50曲入りのComplete Box発売!「内田彩、きっかけの10曲」インタビュー(後編)

アニメ

公開日:2018/7/24

内田彩、きっかけの10曲」インタビュー後編は、事前にセレクトした10曲の中から5曲について、そして新曲“Bright way”、これまでの活動を振り返って思うことを語ってもらった。今回、あえて10曲に絞って話を聞いてみたが、50曲入りのComplete Boxを何度も聴きながら思うのは、「どの曲も等しく愛着を持てる曲たちである」ということだ。ライブを重ねるごとにアレンジに工夫が加わり、演出が施されたり、パフォーマンスの精度が高まることで、内田彩の楽曲はますます輝きを増している。陳腐な表現かもしれないけど、聴き手の愛情が注がれることで楽曲が磨き上げられていく、それをここまで実感させてくれるアルバムは、なかなかないと思う。ベストアルバムではなく、全曲入りのBOXとしてリリースされることには、とても大きな意味がある。今後、ここに加わっていく曲たちも、きっと新鮮な驚きとライブ空間における熱狂を伴って、我々を楽しませてくれるはずだ。

インタビュー前編はこちら

advertisement

新しいアルバム(『ICECREAM GIRL』)を作る上で、自分の中でも「はい、ここから元気にやるよ」っていうきっかけが欲しかった

⑥Floating Heart(コンセプトアルバム『Sweet Tears』収録)
⑦キリステロ(コンセプトアルバム『Bitter Kiss』収録)

――“Floating Heart”は2ndアルバム『Blooming!』の“with you”と同様、いわゆるエレクトロポップ的な曲調で、内田さん自身の「こういう曲をやりたい」という願いが叶った曲と思うんですけども。エレクトロポップ的な音楽性がなぜ好みなのか、というテーマです。

内田:やっぱりこういう曲が好きなこともあるし、自分で歌っていても聴いているのも好きで、合ってるのかなあ、と思っていて。イベントのときに、「うっちーがいつもニコニコしていられる秘訣はなんですか」って聞かれたりするんですけど、みんなはわたしの声や発している言葉、動きとか見た目から、いつもニコニコ笑っていて、ポップなイメージを持ってもらえてるのかな、と感じることがあって。だからこそ、かわいらしくてほわんとした曲調に合うのかな、と勝手に思ってたりして。

――思っていて、それを楽曲の方向性の希望として述べた。

内田:そうですね、当時はなんとなく好きだし、合ってると思うから、とか言ってたんですけど、それはなんでなんだろうなって思っていて。でも結局それって、自分自身がそういう感じの人間だからなんだろうな、と思いました。普段の自分、そのままの自分というか。役を演じたり、キャラソンを歌うときは全然違うんですけど、素の内田彩になったときに「好き」っていう感じでできるんだと思います。わたしはけっこう感情が出るタイプなので、そういう感じをかわいくやってるのが『Sweet Tears』で、素直な感情が出ちゃって「ぎゃー」ってなってるときが『Bitter Kiss』なんですけど。『Bitter Kiss』のほうも、クールにきれいめに歌うというよりは、きっと「もうやだ、ばかー」っていう感じを素直に音に乗せて歌う方が向いていて、それがストレートに出てると思います。なんて言えばいいんだろうな、わたしの語彙力では難しいぞ?

――(笑)。

内田:剥き出し、ですね。そうだ、剥き出しのほうが向いてるんです。

――2枚のコンセプトアルバムによって、表現のレンジがさらに広がった感じがしますね。

内田:はい。あと、「ここまでやったら引かれないかなあ」とか「こういうの大丈夫かなあ」と思ってたところもあったんですけど、意外とみんな好きになってくれたので、よかったあって思いました。自分の素の感じで好きな方向性と、好きだけど、挑戦と憧れと、自分がやれるかなあっていう方向性があって、両方好きだったので、やれてよかったです。

――そして“キリステロ”は、前編でも話しましたけど、ライブ空間をブチ上げるツートップの一角ですよね。全50曲中、お客さんが一番参加できる曲なんじゃないかと思いますけど。

内田:わたしの想像をはるかに上回る感じになっていて、ビックリしました。

――たとえば“ピンク・マゼンダ”って、曲の世界に合わせて客席の雰囲気がガラッと変わるじゃないですか。“キリステロ”も、かかった瞬間に会場の空気を一変させる力がありますよね。

内田:確かに。あのイントロで、もう変わっちゃいますよね。素晴らしい。みんなの中でめちゃめちゃ育って、わたし圧倒されてますもん。横浜でも、「負けてるー!」ってなりました。

⑧SUMILE SMILE(1st SINGLE“SUMILE SMILE”収録)

――“SUMILE SMILE”は、その時点までの34曲をすべて入れたような曲であり、曲の構成や展開を見ると、とても「内田彩的楽曲」になってますよね。

内田:確かに。ほんとにいろいろなものが練りに練られて、盛り込まれている曲です。

――この曲は、歌うときに特別な感情が湧く曲なんじゃないかな、と思うんですけども。“Close to You”と同じように、これも目の前にいる人たちのことを歌っていて、「これからもみんなと一緒にいるんだよ」というメッセージにもなっているというか。

内田:そうですね、“SUMILE SMILE”は一種の宣言的な曲でもあるし、「こうしたい」っていう気持ちも詰まっていて。武道館で発表したときも、曲のテーマは大きく決まっていて、「今日、武道館でもらったスマイルを胸に歌うね」みたいなことを言った気がするんですけど、まさにそんな曲になりました。

――一方で、この曲を歌ったことで、「この後、何するんだろう?」みたいなモードになってしまった、という話もあって。

内田:なりましたね。「素晴らしい、これで終わっても、わたしに悔いはない。ほんとに素敵な思い出をありがとう」みたいな感じでした。

――大団円になっちゃった。

内田:大団円になっちゃいました。

――一度そういう気持ちになって、だけどそれは全然悪い意味ではなく、今の自分ができることを一回やりきりました、という話ですよね。今回のインタビューのテーマは「きっかけの10曲」なので、その地点からさらに前に進むためのきっかけについて、話を聞かせてください。

内田:武道館のライブが8月で、『SUMILE SMILE』は11月に出たんですけど、12月の終わりに「もう無理」ってなって。年末年始の2週間で、「そこでしか取れない」っていうことで声帯結節を除去する手術をして、年始で落ち着いてから発表したんですけど、皆さんがすごく心配してくださって。5月に事務所からイベントをやりましょうって言われて、いろいろ考えた結果、レーベルの皆さんに「ここでライブをやらせてもらえませんか」って相談しました。心配してくださったファンの人の前でちゃんとライブをやって、みんなに元気な顔を見せたいです、ということでお願いして。

 ライブは6月で、一応お医者さんから「歌ってOK」っていう期間も過ぎていたし、会場も新木場STUDIO COASTが取れました、って言ってくださったので、皆さんにお願いして、“SUMILE SMILE”“Everlasting Parade”っていうシングルのタイトルをつけたライブをやらせていただきました。そこで、思っている以上にみんなが「復帰おめでとう」っていう温かい言葉をくれて。わたしも、みんなの目の届くところで歌いたいという思いがあったので、それがすごく嬉しかったですね。「そんなに喜んでくれるの!?」って。ほんとに、やってよかったな、と思います。

――そこで自分から「ライブをやりたい」と発信できたことが重要なポイントですよね。そのライブをやらなければ、そこで受け取れた気持ちもなかったかもしれないわけで。

内田:確かに。もう元気に歌えるし、なんとなく「うっちー、喉もう大丈夫なんだ」って思われるよりはいいかなって(笑)。しれっと歌ってるって思われたりしたら、それは自分がファンだったらすごくイヤだなあって思ったんです。アルバムの話も出ていたので、新しいアルバムを作る上で、自分の中でも「はい、ここから元気にやるよ」っていうきっかけが欲しかったんですよね。「みんな安心していいよ、前向きにちゃんと頑張っていけるよ、大丈夫だよ」って。

⑨What you want!(3rd FULL ALBUM『ICECREAM GIRL』収録)

――3rdアルバムの1曲目“What you want!”をパシフィコのライブで観たとき、「すげえなこの曲」って思ったんです。それこそ、去年からものすごく進化したな、と思って。

内田:めちゃくちゃ進化しすぎて、わたしもまさかまさかの感じでした。ビックリでした。

――“Close to you”もライブで歌ったことで意味合いが変わった印象があるけど、共通しているのは、「you」という言葉の意味なのかなって思うんですよ。

内田:確かに。

――誰に向かってこの歌を歌ってるの、誰のために内田彩の歌はあるの、っていう。「you」という言葉との向き合い方が、今のライブにいい影響を与えているんじゃないですか。

内田:そうですね。そのときどきによって、「you」がどんな形にも変わるから、ライブごとの想いがあって、それはとてもいいなって思います。

――「you」の意味が広くなったし、深くもなったんじゃないかなっていう気がします。

内田:なりましたね。バレンタインライブのときは恋愛の曲しかやらなかったので、違う人のことを歌っている曲なんだっていう歌い方をしてたけど、ツアーでやるときはみんなに向かって歌えている感じだったので、すごく楽しかったですね。バレンタインライブでそういう曲をぎゅっと詰めたライブをしたからこそ、そういう変化にも気づけたのかなって思います。

⑩So Happy(2nd SINGLE『So Happy』収録)

――“SUMILE SMILE”がその時点までに発表した34曲全部だとしたら、“So Happy”とそのカップリングも、そこまでの全部を表現できたシングルだったんじゃないですか。

内田:ああ、確かに。またまた「終わってもいいかな」って感じに(笑)。今回のライブが特にそうで、“So Happy”から始まって、“Sweet Little Journey”で終わるっていう流れがすごくよくて。「なんて素敵なんだ」って思って。「ああもう、これで終わりでいいや」って思っちゃう(笑)。

――確かに、それで地元の群馬でライブやって、活動が終わりましたって言ったらきれいだけど、やめたらダメです(笑)。

内田:あはは。“Sweet Little Journey”はスタッフさんが「自分のお葬式で流してほしい」って言ってて、それがめちゃくちゃ面白かったんですけど、すごくいいエンディングテーマ的な感じがしていて。“So Happy”も、わたしこれ、ちょっと解釈間違ってたんですよ。“So Happy”って、めっちゃ幸せっていう意味なんですよね。「なんか幸せ」くらいだと思っちゃってて(笑)。

――(笑)横浜で歌うまで、解釈が間違ってた?

内田:間違ってました。

――すごい、解釈間違ったままツアーに突入してる(笑)。

内田:(笑)歌詞ものんきな感じじゃないですか。特に何か起きてるわけではないけど、スキップしたら幸せ幸せルンルン、みたいな歌詞だったので、すごく気持ちを込めるでもなく、「ふんふんふんー」って歌って、「るんるんるんるるーん、じゃあね、バイバイ」みたいな気軽さが好きなんです。「隠し切れない、君にも移してしまいそうなくらいめっちゃ幸せ」っていう歌だったのに、「なんとなく幸せ」になっちゃった(笑)。でもそうやって、気軽に歌い始めたらどんどん幸せになっていって、っていう盛り上がりは、特にライブで歌うと感じますね。こういうのいいな、素敵だなって思います。

歌だけが流れたときに、「これ、内田彩さんだ」って気づいてもらえる感じを目指したい

――今回のComplete Boxには新曲の“Bright way”(TVアニメ『百錬の覇王と聖約の戦乙女』オープニングテーマ)も収録されてますね。まずアニメの世界を表現することをミッションとして与えられている曲で、“So Happy”とは成立の仕方も全然違うし、新たなチャレンジだったんじゃないですか。

内田:めちゃ難しかったです~。すごく王道で、ザ・オープニングにふさわしい曲だったんですけれども、やっぱり歌ってみたらこう、「ザ・アニソン」っていう感じになっちゃって。だから、「これでいいのかな」「無難に歌ってるだけだな」って思っちゃって。言葉はよくないですけど、「他のアニソンアーティストさんが歌っていてもよかったね、でもこれ内田彩さんなんだ、ふーん」みたいになっちゃったら、自分が歌う意味はあるのだろうか、みたいなことを思ってしまい、どうしようーってなって。

――最初に歌った自分の歌が普通すぎた?

内田:うーん、なんか普通、なんか無難ってなって。

――ということは、逆に「こうあるべきだ」っていうビジョンがあるわけですよね。目指す方向が明確にあったというよりは、やってみたら「こうではないな」と。

内田:そうなんですよ。やっぱり、いろいろな曲を出させてもらってるので、アルバムの中だとかわいい曲、大人な曲、カッコいい曲がいろいろあって、全部で楽しんでもらえるんですけど、カッコよくキリッと歌ってる部分だけを新曲として切り取っちゃうと、それだけ聴いた人に「へえー、上手だね」「なんかアニソンっぽいね」みたいに思われたりして、それだと面白くないのかなって。だから「どうしたらいいんだろう?」と思いつつも、自分のいいところを出そうと思っても、曲調と歌詞と並べたときにアンバランスになるので、「難しいよ~」ってなりました。

――今回、Collection Boxもあってご自身の楽曲を振り返ってみて、音楽活動を続けてきた約4年間は、どんな時間だったと思いますか?

内田:やっぱり、そのときそのときで、やりたいことは頑張ってやってたんだな、とは感じます。たまに聴くと、ちょっと気恥ずかしさとかもあるんですけど(笑)。

――でも、「これはもう歌いたくない」っていう曲はひとつもないでしょう?

内田:それは一個もないですね。今日も話していて「“妄想ストーリーテラー”歌いたいなあ」って思いましたもん。その他にも、あまり温めてないというか……まだこの人、あと何回か歌ったらめっちゃ成長するかもしれないのに、みたいな人も絶対潜んでると思うんですけど。

――人?

内田:人(笑)。そう思うと、まだ可能性を秘めている曲もたくさんあるなあって思います。

――今、これから続いていく音楽活動にすごくポジティブなイメージが持てている状態だと思うんですけど、これからの自分にどんなことを期待していますか?

内田:これからは、いい意味でもうちょっとアーティストって呼ばれても恥ずかしくないような形が作れたら嬉しいな、と思います。魅せる、というのはもちろん、参加して楽しかったり、体感してもらえるライブ作りがもっとできたらいいですね。わたしは、カッコつけてクールに曲だけ聴かせて「ほんと素敵だった」って言ってもらえるタイプではなくて、みんなで楽しかったねっていうほうがやっぱり向いてるんだろうなって思うので、そのよさを最大限に出せたら、もっと楽しんでもらえるかなと思います。

――楽しみですね。

内田:はい――そうだ、忘れてた。はいっ!(挙手)

――どうぞ(笑)。

内田:ラジオとかコンビニで歌だけが流れたときに、「これ、内田彩さんだ」って気づいてもらえる感じを目指したいです。わたし、声だけだとあまり気づかれないんですよ。だいたい、「これ、うっちーだったんだ」みたいになるから。役者として、一声聞いたら「これ何々さんだ」って思われるのも大事かなと思いつつ、歌は役の影響を受けないから、わたしの声だってわかってもらえたらいいなって思います。

取材・文=清水大輔