イギリス好き必見!『英国幻視の少年たち』いよいよ完結。 不器用な少年たちは果たして…?

文芸・カルチャー

公開日:2018/5/12

 イギリスを舞台に、不器用な少年たちと「幻想的生命体」が織りなすファンタジー小説『英国幻視の少年たち』(深沢仁/ポプラ社)。現在5巻まで文庫が出版されている大人気の本作が遂に、結末を迎える。

 主人公の日本人留学生・海(カイ)は、とある女性の「死」から逃げるようにイギリスへやって来た。ウィッツバリーという田舎の町で、霊感のある彼は「妖精」と、イギリスにおける幻想的生命体の保護・監察を行う「英国特別幻想取締報告局」の一員、ランス・ファーロングという赤毛の青年と出会う。

 平穏な日々を求めるカイだったが、ランスと出会い、彼は様々な「幻想事件――ファンタズニック」に巻き込まれていく。(シリーズの詳しいレビューはこちら

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 最新6巻では、いよいよクライマックスに突入する。その完結を記念して、著者の深沢仁先生にインタビューを実施した。

 本作の制作秘話や、カイとランスの「もしも彼らが○○したら」など、ここでしか読めない『英国幻視の少年たち』ファン必見の内容となっている。

 また、完結を機に1巻から読みたいと考えている読者のための「読みどころ」もご紹介しているので、未読の方も要チェックだ。

――本作が誕生したきっかけを教えてください。

 実は大学生の時には、すでに構想がありました。

 ファンタジーを書いてみたくて。それで安易なんですが、ファンタジーと言えばイギリスだと思い、舞台を決定しました。実際に行ったことのある場所を描きたかったので、その時は大学生で時間に余裕があったこともあり、イギリスへ行ってみたんです。1週間くらいの旅だったけど、「ここには妖精がいる!」と確信して(笑)

 そして『英国幻視の少年たち』が生まれました。

――最初から続巻が予定されていた本作。深沢先生初のシリーズものだったそうですが、意識したことはありますか?

 最近だと1冊出してから、様子を見て続きが出版できるか分かることも多いですよね。けれど、続きものにしましょうと言ってもらえたので、「続くよ」というたくさんの伏線を、本当に自由に張れたのが楽しかったです。

――本作の魅力の一つ、カイとランスという2人の不器用な少年たち。彼らはあまり「主人公らしくない」性格のように思われますが、この2人はどのような経緯で生まれたキャラクターですか?

 主人公らしくない性格だとはよく言われます。ただ私は、いわゆる主人公らしい性格の男の子とか、(小説やマンガなどでよくある)凸凹コンビみたいなのが、ちょっと苦手で……。カイもランスも「陰と陰」のキャラクター。珍しいかもしれませんが、それでも好きになってくれる読者の方がいてくれて、嬉しかったです。

 ランスの見た目は、赤い髪は昔から欧米で、迷信的に差別されてきたとか、緑は妖精と縁が深いから瞳の色にしようとか、そういうふうに決まりました。

 カイは、日本人の男の子というのは決まっていて、実家が神社だから、イマドキの若者よりも校則は守っていそうな見た目。過去に色々あったので、明るくはない。それくらいですね。あまりしっかり決めて書いてはいなかったと思います。

 あと、なんでこんなに出てくる人々がみんなひねくれたのかは、私にも分からないです(笑)。

――カイとランスの「打ち解けそうで、打ち解けない」微妙な関係が好きな読者も多いと思いますが、個人的にはもっと2人の日常的な交流が見たいです!……ということで、「もしも2人が○○したら」をいくつかお聞かせください。

Q.もしもランスが日本に来たら、カイはどこを案内しますか?

 カイはランスを渋谷とか新宿の人混みに連れて行って、そういう場所が苦手なランスがヘロヘロになったのを見た後は満足して(笑)、それからは静かな神社とかお寺に連れて行くのではないでしょうか。古いものがあって、その土地の人々の宗教観や死生観がわかるところ。ランスは、普通の観光には興味がないと思います。

Q.もしもチェスをしたら、どちらが勝ちますか?

 カイはチェス初心者なので、ランスが教えるところから始まります。だから最初はランスのほうが強いけど、カイは段々「ランスならこう動かす」という性格的な部分を読み始めるので、カイがルールを覚え、繰り返しゲームをしてからは五分五分になり、カイの勝率はどんどん上がっていきます。

Q.負け続けても、ランスはチェスに付き合ってくれるんですか?

「やろ」と言ったら応じてくれるはず。カイが強くなればランスも鍛えられるので、一方的に負け続けることにはなりません。チェスはあんまりしゃべらなくていいし、わいわいしなくていいから、それくらいならランスも付き合ってくれると思います(笑)。

――深沢先生ご自身のこともお聞かせください。影響を受けた小説はありますか?

 中学生のときに出会って以来、森博嗣先生の作品には、生き方や考え方についてすごく影響を受けました。

 最初に読んだのは『スカイ・クロラ』で、それからずっと追いかけています。先生の作品で、初めて「読みながら泣く」のではなく「読み終わってから泣く」という経験をして、本当にこの方はすごいと思い……。

 感情的にならずに判断するとか、なるべく先のことを考えておくとか……「冷静でいることの価値」みたいなものを学んだ気がします。

――英語がお得意な印象がある深沢先生。「雑談ができる」ほどの語学力につながったというアメリカ留学の経験は、本作のシニカルで洒脱なセリフにも生かされていますよね。

 カイとランスの会話は、頭の中では英語で考えて「英語風の返し方を日本風に訳す」という感じで書くこともありました。ユーモアのセンスは違っても皮肉が好きなのはイギリスもアメリカも同じで、素直な返しはあまりしません。「ここでちょっとひと笑い、ひとひねり入れる」……みたいな会話は習慣のように感じました。

 1年だけですが外国で暮らして、そういう独特な言い回しやジョークなどの「文化」と一緒に英語を覚えられたことは、いい経験になりました。

――最新6巻の読みどころを教えてください。いつもよりアクション多め、危険も多めのハラハラした展開が印象的ですね。

 どうなるか分からない危機的な状況だからこそ、いつもは感情を出さないキャラクターたちが一瞬だけ素を出しているとか、いつもは言わないことを口にするとか、そういうのを一行や一言に込めているので、それを見つけてもらえたらと思います。

――本当に完結してしまうのですね……。もしも続きがあるとしたら、どのような展開を考えていますか?

 カイは何らかの形で「報告局」と関わり続けることになりそうなので、ランスとの話を進めてもいいですし。彼ら以外を真ん中に置いたり、10年、20年前に舞台を移したり、あの世界観なら、いくらでも書けると思います。

――次回作の構想もあるということですが……。

 外国を舞台にしたお話が好きなので、異国の雰囲気を感じられるものがいいなと。あとはなんとなくですが、「閉鎖された空間で共同生活を送る人たち」……というのをいつか書きたいなと思っています。

――「英国幻視の少年たち」シリーズを愛してきた読者の方へ、メッセージをお願いします。

 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。カイとランスをはじめとして、このひねくれた人々を皆さんに見守っていただけて、最後までストーリーを追っていただけて光栄でした。

――本記事で興味をもった読者の方へ、本作の魅力をお伝えください!

 薄暗い雰囲気のお話で、不器用な少年たちが少しずつ仲良くなっていく……えっと、一言で表現するのが難しい……とよく言われていて……(笑)。

 ほの暗い感じの、イギリスを舞台にした物語です。そういう雰囲気が好きな方には響くと思いますので、ぜひ読んでみてください。

――「イギリス」「妖精」「ゴースト」「幻想」「少年」「不器用」……2つ以上ピンとくるものがあれば、『英国幻視の少年たち』はあなたにグッとくると思います! 深沢先生、ありがとうございました。

取材・文=雨野裾 撮影=岡村大輔