実写映画が公開間近!『ビブリア古書堂の事件手帖』三上延、黒木華インタビュー

エンタメ

2018/10/6

新刊『ビブリア古書堂の事件手帖 〜扉子と不思議な客人たち〜』
三上延インタビュー

三上 延(みかみ・えん)●1971年、神奈川県生まれ。大学卒業後、中古レコード店で2年、古書店で3年間アルバイト勤務。2002年、電撃文庫『ダーク・バイオレッツ』で作家デビュー。2011年に発表した「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズは累計680万部を突破するベストセラーとなり、実写映画化される。

本編完結から7年後を舞台に、栞子さんと大輔の娘・扉子が本にまつわる4つの不思議なお話と出会う最新刊!

“キャラクター文芸”ジャンルの火付け役となり、社会現象を巻き起こした「ビブリア古書堂の事件手帖」シリーズ。第7巻で大団円を迎えたが“その後”を描いた最新刊が発売された。

 本編終了から7年が経過し、夫婦となった栞子さんと大輔の間には6歳になる娘がいる。

「本編の時間設定は2010年の夏に始まり、2011年の夏に終わるというものでした。第1巻の発売が2011年の3月で、最初はそれほど現実世界との時間差がなかったんですが、巻を重ねるにつれどんどん広がってしまって。なので、新刊は今現在、つまり2018年の話にしたいなと。7年後なら子供がいるかもしれない。それで娘を登場させたんです」

 好奇心旺盛で、母と同じく本が大好きな扉子。だけど本を読んでばかりで他の子と遊ぼうとしない娘が、栞子としては心配だ。そこで一計を案じる。本を通じてなら、この子も人と関わることに興味を持つかもしれないと。

 そうして本にまつわる4組の客人の話を扉子に語るのだった。

「本編が大輔視点の一人称だったので、物語上の制約で語れなかった話や、扱えなかったネタを存分に盛り込みました」

 

本以外の娯楽やゲーム雑誌も実は扱ってみたかった

 幕開けとなる第1章は、第1巻から登場している坂口昌志と妻しのぶの物語だ。背景は2011年の秋で、夫妻には赤ん坊が生まれている。坂口の姪が、叔父への誕生祝いに、ある本を贈るため、ビブリア古書堂を訪れる。そこから坂口の過去がひもとかれていく……。

「第7巻で彼らを出すことができなかったので、新刊にはぜひ登場させようと思いました。子育てで大変な坂口夫妻の話と、坂口の姪の視点から彼が家族と疎遠になったいきさつが語られていきます」

 登場する本は北原白秋の童謡『からたちの花』だ。

「『からたちの花』は作曲を手がけた山田耕筰の思い出を唄にしたものなんですが、若い頃に非常につらい境遇にあった方なんですね。ちょうど坂口の前半生とオーバーラップするんじゃないかと思い、取り入れました」

 続く第2章では、おなじみの大輔視点でシリーズ初となるゲーム本を扱っている。

「ゲーム関連本のネタは、ずっとやりたかったんです。最初は雑誌でいこうと思ったんですが、それだとどうもありきたりな内容になってしまう。悩んだ末に、これは盲点なのではないか?というものが浮かんできました」

 この章では、ライトノベル業界やオタク・カルチャーの奥深さが詳細に描かれていて、本編とはまた異なる魅力が展開されている。栞子さんが「古書店で安く手に入れるのは結構ですが、著者の方に印税が入らないのでは?」と、ある人物に苦言を呈する一幕も。

「古書店の人間が言える台詞ではないですよね(笑)。ただ、古書をテーマとしている以上、こういうことにも少しふれておこうと思いました」

 

埋もれかけていた名作を色々な人に読んでほしくて

 第3章で取り上げている佐々木丸美『雪の断章』は、知る人ぞ知るミステリー小説だ。

「すごく好きな小説なので、この作品で書きたいという思いからスタートした章です。小菅奈緒の視点で志田との師弟関係を描いています。舞台は2011年夏、本編の7巻と同時期にあたりますね」

 姿を消した志田を案じる奈緒の前に、志田のもう一人の“生徒”を自称する少年が現れる。二人は志田を捜しはじめるが――。

「『雪の断章』自体がある少女の独白形式なんです。若くて人格が完成されていない女の子が、突っ走ったり失敗しながら、周囲の大人たちに見守られて成長していく。志田と奈緒の関係もそういう感じなので、この作品を扱うのなら奈緒の話がふさわしいのでは、と」

 作中に、志田はこの本を古書店で見かけるたび買っては、まだ読んでない人にプレゼントをしていたという記述がある。

「あれは僕が古書店員だった頃にやっていたことなんです。誰もが知ってる有名作ではなく、忘れられかけているけどすごくいい本というのをいろいろな人に読んでほしかった。第3章を読んだ後で、『雪の断章』を読みたいと感じてくださったら嬉しいですね」

 トリとなる第4章では、7巻に登場した強烈なキャラクター、吉原喜市の息子がビブリア古書堂に現れる。

「『王様の背中』という教訓のない、実に内田百閒らしい本がありまして。それを面白がって読む扉子、実はその本に何十万円も価値があるとしたら……という着想から生まれた話です。本編ではできなかった犯人側の視点、倒叙ミステリーに挑戦しました」

 全くのゲストキャラではなく、さりとてレギュラーでもなく、ビブリア古書堂に恨みのある人物の選定として吉原の息子とは、なんとも絶妙だ。折しも栞子と大輔は不在。留守を預かる文香と扉子から稀覯本を奪おうとするが……。

「7巻で父親の運転手として、ちらっと出ているんですね。盗みは悪いことですが、彼からすれば父親のリベンジでもある。書きながら犯人側に感情移入してしまい、改めて栞子は容赦がないなと感じましたね。これまでずっと大輔視点で書いてきたので新鮮でした。視点が変わるとこうも変わって見えるんだな、と」

 視点といえば栞子もまた、今作では母親のまなざしとなっている。

「子供ができると、さすがにお母さんになるんですね。娘の読書好きを心配するなんて、以前の栞子なら、そんなこと思いもしなかったのに。こうして振り返ると、本編全体が“親子”という要素を含んでいたように、本作もまた親と子供たちの話になっているように思えます」

 映画がいよいよ来月に公開される。黒木華さん演じる栞子さんをご覧になったご感想は?

「もともと好きな女優さんでしたので、黒木さんが演じてくださったのが嬉しかったです。本を読む姿や佇まいの美しさに、栞子像をすごく考えてつくってくださったことが伝わってきました。古書堂もちゃんと古本屋さんの感じになっていて、そこにも感動しました」

 

次ページ<実写映画主演 黒木華インタビュー>