佐藤 健「この小説を読んだ感想を聞くことで、その人の恋愛に対する価値観が分かるような気がします(笑)」

あの人と本の話 and more

公開日:2018/10/6

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、10月19日公開の映画『億男』で主演を務めている佐藤健さん。映画の原作者・川村元気さんが2016年に発表した恋愛小説『四月になれば彼女は』を手に、川村作品の魅力について語っていただきました。

佐藤健さん
佐藤 健
さとう・たける●1989年、埼玉県出身。10年には大河ドラマ『龍馬伝』に出演。近年の代表作に映画「るろうに剣心」シリーズ、『8年越しの花嫁 奇跡の実話』『いぬやしき』、NHK連続テレビ小説『半分、青い。』、TBS『義母と娘のブルース』など。11月23日(金)公開の映画『ハード・コア』が控えている。
ヘアメイク:古久保英人(Otie) スタイリング:岡部俊輔(UM)

「川村元気さんから、『今度、恋愛小説を連載することになった』という連絡をいただいたんです。それで、第1回を読んでみたらすごく面白くて。それからラストまでずっと読んでいました」

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 佐藤健さんがそう話すのは『四月になれば彼女は』。主人公の藤代には結婚を控えている女性・弥生がいる。しかし、彼女のことを愛しながらも、何年もセックスレスの関係が続き、そのことになんの感情もないことから、2人を繋ぎとめるものが何なのか本人にも分からなくなってきている。そんなときに藤代の元に届いた手紙。送り主は学生時代の彼女・ハルだった。かつての彼女との幸せな日々を思い返しながら、彼は“本当の愛”について考えはじめる。

「小説の中で元気さんは『愛を終わらせない方法はひとつしかない。それは手に入れないことだ』って書いていて。これは真理だなあって思いました(笑)。恋愛感情が生まれた相手に求め過ぎてしまうから、感情のすれ違いとかが起こるわけですし。それに、作中にはいろんな女性が出てきて、それぞれに自分の恋愛に関する哲学を、言葉や行動で示している。もちろん、そこに100%の正解はないんですが、どれも間違いでもないんですよね。逆に言えば、ひとりひとりに正解がある。ですから、知人に『何か、おすすめの本ない?』って聞かれたら、いつもこの小説を紹介して、感想を聞くようにしています。ここに書かれていることをどう捉えるかで、その人の恋愛の価値観がわかるような気がして(笑)」

 物語の中では、男女の関係に対してややドライなところがある弥生や、幸せな時間を共有しながらも別れることになるハル、それに恋愛感情とは別に肉体関係を夫以外の男に求める弥生の妹・純など、タイプの異なる女性が藤代を取り囲んでいく。中でも、佐藤さんが「会ってみたい」と話したのは、藤代の部下で精神科医の奈々だ。

「彼女は恋愛に関して、一番ドライで悲観的。ただ、それは過去のトラウマがあるからなんです。“自分は男性と一緒にいることができない”と言うんですが、それは彼女が、人と人が真剣に向き合って愛し合うことの難しさや怖さを知っているから。恋愛の本質を自分の中で理解しているからこそのネガティブさを持っている。小説を読みながら、『こういう女性とはすごく気が合う気がするなぁ』って思ってました。……なんとなくですが(笑)」

 さて、そんな佐藤さんが主演を務める映画『億男』が間もなく公開される。原作は『四月になれば彼女は』と同じ川村元気さんの小説だ。兄の3000万円の借金を肩代わりした主人公・一男が、突如宝くじに当たり3億円を手にするが親友にその3億円を持ち逃げされるという物語。“お金とは何か、幸せはどこか”をテーマに、ここでも正解のない難題を観る者に突きつけている。

「僕も原作を読んでいる間や映画の撮影中ずっと、“お金とは何か”について考えさせられました。この映画では、最後に3億円の正しい使い道のひとつを提示していますが、もし自分に置き換えたら、どうすることが正しいのか、結局わからなかったですね。僕自身は、あまりお金にとらわれずに生きているほうだと思っています。もちろん、お金は欲しいです(笑)。でも、ときどき忙しさのあまり、『逆にお金を払うから休ませて!』って思うこともある(笑)。つまりそれって、お金を一番に考えていないということですよね。とはいえ、一男のように、突然借金を背負うことになったら、そうも言ってられないでしょうし。つまり、環境や状況によってお金に関する価値観も変わってくるのかなとも思ったり……。ほんと、答えのないテーマだと思います」

「だからこそ、多くの人がこの映画を観て、自分にとってお金とは何かを考えてほしい」と佐藤さん。また、もうひとつ注目してもらいたいと話すのが、「共演者たち」だ。

「藤原竜也さんや北村一輝さんなど、豪華な皆さんがクセのあるお金持ちを演じてくださっているので、難しさを感じさせず、エンターテインメント作品として楽しめる映画になっています。また、特に必見なのが、一男の親友・九十九を演じた高橋一生さんの存在。とても難しい役で、もし自分が九十九役をオファーされていたら、どう演じていいのかわからなかったと思います。でも、一生さんは見事に表現されていて。2人でモロッコでのロケもさせてもらったのですが、なかなか経験できない貴重な環境の中、一生さんの素晴らしい演技を間近で体験できたことは本当に幸せでしたね」

(取材・文:倉田モトキ 写真:干川 修)

 

映画『億男』

映画『あいあい傘』

原作:川村元気『億男』(文春文庫刊) 監督:大友啓史 脚本:渡部辰城、大友啓史 出演:佐藤 健、高橋一生ほか 配給:東宝 10月19日(金) 全国東宝系にてロードショー 
●借金を背負い、家族もバラバラになってしまった一男は、お金さえあれば再び幸せな生活が戻ってくると願っていた。そんなある日、宝くじで3億円を手に入れる。突然の大金を前に、親友の九十九に相談するが、その彼が3億円を持って忽然と姿を消してしまう……。
(c)2018映画「億男」製作委員会