桜庭ななみ「アジアへの留学経験は、私の扉を内側からも外側からも開けてくれた」

あの人と本の話 and more

公開日:2018/6/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、1970年の日本を舞台に、時代に翻弄される在日韓国人一家を描いた映画『焼肉ドラゴン』で、奔放で明るい三女・美花を演じた桜庭ななみさん。「切ない物語が好き」という彼女が薦める本とは?

桜庭ななみさん
桜庭ななみ
さくらば・ななみ●1992年、鹿児島県生まれ。2008年、映画『天国のバス』で女優デビュー。現在NHK大河ドラマ『西郷どん』に出演中。主な出演作に映画『最後の忠臣蔵』『進撃の巨人』など。上海、台湾、韓国に留学し語学を学ぶ。18年、ジョン・ウー監督映画『マンハント』に出演。
ヘアメイク:今井貴子 スタイリング:古山香 衣装協力:白ブラウス(ブレンヘイム)、黒ボトムス(LE CIEL BLEU)、イヤリング・ブレスレット(ともにJouete)

 2016年に韓国留学した桜庭ななみさん。在日韓国人一家を描いた『焼肉ドラゴン』で三女・美花を演じるうえで、その経験は大きく役立ったという。

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「実際に韓国で暮らすなかで感じていた文化や民族性みたいなものは、作品にも反映できたんじゃないかなと思います。みなさん、感情表現が大きくて、全然、包み隠さないんですよ。好きだと思ったら、まっすぐ『好きだ!』と口にするし、家族同士の距離も近い。映画でも描かれていますが、日本人の家族思いとはまたちがう、ストレートで密な関係性を築いているんです」

「焼肉ドラゴン」を営む龍吉一家。末っ子長男の時生は、在日という理由だけで学校でひどいいじめにあい、やがて、龍吉たちは社会のしくみからも追い詰められる。その描写には、原作者であり監督である鄭監督の家族の話も盛り込まれている。

「台本を読んだときは、こんな歴史があったのかと衝撃を受けて。私もふくめて、今の人たちが知るべき物語だなと思いました。一方で、どんな苦境にあっても、むしろ戦争や差別などの理不尽な状況下で強くあらねばと毎日を乗り越えていく家族のパワーが作品の中で光っていて。私が演じた美花は、家族を内側から照らす存在でした。私が想像していたよりもずっと明るい彼女の活発さを表現するのは難しかったんですが、おねえちゃんやお母さんたちに現場でも支えられて、つくりあげることができました」

『サンザシの樹の下で』(中国)や『あの頃、君を追いかけた』(台湾)などをきっかけに、アジアの映画作品に興味をもつようになった桜庭さん。ジョン・ウー監督作品をはじめ、海外映画にも出演している。

「最初はなんとなくやってみようかな、くらいの軽い気持ちだったんですけど、言葉を学ぶことで世界が外側からも内側からも広がっていきました。上海と台湾にも留学したんですが、どこでも本当に親切にしていただいて、それぞれの国で友達ができました。わりと一人で過ごすのが好きだし、昔は日本以外知らなくていいなんて思っていたんですが(笑)、『ああ、そういう考え方もあるんだ』と気づかされることもたくさんあって。あいかわらず、ひとりで過ごすのは好きなんですが、前よりも友達に連絡をとるようになりました。今どうしてるのかなって思ったら、そのときすぐにメールする。みんなが私にそうしてくれたように、私も自分から人に近づいていきたいって思うようになったんです」

 ひとりの時間は映画を観たり、散歩をしたり。小説を読むときは、薦められたものか、基本ジャケ買い。帯に「切ない」と書いてあると飛びついてしまうという。

「『いま、会いにゆきます』は姉の本棚にあったもの。何気なく読んだら、死んでなお想いあう家族の愛に胸が打たれて。こんなに大切で、お互いを必要としているのに、なんで別れなければならないんだろう、ずっと一緒にどうしていられないの、って切なくなりました。そういう、家族にしろ恋人にしろ、ままならない感情が行き交うお話が好きなんです。山田悠介さんの『その時までサヨナラ』も、死んでしまった大切な人が戻ってくるというお話で、設定はすこし似ているんですが、またちがった読後感で大好きです。大切な人を想うゆえのやるせなさ、みたいなものが描かれている物語に触れると、あたりまえに過ごしている今の時間を大事にしなきゃと気づかされる。『焼肉ドラゴン』を観た方にも、そういうことを感じていただけたらいいなと思います」

(取材・文:立花もも 写真:鈴木慶子)

 

映画『焼肉ドラゴン』

映画『Vision』

原作・監督・脚本:鄭 義信 出演:真木よう子、井上真央、大泉 洋、桜庭ななみ、大谷亮平 ほか 配給: KADOKAWA、ファントム・フィルム 6月22日(金)より、全国ロードショー 
●昭和45年・高度経済成長に浮かれる大阪の片隅。在日家族が営む小さな焼肉店「焼肉ドラゴン」を舞台に美人三姉妹や常連客たちとの騒がしい日常を笑いと涙を交えて描く感動作。演劇賞を総なめにした伝説の舞台が待望の映画化。
(c)2018「焼肉ドラゴン」製作委員会