おいしいごはんとセックス。8人の女性の人生を描く映画『食べる女』脚本家・筒井ともみインタビュー

エンタメ

2018/9/6

本当に食べたいもの、食べてますか? 本当にしたい恋、してますか?
“食”と“性”をテーマに、8人の女性たちの人生を描く映画『食べる女』が、9月21日より公開される。原作者であり、脚本も手掛けた筒井ともみさんに、本作に込めた思いをうかがった。

筒井ともみさん

筒井ともみ
つつい・ともみ●東京都生まれ。脚本家、作家。ドラマ『響子』『小石川の家』で向田邦子賞を受賞。映画『それから』『失楽園』で日本アカデミー賞優秀脚本賞、『阿修羅のごとく』で日本アカデミー賞最優秀脚本賞を受賞。『ベロニカは死ぬことにした』では、脚本のほかプロデュースも務めた。食のレシピエッセイ本『いとしい人と、おいしい食卓』(講談社より9月12日刊行)、児童書『いいね!』(画:ヨシタケシンスケ/あすなろ書房より11月下旬刊行予定)の発売を控える。

 ドラマ『家族ゲーム』『センセイの鞄』、映画『阿修羅のごとく』など、数多くの脚本を手掛けてきた筒井さん。『食べる女』は、そんな人気脚本家が女性の“食”と“性”を描いた短編集だ。

「知り合いの編集者から『いろいろな店で起きる男女のラブアフェアで書いてほしい』と頼まれたんです。でも、私はそういうのがいちばん苦手なの。私が書くなら、実直な食べ物を扱いたい。コロッケでも肉じゃがでもなんでもいい。悲しい女、痛い女、寂しい女たちが食べることで元気になる、そういう話にしたいと思ったんです。『どちらがいいか会社で会議にかけて』とその人に言ったら、ほぼ満場一致で私の案が支持されて。『食べる女』というタイトルも、その時すぐに浮かびました」

 もともと筒井さん、食べることが大好き。生まれながらにして、はっきりとした味の好みがあったという。

「3歳ぐらいから『私は、鳥のモツと玉ねぎを煮てくだちゃい』なんて言ってました(笑)。今は、食べることより作ることのほうが好きかもしれません。どんなに忙しくても料理は作りますから。ひとりで食べる時もちゃちゃっと4品ぐらい作ってね。毎日やり続けると、料理はラクなんです」

 もうひとつ、この短編集のテーマになっているのが“セックス”だ。

「人間っておいしいものを食べる時と、いとしいセックスしている時が、暴力や差別、戦いごとからいちばん遠くなるんです。だけど、セックスは相手がいないとできないでしょう? おいしいご飯を食べることなら、今日からだってできます。玉子かけご飯だって納豆だって干物だっていい。おいしく食べて元気になれば、愛する力も湧いてきますから」

『食べる女』場面写真

うれしい時はみんなで喜ぶ つらい時はひとりで闘う

 このたび公開される映画では、短編集をもとに筒井さん自身が脚本を執筆。原作にはいなかった餅月敦子(トン子)を中心に据え、8人の女性たちの群像劇を描いている。ファーストシーンは、ふたりの女子小学生が地面に耳をあて、地下を流れる水の音を聴こうとする場面だ。

「私は糸を紡ぐように最初のシーンから順に書いていくタイプなので、群像劇は苦手。カードを切るようにいろんなシーンを書いて、『このシーンはこっち』とつなげていく頭がないんです。でも、今回は“水”からイメージを広げていくことができました。地球の表面には、都市があり、砂漠があり、戦乱地帯もありますよね? でも、地球の中には同じ水脈が流れています。子どもたちが水の音を聴くシーンが最初に見えて、次に井戸が見えてきて。地球の真ん中から未来に向かって水が湧きだすイメージが浮かんだんです。そこで、井戸があるトン子の家をサンクチュアリにしようと思いました。年齢も職業もバラバラの女性たちがトン子の家に集まってきて、彼女たちによって何かが紡がれていく。降ったように思いついたアイデアから、すべてがつながっていきました」

『食べる女』場面写真

 トン子を演じるのは、小泉今日子さん。彼女の家に集まる女性たちに、おいしい手料理を振る舞う“サンクチュアリの番人”をしなやかに演じている。高い理想を持ちながらも料理上手な冴えない中年男にほだされてしまう小麦田圭子役の沢尻エリカさん、「安くて旨くて簡単」なひき肉に、お手軽な自分を重ねる本津あかり役の広瀬アリスさんもハマり役だ。

「キョンキョンも『ああいう女の子、いるよね』って言ってました(笑)。8人の女たちの中には、きっとあなたに似た人がいるんじゃないでしょうか。彼女たちは、お互いに悩みを相談しないのもいいでしょう? うれしい時はみんなで喜ぶ、つらい時はひとりで闘う。自分のことをゴチャゴチャしゃべるんじゃなくて、おいしいものを一緒に食べて、やるべきことは自分でやる。そういう私の考えが反映されているのかもしれません」

 迷い、つまずきながらも、自分の足で前に進みはじめる女たち。それぞれの家に帰った彼女たちが、同じ月の下で玉子かけご飯を食べるシーンも印象的だ。

「この映画は、女たちが食べることでささやかなレボリューションを始める話なんです。この世界がもっと優しくてタフになればいい。そのために政治の場で行動を起こす人もいるけれど、あの8人はちゃんと食べる。そして、食べることの大切さを伝えているんです。みんなバラバラに生きているけれど、その点は同じ。映画館を出た方が『ちょっとおいしいものを食べようかな』『誰かを好きになってみようかな』『好きな人にたまには優しくしてあげようかな』と思ってくれたらうれしいですね」

取材・文=野本由起 写真=川口宗道
撮影協力:食堂 おさか 東京都世田谷区三軒茶屋2-13-9 TEL03-3419-4129 営業時間:22:00~13:00頃(不定休)

映画『食べる女』

映画『食べる女』9/21 ロードショー
原作・脚本:筒井ともみ 監督:生野慈朗 音楽:富貴晴美 出演:小泉今日子、沢尻エリカ、前田敦子、広瀬アリス、山田 優、壇蜜、シャーロット・ケイト・フォックス、鈴木京香 ほか 配給:東映 9月21日より全国公開
古びた日本家屋で、古書店を営む雑文筆家の餅月敦子。彼女は今日もおいしい料理を作り、迷える女たちを迎え入れる。男を寄せ付けない編集者、年下キラーの料理屋女将、料理下手で夫に逃げられた主婦。日々のごはんでパワーを得て、愛することで人生を満たす。自分の手で幸福をつかむ“食べる女”たちが紡ぐ物語。
(c)2018「食べる女」倶楽部

 

『食べる女 決定版』書影

『食べる女 決定版』
筒井ともみ 新潮文庫 630円(税別)
台所の暗がりでかきこむ玉子かけご飯、冴えない中年男が作る完璧なムニエル、男と寝たあとにひとりで食べるラーメン……。女の心と体を満たすのは、おいしい料理といとしいセックス。『食べる女』『続・食べる女』から、選りすぐりの25編を集めた決定版!

 

シンプルな線で、生々しい体温を感じさせる男女を描くたなかみさきさん。
映画を観たたなかさんが注目したシーンとは?

イラスト たなかみさき イラスト たなかみさき

「食に関しては日頃から作る、食べる、描くといったところで三度も楽しませてもらっている存在。そんな私にとってこの映画はとても共感するところが多く、食べ物の表情、登場人物たちの心情がとても丁寧に描かれている映画だと感じました。その中でも印象に残ったシーンがこの二つです。どちらも物語の中で重要なシーンで手元が特に美しく映っているシーンでした。全員が主役のようなこのキャスティングの中で美しく映された手がこの映画の一番の主役なのかもしれないと思いました」

たなか・みさき●1992年、埼玉県出身。日本大学芸術学部を卒業後、フリーランスのイラストレーターとして活動。2017年、初作品集『ずっと一緒にいられない』を刊行。書籍や雑誌のイラスト、グッズ制作など幅広く活躍中。