止まらない群馬愛と、初のタイアップ。自信を得て進み始めた「うっちー」の現在――内田彩インタビュー

アニメ・マンガ

2018/5/11

『お前はまだグンマを知らない』群馬テレビ、GYAO!、アニマックスにて放送中 (C)井田ヒロト・新潮社/お前はまだグンマを知らない製作委員会
http://omagun.com/

 声優・内田彩が1stアルバム『アップルミント』をリリースしたのは、2014年11月。それから3年半、一度もアニメのタイアップがついたことがない、という事実は、「声優の音楽活動」というくくりで見れば、実際かなり異例なことである。では、内田彩の音楽が知る人ぞ知る的な存在だったかというと、まったくその逆で、フルアルバムを3枚発表し、2016年8月にはその時点の持ち曲すべてを披露するという初の日本武道館公演を開催。アーティストとしてのポジションをしっかりと確立してきたわけだが、これにはふたつの理由がある。内田自身が音楽活動の中で次々に「やりたいこと」を見出し、表現の幅をぐんぐん広げてきたこと(2016年2月にリリースした2枚のコンセプトアルバム、『Sweet Tears』『Bitter Kiss』はまさに好例)。そしてそんな内田の音楽を、曲単位ではなく、まるごとすべて愛し、支えるオーディエンスの存在。常に新たなチャレンジが織り込まれるライブでのパフォーマンスと、それを受け入れ盛り立てる聴き手が、「内田彩の音楽」を形作ってきた。そんな内田にとって初めてのアニメタイアップ楽曲が、2ndシングルの『So Happy』(5月9日発売)。TVアニメ『お前はまだグンマを知らない』(以下『おまグン』)のエンディングテーマであり、デビュー当時から「地元・群馬に関わる仕事がしたい」と公言してきた彼女にとっても、念願の1曲だ。群馬に関する独特な(?)感覚を披露しつつ、3rdアルバム『ICECREAM GIRL』以降の音楽活動と新曲について語ってもらった。

2時間くらいで東京に着くんですよ。高崎、すごくないですか?

――2ndシングルの『So Happy』、ついに今回は初のアニメタイアップということで。

内田:はい。初・タイ・アップ!

――(笑)おめでとうございます。

内田:ありがとうございます。むしろこのまま何もつかないで、「タイアップなんてつけないぜ」みたいな感じもカッコいいかな、と思ってたんですけど、いざタイアップがつくってなってみると、『おまグン』でできて本当によかったです。

――今まではわりと我が道を行く感じの音楽活動をしてきたと思うんです。そして、それがすごく音楽性を含めて魅力になってたと思うんですけど、ようやくタイアップがついたと思ったら群馬か!と。

内田:そうそう、そこがほんとに嬉しくて。今、いろんなものがここで揃って、素晴らしいパズルが完成したなって思いました。

――こんなに明確な地元押しのタイアップをつけられる人って、ある意味あまりいないというか。手元の資料にも、「群馬出身、群馬観光特使も務める」っていうキャッチフレーズがついてますけど。

内田:「せっかくだから、これでもかっていうくらいやりたいですね」っていう話をしていて。ジャケット撮影もいろいろ候補を出していただいたんですけど、群馬の遊園地もロケハンしていただいて。「あ、これ、るなぱあくだ」って、地元の人にはわかるんですよね。あとは、ことあるごとに「ぐんまちゃんを出したい!」って言ってて、スタッフさんもいいよって言ってくれて。「群馬で! 群馬推しで!」ってずーっと言ってました。

――アニメ『おまグン』の1話を観たんですけど、とても面白かったですよ。

内田:監督のまんきゅうさんが面白くて。他の作品も観て、素敵に仕上げてくれるんじゃないかなって思ってたんですけど、わたしが勝手に思っていた以上に、現場がすごくいい感じになっていて。スタッフさんに群馬出身の方が多いんですけど、ひとつの作品にこれだけ群馬県民が集まってきているのも珍しいな、と思って。アフレコも、最初に「群馬県出身なので、わからないことがあったら聞いてくださいね」みたいな挨拶をしようと思って現場に行ったら、引っ越してくる設定の主人公と幼なじみ以外は群馬出身のキャストで揃えられていて、現場が楽しくて楽しくてしかたないんです。もう、群馬話が止まらなくて。

 監督も「僕は方言わからないんで、方言指導は皆さんで勝手にやってください。で、OKください」って言ってて、「いいんだ? それで」って思ったんですけど(笑)。群馬には上毛かるたっていうかるたがあるんですけど、わたしがやっている篠岡っていう役が、上毛かるたがすごく強くて。群馬県民が観てると「わかるわかる」ってなるんですよ。主人公を演じている梶原(岳人)くんは群馬出身ではないので、リアルに意味がわからない主人公と同じ気持ちでいると思うんですけど、まわりは「あれだよね」って話していたり。

――作品の中で、「グンマからは生きて帰れない」って出てくるじゃないですか。で、自分は出身が千葉県なんですけど――。

内田:あっ、じゃあ主人公と一緒だ。主人公は、千葉から群馬に引っ越してくるんですよ。

――そうそう。でも、意外と郊外育ちには身に覚えがあるというか。チャリ通学をするときに風で前に進まないとか、「すげえわかる!」って思ったんですね。この作品って、日本のいろんなところで同じようなことが起きていて、群馬をデフォルメして伝えることで面白く描けているのかな、と思ったんです。

内田:それは監督もおっしゃってました。今回のシングルはタイアップなので、曲を決めるときに監督に何曲か候補をお伝えしたときに、わたしは『おまグン』の原作もずっと見ていたので、おどろおどろしい感じというか、ちょっとくせのある感じにしたほうがいいのかなって思ってたんです。逆に監督は「これは群馬愛の作品だけど、観た人が自分の故郷を思い返して、故郷愛を感じてもらえる歌をエンディングにしたい」「自分の地元もこうだったなって思ってもらえるエンディングにしたいんですよね」っておっしゃってたんですよ。そこに、ぴったり曲が収まりました。

――内田さんは群馬人であることを公言してますけど、「自分が群馬人だなあ」って自覚するのって、たとえばどんなときですか?

内田:やっぱり、たくましいっていうところはあるなって思います。群馬では「かかあ天下と空っ風」ってよく言われてて、ぱっと聞いた印象だと「女が強い」みたいな――まあ、それも間違ってないと思うんですけど(笑)。世界遺産になった富岡製糸場っていう工場で女の人が生糸を作ってたりした背景もあると思うんですけど、「働き者のうちのおっかさんは天下一だ」って旦那さんが言ってるうちに、「かかあ天下」ってなったらしくて。「働き者で強い女」みたいなイメージを聞いて育ってきたから、たくましい部分はあるかもしれないです。あと、群馬ってちょうどいい位置にあって。東京からも、そんな遠すぎず。うちの地元は、東京から2時間半くらいで帰れるんですけど――。

――遠すぎず? 2時間半はめちゃくちゃ遠いと思うんだけど(笑)。

内田:ええー! 近いじゃないですか! MVの撮影もそうだったんですけど、群馬に行く機会が多くて、新幹線を取ってくださるんです。でも、「湘南新宿ラインで行けるのにな」って思っちゃう(笑)。だって、2時間くらいで東京に着くんですよ。高崎、すごくないですか?

――いや……余裕で遠い……。

内田:うそだぁー。群馬人からしたら、普通の人は遠く感じるところも「え、近いじゃん」ってなるんですよ。だから――我慢強い、のかな? わたしも声優の専門学校に行ってた頃は、地元の群馬から2時間半、毎日往復で約5時間くらい通ってました。だから、通えない距離ではないんですよ。帰ろうと思えばすぐに地元に帰れるので、だからこそみんな地元好き感が強いのかなって勝手に思ってます。たとえば、青森とか北海道だと、そんなにすぐには帰れないじゃないですか。でも2時間電車に乗っていればすぐ帰れるから……って、ちょっと、ちゃんと聞いてくださいよ(笑)!

――全然共感できてない(笑)。

内田:めっちゃ近いのに~。

――でも、今話してくれている感覚って、表現者・内田彩を何かしら象徴している気がしますね。気が長いのかもしれないし、我慢強いのかもしれないし。毎日2時間半を往復しているうちに育まれたものが何なのか、とても興味深いんですけども。

内田:「2時間半だったら本読めるじゃん」って、本を読む時間に使ってたり、立ったまま寝れるようになったりしました(笑)。

――(笑)やっぱりたくましさ、前向きさなのかな。片道2時間半を普通だと思うのは、おそらくすごいことなんですよ。その間に何かをしようって、発想が前向きに切り替わってるわけですよね。普通だったら――何が普通かわからないけど、片道2時間半かかったら、絶対都内でひとり暮らしするでしょう。

内田:あはは! だから、やっぱりちょうどいい距離なんですよ。

――ちょうどよくはない(笑)。今の内田さんにとって、群馬とはどういう場所なんですか。

内田:家族がいるところ、ですね。やっぱり愛はあります。今回、『おまグン』に関わらせていただけることになったんですけど、デビュー当時から「群馬の仕事がしたい」ってずっと言ってて。『おまグン』をやる前から言い続けてきたので、やっぱり群馬の人には地元愛があるのかなって。今までは考えたことがなかったけど、『おまグン』をやることになって改めて外側から群馬の人を見てみたら、「地元愛が強いって言われてもピンときてなかったけど、やっぱり強いじゃん」って、やっと納得できました(笑)。

積み重ねてきたものがあるから、ようやく自信を持って「わたし、歌も歌うんですよ」って立てる

――昨年9月に出した3rdアルバム『ICECREAM GIRL』を振り返ってみたいです。アルバムを通して、表現力がすごく高まった感じがあるなあ、と思いながら聴かせてもらったんですが、内田さん自身もその実感があるんじゃないですか、

内田:確かに。「武道館で全曲ライブをして、シングルで“SUMIRE SMILE”を出したことで『満足満足、OK』」って思っていたので、『ICECREAM GIRL』を出すときは「えっ、アルバム? どうしよう? 何しましょう?」ってなってたんですよ。だけど、逆に何も考えずに「楽しければいっか」みたいな感じで、すごく自由な気持ちになれたんです。のどを手術して、普通に声が出せる嬉しさもあったし。

 6月にライブ(『Early Summer Party ~SUMILE SMILE~/~Everlasting Parade~』、新木場STUDIO COAST)をやったときに、ファンの人たちがすごく喜んでくれて、「おかえり」って言ってくれたんですね。そのときに、「そんなに思ってくれてたんだ、おかえりなんて言ってもらえるんだ」って思って。ソロ活動の場が育ってきて、みんなに「ここでなら自由に羽ばたいてもいいのかな」って徐々に思わせてもらえたことが、すごく嬉しかったです。そういう体験をしてからのアルバム作りだったので、「声優の内田彩さん」というよりも、「内田彩として何か作ってもいいのかな」みたいな感じで、ひとつ肩の荷が降りたというか。「もっと面白いことをやりたいな」「まだやってなかったことをやってみよう」って思いながらアルバム作りをしたので、幅が広くなったのかもしれないです。

――『ICECREAM GIRL』の中に、ものすごく衝撃的な曲があって。毎回、内田さんのアルバムには衝撃があって、1stなら“ピンク・マゼンダ”、2ndは“Daydream”だったんですけど、『ICECREAM GIRL』は“Close to You”を聴いたときに、「すげえなこの曲!」「この人、こんな歌も歌えるのか。表現できることがまだまだいっぱいあるんだな」って思ったんですよ。

内田:レコーディングのときは「どういうアプローチでやったらいいだろう」ってすごく悩んで、いろんな歌い方をしてみたんですけど、それこそ曲に飲まれちゃったり、雰囲気に流されちゃったりしてたんですよ。それっぽい感じで歌ってみても、「なんか違うなぁ」って思ったりして。結局何周かぐるぐるして、結果普段のかわいらしいトーン歌ってる感じを採用することに決めたんです。レコーディングのときって、いつも小一時間くらいあっち行ったりこっち行ったり、やっぱり戻ったりしてこねくり回す作業があるんですけど、それが大事だなって改めて思いました。

――今の話、全然初めて聞いた気がしないんですけど(笑)。1stの『アップルミント』の頃から、内田さんのレコーディングって「まずはぐるぐるして、自分らしく歌ったテイクを採用」が多いですよね。

内田:あはは! いい加減覚えろよっていう(笑)。

――(笑)面白いのは、答えの出し方がわかっているのに、とにかくいろいろ試してぐるぐるする、ということで。ぐるぐるした結果、自分らしく歌ったものこそがいいものになる、と。ただ“Close to You”の場合、音楽活動の初期にこの曲があったとして、ただ自分らしく歌うだけで歌いこなせていたかというと、たぶんそうではないと思うんですよ。

内田:確かに。

――もしかしたら、自分自身を出すのではなく、作った感じにすることでようやく歌える曲だったのかもしれない。でも今だったら、自然に出たアウトプットで完成度が高くて聴き手を惹きつける歌にできる。平たく言うと、表現が大人になったんだな、という印象があって。

内田:わーい! やったあ。最初、ライブで歌うときは、気持ちを作ってた部分があったんですけど、今は普段聴いてくれている人の顔を思い浮かべながら、その対象に向かって歌うことができているので、そういう意味では、自然に大人な気持ちで歌えたのかもしれないです。聴く人の顔が見えた上で歌えている、というか。特に後半は大事な人を想うラブソングっぽい感じがあるんですけど、大事な人たちを思い浮かべて――特に、新木場コーストでのライブの光景を思い浮かべたりしますね。最初の頃は、曲がラブソングだったら「彼がいて……」みたいな世界観で歌ってたんですけど、今は広い意味でみんなに届くように、みたいな気持ちで歌えていると思います。それくらい、ライブの場でみんなからもらったものが大きくて。ほんとに喜んでくれたので、「ああ、嬉しいなあ」って思いました。新木場のライブがなかったら、アルバムを作るときの心持ちが全然違ってたんじゃないかって思います。

――届ける側と受け取る側の関係性が、とてもいい状態なんでしょうね。「楽しい音楽を届けてくれる」という信頼関係が、ちゃんとあるというか。その関係が続く限り、どんどんいい音楽が生まれていくし、そうやってライブで受け取ったことが制作につながっていく。もちろん、レコーディングで一回ぐるぐるすることも、いい結果につながるし。そうなると、音楽活動がますます楽しくなりますよね。

内田:そうですね。この間、カップリング候補曲を選ぼうってなって、みんなで聴いてたんですけど、「これもいいけど、今じゃないから、次にやってみよう!」みたいな感じで、勝手にストックしていってるんですよ。「絶対これやりたいから、とっておいてください!」みたいな(笑)。なので、今はすごくいい状態なんだろうなって思います。でもそうやって思えるのも、届く先が明確にあるからかもしれないですね。

――2016年の武道館ライブの直前の時期に、「いろんな力に押されてどんどん進んでいく、誰か止めて~」みたいな話をしていたじゃないですか。でも今、話を聞いていると、自分の意思を持って進んでるんだなあ、という印象があるんですけども。

内田:そうですね。今は、止めてもらわなくていいや、みたいな(笑)。『おまグン』で初めてアニメタイアップがついて、今まではひっそりこっそりやってきたけど、これからは「これがわたしです!」っていう感じで、自信を持って表に立てる自分にならないとタイアップを背負っていけないと思っていて。『おまグン』でとてもいいきっかけをいただけました。

 今までにいろんな人がくれたものが自信につながってきていて。最初からタイアップがついてたら、たぶんこうはなれなかったですね。このタイミングで素敵な自信を身につけさせてもらったし、作品に色を添える立場になれたことは、とてもありがたいなあって。これまでに積み重ねてきたものがあるから、ようやく自信を持って、「わたし、歌も歌うんですよ」って立てるのかなって思います。

取材・文=清水大輔  撮影=森山将人
ヘアメイク=時田ユースケ(VREEA)