東大王・伊沢拓司「“若者が自信を持てる風潮”を作っていきたい」――最強クイズ100執筆秘話【インタビュー(4)】

エンタメ

公開日:2018/8/17

 東大クイズ王・伊沢拓司が「言葉」「謎解き」「社会」「科学」「文化」「恋愛」「ライフ」「スポーツ」の8つのジャンルのクイズ問題&解説を全て書き下ろした書籍『思考力、教養、雑学が一気に身につく!東大王・伊沢拓司の最強クイズ100』が2018年7月5日に発売されました。

 中学生の頃から高校生クイズ界をリードし、クイズの名門・開成中高の礎を築いてきた伊沢氏。「僕の人生の半分はクイズでできている」と語るほど、クイズを愛してやまない彼が10年近く探求し続けてきたクイズは、単に「知識」を問うだけのものではなく、解き手の興味の幅を広げ「思考力」を鍛える、より高次元なクイズです。

 そんなクイズの面白さや奥深さを最大限に引き出した書籍が、これまでクイズに触れてこなかった若者にも受けています。今回は、伊沢氏に書籍にまつわるインタビューに答えていただきました。5回に分けて連載いたします。

advertisement

――YouTuberとしても話題沸騰中の伊沢さんですが、さまざまなメディアを通してファンや視聴者に伝えていきたいことは何ですか? また、伝え手として目標にしていることはありますか?

伊沢拓司氏(以下、伊沢):今の主な活動場所はYouTubeと、運営しているWEBサイト「QuizKnock」ですが、そこでは「楽しく遊んでいたら、知らない間に知識もついていた」となるようなコンテンツ作りに努めています。

 クイズの原点は「知ることって楽しい」という感情だと思います。きっかけになる一歩目が億劫なだけで、いざ知識として入れてしまえばマイナスなことはなにもないので、その一歩目を僕たちの作る「楽しい」の効果で軽やかなものにしたいなと考えています。先に述べた「クイズの魔法を解く」のもこの一環ですね。「クイズが強い人は普通の人とハナから違う」みたいなテレビ的文脈をなるべく排除できるよう、フレンドリーなメディアづくりを心がけています。

 僕自身の活動としての一つの目標は「クイズを通してひとつの文化を作る」ことです。具体的には「若者が自信を持てる風潮」を作っていきたい。かつて塾のチューターのバイトをしていた時だったりとか、Twitterで年下の子たちのメッセージを読んでいたりして感じたことです。今の若者は、たくさんの情報にさらされる中で、それらを自分で集め、それを基に考えたり、ひとりよがりにならないことに関しては凄いと思います。

 YouTubeなどに寄せられる質問でも「よく考えているなー」というものは非常に多いです。ただ、その自分の考えが正しいのか、信じて進んで良いものかという決定の面で、自信を持てていないなと思うことが多いんです。よく考えているのに。それは情報がそもそも多すぎたり、それを取捨選択する術を教えてもらっていなかったり……という要素が大きい。若者のせいではないなと。

 なので、僕は今こそクイズだと、割と本気で思っています。クイズは問われ、正解し、あるいは間違って答え合わせをすることの繰り返しです。能動的にひとつの答えを選択し、正解により自信を得て、誤答により身を引き締めるルーティンです。僕もこの繰り返しで、たくさん正解してたくさん誤答していく中で「ひとつに決める」ことへの自信をつけました。僕の成功体験が他人に当てはまるわけでは決してないけれど、その体験をヒントにして、たくさん考えた上で悩んでいる人たちの背中をちょっぴり押すことくらいはできるかなと考えています。自分がいただいた体験を、別の形に変換して還元していければいいな、と思っています。

――『最強クイズ100』を拝読させていただき、伊沢さんの知識や教養の蓄積量にたいへん驚いています。このような知識や教養はどのように身につけていらっしゃいますか?

伊沢:僕は実はズルをしています。クイズプレイヤーであるがゆえに全ての知識が「クイズに使える」という価値を持つので、覚える意味が生じるのです。これは僕が本当に得をしているところで、無駄なもの、面白くなさそうなものにもプラスの価値を見いだせるようになれたことが今につながっていると思います。クイズのお影で更にクイズが強くなる、最高のルーティンですね。

 とはいえ、何も「クイズのため」でなくても、知識を増やす、そして知識を増やす楽しみを体に覚え込ませることはできると思います。「知っていることで、世界はより楽しくなる」と経験的に感じることができれば、知識欲は増えていくものです。

 たとえば、先日までW杯で盛り上がっていたサッカー。中継のときには実況と解説がついていますが、なしで見るとなにがなんだか……という方も多いと思います。あるものを見る時、知識があればより楽しめる、という体験は日常のあらゆるところに埋まっているのです。それをわかっていながら「知ろう」と能動的に踏み込めないのは、単純に面倒だからという要因が大きいように思います。その「面倒さ」という小さな壁を超えられるような好奇心を育む、つまり「知ることで得られる楽しさ」を追うことに慣れれば、知識は無限に広がっていくと思っています。「知って楽しい」を繰り返すことで、その壁はどんどん小さくなっていくはずです。

 よく「知識ばっかり多くたって、使えなきゃ意味がない」なんて言いますが、まず知識が入っていないと使えるかすらわかりません。それに、使えなくなって良いんです。知って、面白ければ良い。役に立つかどうかより、自分が楽しいかどうかのほうが大事だと思って、日々雑多に情報収集しています。

第5回に続く

伊沢拓司
日本のクイズプレーヤー&YouTuber。1994年5月16日、埼玉県出身。開成中学・高校、東京大学経済学部を卒業。現在は東京大学大学院、東京大学クイズ研究会(TQC)に在籍。「全国高等学校クイズ選手権」第30回(2010年)、第31回(2011年)で、個人としては史上初の2連覇を達成した。TBSのクイズ番組「東大王」では東大王チームとしてレギュラー出演し、一躍有名に。2016年には、Webメディア「QuizKnock」を立ち上げ、編集長を務めている。