身近になった「整形」…きっかけはモテたいからではなく、自己満足?【インタビュー】

健康・美容

更新日:2018/10/12

『美容整形というコミュニケーション 社会規範と自己満足を超えて』(谷本奈穂/花伝社)

 常に人目に晒されている「顔」とは、一体誰のものなのだろうか。本人のものであるのは当然だが、それを目にする他人のものでもあるかもしれない。だから女性は誰かよりも美しくなりたくて、そして社会が定義する「美しくあれ」「若くあれ」といったイデオロギーに踊らされてしまって、時に美容整形をするのではないか。

 ……なんとなくこんな感じで美容整形を捉えている人は、決して少なくないだろう。しかし『美容整形というコミュニケーション 社会規範と自己満足を超えて』(谷本奈穂/花伝社)著者で関西大学教授の谷本奈穂さんは、「整形の動機は女性同士の競争や社会定義といったものも確かにあるが、それ以上に女性同士のコミュニケーションもあるのではないか」と語る。整形がコミュニケーションとは、一体どういうことなのだろうか?

整形は異性にモテたいからではなく、自己満足?

 およそ15年にわたり谷本さんは美容整形やメイクについての調査と分析を続けてきた。2008年に出版した『美容整形と化粧の社会学』(新曜社)に次ぐ2冊目となる今回の本は、学術誌に掲載した論文に加筆したものと、書き下ろしで構成されている。この10年間で変わったことといえば、社会から美容整形をすることに対する、「罪の意識」のようなものが薄れてきているのではないかと語る。

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「データで証明されているわけではないのであくまで私の感覚ですが、価格も安くなってきていて、普及も広くなってきている。言わばカジュアル化していく中で、罪の意識みたいなものがちょっと薄れてきているように思えますね」

 確かに「自分で二重作るの、大変じゃないですか? 二重術 29,800円(埋没法)」といったCMが日常的に流され、SNSでも整形のビフォー・アフターを紹介するアカウントはすぐに見つかるようになった。ところでなぜ、人は整形をするのだろうか?

「私がインタビューした地方在住の60代の女性は、シミとシワを美容整形で消した理由を『自己満足』と答えました。今まで整形の理由といえば『コンプレックスの解消』とか『異性にモテたいから』とか、または女性同士が美を競い合う上で必要だからといった捉え方をされていました。しかしその方は異性にモテたいわけでも、誰かと競いたいわけでもなかった。他にも何人かインタビューをしましたが、彼女が特別というわけではなく『自己満足』と答えた人は他にもいました。もちろん、外見的なコンプレックスを何年も抱えていて、それで整形される方がいらっしゃることは否定しません。しかし従来言われてきたような劣等感の否定や、平均的な顔に比べて目が小さいから整形する、といった動機以外のものもあるのではないか。それを調査して明らかにすることで、美容整形がさらに理解できると思ったのです」

整形には、女性同士のいたわりあいの側面も

 谷本さんが見つけた「なぜ」には自己満足だけではなく、「女性同士のネットワークから生まれるいたわり」もあるそうだ。

 調査によって分かったことは、美容整形をする人としない人の間に大きな収入差はなく、モデルや夜の仕事といった、美をジャッジされる集団に所属している人だけがするわけではない。心地よさや自己満足、「老化が気になるから」といったことが目的で、男性の目を意識していたり、身体の所有者として自分の身体を変えていったりすることが目的ではないという。また他者は意識するものの、それは母や姉妹など同性の存在であり、同性同士で交わされる意見が、大いに影響してくると谷本さんは分析する。

「同性の存在というのは『あの子よりもきれいになりたい』といったライバル意識ではなく、たとえば整形したい人に『こういう風にするといいよ』『ここの美容外科がおススメ』といった軽いノリで語り合う、言わばいたわり合うネットワークのことをいいます。そもそも女性が『あの子よりもきれいになりたい』と思って整形するというのは、男性が作った世界観だと思います」

 確かに「レーザーでほくろを消したい」という話をすると、誰ともなく「それなら○○クリニックがいい」などと言い出し、さまざまな情報が集まってくる。「どこのカフェのなにがおいしい」というのと変わらないテンションで、今や女性たちは整形についてもカジュアルに会話を交わしている。だからタイトルに「コミュニケーション」を付けたのだと、谷本さんは明かす。

「そのコミュニケーションには今回の本では触れられませんでしたが、SNSの普及も大いに貢献しています。InstagramやTwitterで情報交換をしている女性も少なくありません。元来女性同士の整形に関する情報交換はフェイス・トゥ・フェイスがメインでしたが、今後はSNSがその手段になっていくのではないかと思います」

 同書はインタビューだけではなくデータやその分析、美容外科の医師へのヒアリングなど、さまざまな方向から美容整形について考察している。「なぜ整形するの?」はもちろんのこと、「なぜ整形が女性同士のコミュニケーションなの?」についてもっと知りたいなら、ぜひ手に取ってほしい。

著者の谷本奈穂さん

文=今井 順梨