座談会「年の差恋愛」ぶっちゃけどうですか?

マンガ

公開日:2018/6/5

20代、30代、40代、50代と世代の違う4人が、年の差恋愛について赤裸々に語る! 思い出の作品について、年の差恋愛マンガに求めるもの、そして、それぞれの年の差恋愛体験、恋愛観にも注目を。

Aさん 50代・会社員
Bさん 40代・自営業
Cさん 30代・フリーランス
Dさん 20代・会社員

 

D— 世代によって「これ」という年の差マンガが違いそうですね。

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A— 私の世代だと『砂の城』。

B— 女性のほうは亡き恋人の面影を、別の女性との間に生まれたその息子に重ねて、子どものほうも女性に恋をする……激しい話でした。

『砂の城』書影
『砂の城』(全4巻)
一条ゆかり 集英社文庫C版 670〜700円(税別)

C— 私はいちばん覚えているのが『ディア マイン』。女の子が高校生で、男の子が10歳くらい……でも大学卒業できるくらい頭がいい。しかも社長さんなんですよ。

A— え……? 

C— (笑)。10歳で会社も背負っている。女の子はぽわーんとした子。親の都合で許嫁にされてしまって、同居が始まる、という設定です。

B— 男性が子どもだと「体は子ども、中身は大人」みたいなものが求められる気はしますよね。

C— そうですね。でも年下だから年上を尊重してくれる感じがあって。どれだけ頭がよくても、恋に関してはピュアじゃないですか。

B— なんせ子どもだから(笑)。

C— でも財力は大人ばりにある。

A— すごいファンタジー!

B— 『花とゆめ』だし『ぼくの地球を守って』の流れを汲んでいる感じがありますね。

C— まさにそうですね。『ぼく地球』が大好きでした。私は男の人に上から目線で来られるのがすごく嫌いなんだろうなあ、とあらためて思いました。

『ディア マイン』書影
『ディア マイン』(全2巻)
高尾 滋 白泉社文庫 各648円(税別)

D— 上から来られた時点でときめきは封鎖されるんですね。『Love, Hate, Love.』の主人公も、上から目線が苦手な女の子でしたよね。相手はすごく年上だけど、上からは来ない人。

B— 「おまえ」じゃなくて「あなた」と呼ぶ、大学教授の男の人。

『Love, Hate, Love.』書影
『Love, Hate, Love.』
ヤマシタトモコ 祥伝社フィールC 648円(税別)

C— 私はおじさんだったらかわいい人が好きです。『海月と私』の宿の主人とか。若い女の人に振り回されて、ずっと動揺し続けている感じがいい(笑)。

『海月と私』書影
『海月と私』(全4巻)
麻生みこと 講談社アフタヌーンKC 各590円(税別)

B— 男の人が年上もののちょっと変型なんですけど、『乱と灰色の世界』が大好きで。主人公の乱ちゃんは、魔法でセクシー美女になれる、魔女っ子です。まさに「体は大人、心は子ども」。

C— あ、それで会社社長と……。

B— そうそう。女遊びの激しい凰太郎というアラサーの御曹司が、子どもだとは知らず、乱に夢中になる。乱もキスに応じたりするんだけれど、無自覚に女としての何かが発動している感じがあって、そこはかとなくエロスを感じさせるんですよ。魔女っ子ものにはそういうよさがある。

A— 『ふしぎなメルモ』とかもそうですね。

『乱と灰色の世界』書影
『乱と灰色の世界』(全7巻)
入江亜季 KADOKAWAハルタC 620〜720円(税別)

D— 私はいくえみ綾さんが好きなんですけど、年上の男性に恋する設定が多い気がします。『I LOVE HER』、『カズン』、今だったら『私・空・あなた・私』。中学生の女の子と庭師の男性の話です。

B— 二つの年の差恋愛を描いているんですよね。その若い庭師と、女の子の義理の母である40代の女性とがつきあっていて三角関係になるという、すごい展開。

『私・空・あなた・私』書影
『私・空・あなた・私』(全4巻)
いくえみ 綾 幻冬舎コミックス バーズC スピカコレクション 各630円(税別)

C— いくえみさんのマンガには少年はほとんど出てこないですね。

D— 若い男子でも、精神的には大人な人が多くないですか?

C— 確かに!

D— 今思い出したんですけど……私自身も高校生のときに、すごく年上の人を好きになったことがありました。バイト先の社員さん。奥さんも子どももいる人でした。

A— どこが好きだったの?

D— ほかの社員の人は、私たちにお菓子をくれたり、けっこう世話を焼いてくれてたんですよ。だけどその人は一貫して、こっちに興味がない。さっさと帰っちゃうし。「あの人愛想ないからねー」って言われてたんですけど、そこがすごく好きだった。

C— まさにいくえみマンガに出てきそう(笑)。

D— 結局話もしないままだったんですけど、ウキウキして通ってました(笑)。

B— 「私になんか振り向かないくらい大人」っていうのがいいんだよね。

■もっと50代以上の男の人を描いてほしい

A— 私も、リアルでもマンガでも男の人がすごく年上、というのが好きなんですけど、『娚の一生』が画期的だったなあと。

B— 50代の男の人をあんなふうに描いたものはなかった。「枯れ専」が流行り始める頃ですよね。でも海江田は全然枯れていないおじさんなのがよかった。性的アピールがすごい(笑)。

A— そう! 強引で。

B— 私はCさんが言っていたかわいいおじさんよりこういうギラギラしたおじさんが好きかも。

A— 私は海江田をかわいいと思ったんですよ。年上の男の人って、世代が違うせいで相手がどうしてほしいかわからないから、たどたどしくがんばる。それがかわいいんです。

B— あー、なるほど。

A— 50代以上の男の人が出てくる話がもっとあってもいいのになと思います。今は、60代の男の人もまだ全然若いですし。

『娚の一生』書影
『娚の一生』(全4巻)
西 炯子 小学館フラワーCα 各429円(税別)

D— 『リストランテ・パラディーゾ』がありますよ。

A— あれはおじさんというかおじいさんかな(笑)。私、一番好きなのが「妻を亡くした男」で。

B— ……っていうマンガですか?

A— いや、そういうシチュエーションにいる男の人が好き。

一同 (爆笑)

『リストランテ・パラディーゾ』書影
『リストランテ・パラディーゾ』
オノ・ナツメ 太田出版f×C 650円(税別)

B— 『娚の一生』の海江田も、主人公の祖母にあたる恋人を亡くしていましたね。

C— 死別だと前の奥さんが理想化されるからつらい、とかはないですかね?

A— むしろ、亡き妻にできなかったことを、自分にしてくれるから、すごくやさしいんですよ。

C— 後悔を残しているからやさしくしてくれるわけですね。そのシチュエーションでなくても、年の差があるほうがお互い大事にしているように描かれやすいかもしれない。

D— 男女どちらが上か下かは関係なくそうかもしれませんね。

■倫理観にしばられる!

C— 年の差のある相手には、ふだん自分の所属しているコミュニティの中にはいない、普通にしていたら出会わない相手、という特別感もありますよね。

B— 大人同士だとそうですよね。ただ年の差ものの一番の定番「先生と生徒もの」の場合は、逆に限られた選択肢の中で好きになってしまっている感じもある。

D— 学校という組織の中で与えられる大人だから……。でも先生に憧れる気持ちはわからなくもなくて。先生は長く生きている分、見えている世界が広くて素敵に見える。さっき言った『I LOVE HER』の新ちゃんとか。

B— 新ちゃんはズルい(笑)。『海の天辺』の河野先生もすごくかっこよくて、好きにならざるを得ない! ただ生徒が先生を好きになるのは当然だよなと思いつつ、先生には大人として拒んでほしくもあり……。どうしても倫理観にしばられる!

一同 わかる!

B— フィクションなのだからそこは関係ないんだと思いつつ、気になってしまうんですよ。

D— 成人してたらOKですかね?

B— 自分で判断ができるからね。

C— 『ディア マイン』みたいにお互い10代の場合も、倫理的なところは気にならないかな。

A— たぶん今いちばん売れている年の差ものの『恋は雨上がりのように』も、店長自身が「身近にいるちょっとやさしい大人」だから惚れられているだけだ、という気持ちを手放さないのがいいですよね。9巻まできても、あきらの気持ちを受け入れない。

B— 年下からの気持ちを絶対に受け入れちゃだめな場合がある気がしますよね。『うさぎドロップ』は、すごくショックだった……。

C— りんちゃんが大吉を好きになるのはしょうがない。でも大吉は、受け入れないでほしかった! お父さんになっていく過程がすごくよかったから……。

A— 親子愛の話で終わってほしかったですね。

 

D— 『よつばと!』のよつばと、とーちゃんが結婚したらすごくショック、という感覚に近いですね。

B— わー! それは絶対嫌だ!

C— 『恋のツキ』はどうですか? アラサー女性と高校生男子ですよね。

B— 倫理的にはアウトのはずなんだけど、すごく好き(笑)。ワコをちゃんと倫理的にアウトな人というか、クズとして描いているからなのかなあ。

A— 本人も自覚しているしね。

D— 最新巻では同棲相手と別れて、高校生のほうとラブラブが始まると思いきや……彼の世界はどんどん広がっていって、女の子の世界は狭まって執着になる。このリアル!

A— 年の差があると、絶対そうなっていくと思う。

B— ワコがいつか痛い目を見るんだろうなと、ちょっとワクワクしてしまうところもあって。

C— そんな見方を(笑)。

『恋のツキ』書影
『恋のツキ』(1~4巻)
新田 章 講談社モーニングKC 各570円(税別)

■未来ある相手の時間を使っている、という負い目

B— Cさんは、実際に年下男子とつきあっているんだよね。

C— 10個くらい下ですね。

D— 年の近い人とつきあうのとどう違いますか?

C— さっき、お互い大事にする、みたいなことを言いましたが、いい意味での気遣いみたいなものはできているかも。いつか終わっちゃうかもしれないっていう感じが強いから、というのもある。

A— それは絶対あるよ。年の差があると一緒にいられる時間は短いもん。

B— 60代以上になると切実な問題になってくるな……。

C— 私が思ったのは実質的に時間が短いというより、心変わりの可能性が出てくるというか。相手がハッと我に返ったら?とか。お互いにあることだと思うんですけど。

B— どちらにも常に不安がつきまとう。年下からするといつか大人にとられるんじゃないかと思うし、年上からするといつか若い人のほうに行ってしまうんじゃないかと思うし。

C— なんとなくの負い目みたいなものもある。相手の「未来」を考えてしまうんですよ。

D— なるほど。未来ある相手の時間を使っている、という。

C— 一緒にいて年齢差を感じることはほとんどないのに、ふと客観的になったときになぜか負い目を感じてしまう。だからマンガでは、お互いの環境を尊重しながら対等な関係性を築いて心を通わせていく姿が見たい。「年の差って、けっきょく何が問題なの?」って他人を通じて実感したいのかな。

一同 おおー、なるほど。

■恋ではなく愛を注ぎたくなる

B— 『乙嫁語り』のアミルとカルルクの話も年下男子ものですよね。

C— アミルがカルルクをちゃんと夫として扱う感じがファンタジーでもあり。あの性欲のなさそうな感じもいいし。

B— アミルからは……むしろ健康な性欲を感じる(笑)。あの世界では産んで増やす、みたいなことが何よりも大事でしょうし。

C— 少年側の「生きていくぞ」という覚悟も、日本の中学生とは違いますしね。

『乙嫁語り』書影
『乙嫁語り』(1〜10巻)
森 薫 KADOKAWAハルタC 各620円(税別)

D— 女性向けだと、年下男子もののほうが多い気がしますよね。ブームの走りは『きみはペット』でしょうか。

A— 男の人を“ペット”と言ってしまうところが新しかった。

C— 経済力は求めません、癒しさえくれたらいいです、と。

B— あの頃のアラサーはみんな膝を打ったと思う(笑)。

D— 最近の年下男子ものの傾向として、「少年、尊い!」みたいなものもありますよね。恋愛とはちょっと違うような。

B— まさに「萌え」ですよね。自分とその子の間に性的な何かがほしいわけではないから、ある意味健全ですよね。ただただ楽しい。

A— アイドルへの気持ちと近い。

C— それと、30歳を過ぎると、恋じゃなくて愛を注ぐ対象がほしくなるのもあると思うんですよ。行き場を失ってありあまってる愛情を誰かに注ぎたい(笑)。

『きみはペット』書影
『きみはペット』(全14巻)
小川彌生 講談社KC KISS 各429円(税別)

D— 年の差と聞いて『私の少年』が真っ先に浮かんだんですけど、まさにあれがCさんの言ったことと重なるなと。私はとにかく真修くんに幸せになってほしいと思って読んでいるんですけど、聡子も恋愛というより、そういう気持ちでいるような気がしていて。真修は聡子と接することで世界が広がったし、聡子も忘れていた感覚を真修にもらっている。年の差があっても、お互い与え合っているような関係が好きですね。

C— 確かにこのままいい師弟関係で終わるかもしれない。

D— 真修が幸せになったところを聡子が見届けて終わり、みたいになってほしいです。

B— それだと倫理的にも胸が痛まない(笑)。今回、話をしてみて、年の差ものには倫理観がすごく関わってきちゃうんだなあ、というのがよくわかりました。

A— 倫理、大事ですよね。

C— それ抜きには話ができない。

D— 何も考えずに読めるような年頃は過ぎてしまった……。

一同 (笑)

文:門倉紫麻