く。

内田 生と死は地続きであり、日常と非日常がすごく隣り合わせである。ひとごとじゃないと強く思わされた。自分もいつどこで事故にあうかわからない。加害者になるかもしれないし、被害者になるかもしれない。その切り取りかたが、巧い。

櫻井 たぶんそれは、日常の何気ない風景の描かれ方がとにかく丁寧だからだと思います。どの立場の人とも私自身はちがうのに「わかる!」と思わされる瞬間があふれていました。部屋の埃とか、マグカップの茶渋とか……不倫相手と見る映画は、絶対に自分の会員証を使うとか。そんな些細な描写がぐっと胸に迫って。

久田 初デートのときで抱き寄せられたとき、いつもより厚塗りのファンデーションがシャツにつかないか気になっちゃうとか。

櫻井 そう! 私は加害者にも被害者にもなったことはないし、事故も起こしたことはない。このなかの誰とも、境遇は重ならない。それなのに感覚として、感情として、“わかって”しまう。だからこそ帯には「日常の物語」というキャッチをどうしても入れたかったんです。

久田 私が「希望」や「光」と入れたのは、やっぱり五章があったからかもしれないですね。「この人をもってくるのか!」という驚きもあったけど、何より、「誰もが自分の知らないところで誰かに救われているんだ」と思わせてくれたから。登場人物だけでなく読み手の私たちにも光を与えてくれる終わり方でした。

内田 僕が今回、「鮮烈」や「痛烈」ってフレーズを使ったのは、グサグサッとお客さんに刺さってほしかったからなんですよね。この作品は、内容はもちろんのこと、表紙の写真もすばらしいし、タイトルも美しい。全体的に上品なんです。そういう作品は売り上げも上品になるというのが本屋のあるあるで……。

櫻井 残念ながら「きれいだな」と思うだけで、通り過ぎちゃうんですよね。

内田 そこをなんとか逆転させたかった。だからといって下品にしたいわけではなく。ポップや帯というのは、作品の長所をいかに伸ばして、足りないところを補うかが勝負だと思っているので、今回の場合はインパクトが必要になるな、と。目に飛び込んでくる短いフレーズでお客さんが足を止めるようなものにしたくて、配色も考えました。

■お客さまは強烈なプッシュと本を手にとる動機を求めている

内田 ポップや帯文を書くのは、大前提として「おもしろいから売りたい!」という気持ちがあるからだけど、とくに最近、お客さまが道しるべを必要としているのを感じますね。本がありすぎて、選べないし、探せない。誰かが強烈におすすめしていたり、映像化されていたり、何かの1位に選ばれていたりしないと買わないという人は多い。1位をつければ売れるという時代も少し前にはあって、冗談で「2位になった回数1位」とかつけたものもありました(笑)。

久田 それ面白いですね(笑)。みんな、お祭りに乗っかりたいというか、盛り上がっている輪のなかに入りたい気持ちはあるんじゃないでしょうか。

内田 さわや書店さんの『文庫X』を僕らも店舗で仕掛けたのだけど、神保町本店ではその年の一般書ベスト1になったんです。中身がわからなくても、強烈なプッシュがあれば売れるしお客さまもそれを求めているんだと思い知りました。

櫻井 若い子が「あ、この本知ってる~」って言いながら本を手にとっているのをよく見かけます。テレビや雑誌で紹介されないと、手にとるきっかけにならないんですよね。まったく知らない本は、読めない。

内田 だからといって、安易にアイドル写真のカバーとかにはしたくないんですけどね(笑)。

櫻井 そこは書店員としての矜持がありますよね。売れるからといって、納得いかない売り方はしたくないし、むやみやたらに勧めたくもないっていう。私は、本当に自分がおもしろいと思った本にしかポップはつけないようにしています。たとえ100万部売れた本でも、映画化しても。まあ、事実だけなら書いてもいいけど、おもしろいとは絶対に書かない。そうじゃないとお客さまに信用してもらえないから。

内田 小さなことかもしれないけれど、自分の信じた本だけを勧めることを積み重ねていくと、それがあんがい、お客さまにも伝わりますからね。

久田 信頼関係。この人のおすすめなら買おうって思って、お店に来てくれることもありますし。そろそろあの常連さんが来るなあ、来たらあれとあれを勧めよう、とか考えるのは楽しい。あと、そっと特定の人を思って棚に1冊さしておくと、知らないうちにちゃんと届いて売れていることもあります。

櫻井 あるある! 勝手に仕入れておくの。うちは小さな書店だからできることかもしれないけれど。

内田 たった1冊でもあの人さえ買ってくれればいい、みたいな。そこまでくると極まっていますね。でも、いい書店ってそういうものだと思います。本読みのお客さまに負けないように僕ら書店員も読んで、一緒に高めあっていく。お客さまが棚を作っていってくれるんです。

久田 「この間のあれつまんなかった」とか言われると申し訳なくなるし、そこで離れてしまうこともあるから、怖いですけどね(笑)。

内田 本屋大賞も、書店員が本当に売りたいと思う本を一人でも多くの読者に届けるために設立されたものじゃないですか。本屋大賞も一枚のポップも、志は同じなんですよね。ただ、規模が大きくなるとどうしても、結果は多数決になってしまうので……僕は本屋大賞受賞作の隣に自分の本当に売りたい本を置くようにしています。

櫻井 私の本屋大賞はこれです!って。

久田 むしろそれが、書店員の本当にやりたいこと。

内田 それを実践している書店は信頼していいと思います。大賞の横に何を置くかが、書店員として腕の見せどころなわけです。今年は自分の1位と、みんなの1位が一致した稀有な例でしたけど。『かがみの孤城』は選考でほとんど異論が出ませんでした。

櫻井 ああいう本に出合える年は、私たちも幸せですね。胸を張っておもしろいです!って言えるし、自信をもって売れる。その思いは、売り場でも伝わって、お客さまも次々と手にとっていく。

久田 そう。念を送ると、あんがい、伝わる。ただ私、今年の本屋大賞は「これで決まりだろう!」って思ってたのは別の作品で……。言っても大丈夫かな。

櫻井 大丈夫、大丈夫。

久田 伊吹有喜さんの『彼方の友へ』。直木賞にもノミネートされたけど、本屋大賞ではなんと上位10作に入らなかったんですよね。11月発売というタイミングも悪かったのかもしれないけど、それが悔しくて腹立たしくて……! こんなのおかしい! 間違ってる!って、まわりの書店員に声をかけて。有志で勝手に賞をつくっちゃった。

内田櫻井 すごい!

久田 作品の内容にちなんで、「乙女の友大賞」っていうのだけど。とにかく何かをせずにはいられなかった。だから、名古屋の書店員さんたちに声をかけ自分たちで賞を作っちゃおう、そして伊吹さんに送り付けちゃおうと計画を練って。そこから知り合いでこの本を好きだと言っている書店員さんたちに無駄に熱いメッセージを送って仲間を増やし、大賞帯やフリペを作りました。3月末には伊吹さんをお招きして「『彼方の友へ』ファンミーティング」を開催して、サプライズで「乙女の友大賞贈賞式」を敢行したら、伊吹さんにも喜んでいただけたし、私たちもとても嬉しかったです。

■本は生き物で、旬がある。食べごろを届けられるかどうかが勝負

櫻井 本屋大賞の授賞式で、恩田(陸)さんが「本には旬がある」って話をしていたじゃないですか。一番いいところでお客さまに届けられるか否かが勝負だ、って。『一瞬の雲の切れ間に』が、いまこのタイミングで文庫になったというのは、私たちにとっても売り時という意味なのかなという気がするんですよね。

内田 この本の最大の魅力であり、売り方がむずかしいのは、あらすじを説明すればするほど核心から遠ざかってしまうこと。死亡事故のいたましさとか、誰と誰がどういう関係にあるとか、そういう具体的な事象は本質ではないから。でも、いい本ってそうなんですよね。ポップに書く言葉が、浮かばないんです。

櫻井 「とにかく騙されたと思って読んでください」ってポップを私は新たに立てました(笑)

内田 わかります。長嶋有さんは一言「レジへ」とポップを書いてくれました。

久田 読んで、としか言えないんですよね。立場によっても、読むタイミングによっても、絶対に感じ方が変わってくるし。

内田 もう一回読んだら、今度は全然ちがうポップを書くかもしれない。そういう語りつくせない何かがこの本にはあるんですよね。

櫻井 だからこそこれほど6種6様の帯が生まれた。どれがいちばん手にとられるのかも気になっちゃうな(笑)。地域や客層によっても、響く帯は変わってきそう。

内田 日替わりで変えてもおもしろいかもね。こうしてみると、本って生き物だなとつくづく思います。人間と同じで、一冊の本を読んでも受け取る印象は人によって違う。だから人によって、伝えたいフレーズもカラーも変わってくる。そこが、おもしろい。

久田 この作品じたい、ひとつの事象でも感じ方や見え方が変わってくることを描いていますしね。誰かのたった一言で、印象を逆転させられてしまう場面も多々ありました。

櫻井 同じ感想しか出ない本もありますから、それだけこの作品に深みがあるということでしょう。この本を手にとったお客さま一人ひとりに、どの部分が響いたのかを聞いてみたい。Twitterとかで感想を集めたらおもしろいんじゃないかなあ。

内田 とにかく、今が旬の、食べごろの作品であることは太鼓判を押します。気合を入れて、売っていきたいと思います。

(左から)成田本店みなと高台店櫻井美怜さん、三省堂書店内田剛さん、精文館書店中島新町店久田かおりさん

取材・文=立花もも 撮影=内海裕之