「ストレスで10円ハゲができた」苦労時代も…『ふたりエッチ』の巨匠、克・亜樹がマンガ家の卵たちに贈った言葉とは?

アニメ・マンガ

2018/8/7

 7月29日、東京・御茶ノ水にあるワテラスで「2018白泉社即日デビューまんが賞」が開催された。「白泉社即日デビューまんが賞」は、花とゆめ、LaLa、メロディ、ヤングアニマルの合同4誌が1日限定の出張編集部をオープン。持ち込まれたマンガ原稿を即日批評&審査の末、デビューまで決定するという画期的なマンガ賞だ。昨年に続いて、今年で2回目を迎える。

 会場では、実際に人気マンガ家たちの生の声を聴くことができるイベントも同時開催。福山リョウコ先生と池ジュン子先生によるデジタル作画講習や、若杉公徳先生と声優の木村昴さんらによる公開ラジオ放送などが行われた。ダ・ヴィンチニュースではそのひとつ、『ふたりエッチ』で知られる克・亜樹先生の講演の模様をレポートする。「マンガ大賞」の発起人でもあるニッポン放送アナウンサーの吉田尚記さんが司会を務めた。

■少女マンガ家になりたくて白泉社でデビュー

 仕事場にいて外に出ないため緊張していると前置きしつつ、「マンガ家を目指している人たちに少しでも役に立てれば」とイベントに登壇した克先生。今回の講演テーマは“編集者との関わり”だったが、本音や裏話が満載のフリートークが繰り広げられた。

 「少女マンガ家になりたかったんですよ。恋愛マンガをすごく描きたくて」。克先生が初めて投稿したのは白泉社の少女マンガ雑誌「LaLa」だった。高校時代、初めて4コマ作品を送ったところ、鈴木光明さん(マンガ家。選考委員のほか、後進マンガ家たちの指導も行っていた)に「原稿のサイズが違う」と指摘されたことがあったという。その後、大学1年生の頃から本格的に投稿をはじめ、ぶ~け(集英社。2000年に廃刊)に送った作品で5000円の賞金を獲得。その成功体験がモチベーションとなり、少女マンガ誌のほか、ホラー誌や週刊少年サンデーなどにも投稿した。サンデーで担当についた編集者は三上信一さん。島本和彦先生や安永航一郎先生などを担当した名物編集者で、「新人マンガ家に対して非常にマメに連絡をしてくれる人で、(三上さんの)当時の電話代は7万円を超えていた」とのお話も。

■同じ出版社で失敗できるのは3回が限界

 克先生は恋愛もののほか、ホラー、アクションなど様々なジャンルの作品を描いている。吉田アナから「自分の好きなジャンルと、描いたらウケるジャンルをどうやって見分けている?」と聞かれると、「マンガ家同士で話をしていても、そこの考え方はみんな違う。自分は好きなものしか描けないから、自分が描きたいものを増やす作業(映画を観たり恋愛をしたり色々なことを考えたり)をしている」と語った。一方で、赤石路代先生から言われた話や実体験を例に挙げながら、「同じ出版社で失敗できるのは3回が限度」と独自の見解を示した。

 今年で画業35年目を迎えるが、スランプやマンガを描きたくないと思った時期はないと語る克先生。しかし経済的に不安な時期はあったという。サンデーを離れてから、南雅彦さん(アニメ制作会社ボンズ社長。当時はサンライズのプロデューサー)に誘われて月刊少年エースで『天空のエスカフローネ』を描くまでの1年間はコミックスが売れず収支はマイナス。ストレスで10円ハゲができてしまうほど大変だったそうだ。『天空のエスカフローネ』のコミカライズ企画はアニメ化以前から進み、原作を務めた河森正治さん(代表作に『マクロス』シリーズなど)から「これが原作なんだけど」と渡された大学ノート2~3冊をもとに連載をスタート。アニメが始まり、人気を得ると共にコミックスも売れ、経済的に持ち直したという。また、そのヒットのおかげで白泉社から声がかかり、『ふたりエッチ』の誕生へと繋がった。

■ただのエロマンガは描きたくなかった『ふたりエッチ』

 『ふたりエッチ』は編集者から「エロを描いてほしい」というオファーを受けて作られたもの。ただ、過去にサンデーで初めてキスシーンを描いた際、「ああ、俺キスシーン描いちゃったよ」と思ったくらい、作中でキスやセックスをさせることに迷いがあったという。加えて「エロマンガは基本的に爆発的なヒットはしない」という懸念もあったそうだ。そこでただのエロマンガと差別化を図るため、エロについてのハウツーや豆知識を入れて生まれたのが『ふたりエッチ』だった。

 同作は大きな反響を得てヒットし、先生の代表作として成長することに。しかし「『ふたりエッチ』がゴールみたいに思われるのはイヤなんです」と打ち明け、『ふたりエッチ』をやりながら別の媒体でも連載することを意識しているという。その理由は2つあって、1つ目はマンガ家として生き抜くためのスタンスで、「連載は同時に3本くらいほしい。どれか1本が当たれば他の調子が悪くても何とかなる」と本音を吐露。一方で、『ふたりエッチ』が読切形式の短いエピソードで構成されているのは、「引きのある長いエピソードを描くのが嫌い」なためで、さまざまなテーマを描くことで「飽きる」ことを防ぐ理由もある。過去には別の作品でやろうと思ったテーマを同作で描いたこともあったそうで、本来は「出産をいつ描くか」が連載終了の目安と考えていたが、不妊治療などのテーマを交えながら、出産後も変わらないペースで描き続けることができている。

■描き続けることが後々のマンガ力に繋がる

 以前、前述の三上さんに「どうして自分に目をかけてくれたのか」と聞いたところ、「お前みたいにしつこくネームを送ってくるやつは他にいなかったからな」と言われたそうだ。大学時代、克先生は三上さんに1週間~10日間ごとにネームを送り続けたという。

 小学校の頃からマンガを描くのが大好きで、B5サイズの用紙にマンガを描いては、150ページ分が貯まるごとに1冊にまとめた。中学校の頃にはそれが30冊分に貯まっていた。

 また、これまでにネームで悩んだことはなく、「落ち込んでいても『そんな人が元気になれるマンガを描こう!』と思えるから、むしろ『来た来た!』と感じる」とのだという。マンガ家を目指す人たちには、「編集者さんに自分のやりたいことをちゃんと言えるように」とアドバイス。編集者との打ち合わせでは、自分の頭の中にあるものを説明しなくてはいけない。自分が面白いと思ったものを迷わず主張するべきだと語った。

■ちゃんとした終わりがないのが『ふたりエッチ』

 来場者からの質疑応答では、「好きな映画や、観ておいた方が良い映画はありますか」と聞かれ、「僕はFilmarks(映画レビュー投稿サイト)にレビューを書いていて…」と意外な一面を暴露。「ふだんは自分の作品を批評される側だけど、人の作品について色々と言える快感がある」と笑い、好きな映画にはインド発の『きっと、うまくいく』などを挙げた。また、つまらない映画でも「自分だったらこうしたら面白くなると思う」と分析することがマンガ家としてプラスになるのでつまらない映画ほど観た後に色々考えた方が良いとのこと。他にも「『ふたりエッチ』はいつまで続くか?」という質問には、「ちゃんとした終わりがないのが『ふたりエッチ』。好きな子と初めてエッチをしたら終わり、結婚したら終わりじゃないので、描こうと思えばキリがない」と克先生。今後については「自分の現時点の年齢のことは見えないことが多いけど、自分より5歳くらい下の人たちのことは描くことができると思う。今は50歳を超えたので、40代後半に向けての恋愛を描いてみたい」と抱負を語った。

 最後にマンガ家の卵たちへのメッセージとして、「マンガ家は描いて描いて、描くしかない。ふわっとしたアイデアもメモに残して色々な作品を描いてください。ただ、(売れなかった場合は)どこかで区切りを付けなくてはいけない。今はそこまで考えられないかもしれないけど、5年後ぐらいを考えながら頑張ってください」と現実的な面も交えてエールを贈り、イベントを締めくくった。

取材・文=小松良介

「2018白泉社即日デビューまんが賞」受賞作品
・大賞     「ホームレス ゴスペラー」无鐘エリク  
・花とゆめ賞  「好きなひとの好きなひと」深田華央 
・LaLa賞    「魔女の砂時計」鈴木ゆう
・メロディ賞   「愛し子とラブドール」樫野宇季
・ヤングアニマル賞   「天然自然系会長なすび」河野晶一
・吉田尚記特別賞 「半人前の魔法使い」菅谷チヨ

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