路地裏の猫本屋「Cat’s Meow Books」へ行ってみよう! 店主・安村正也さんインタビュー

暮らし

更新日:2021/8/2

 三軒茶屋駅から世田谷線沿いに住宅街を歩く。道端には伸び放題の雑草。両手を広げたら届きそうな狭い小路。こんなところにお店があるのかな……と不安になった頃、その店に出会う。

 軒下にぶら下がる看板には「Cat’s Meow Books」の文字と猫のイラスト。まちがいない、そこが目的のお店。元保護猫が店員として働いている、人と猫による、人と猫のための、猫の本屋さんだ。

 店主の安村正也さんが夢に描いた「猫と本とビールが楽しめる本屋」がオープンしたのは、2017年8月8日のこと。

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 サラリーマンとして働きながら書店を経営する「パラレルキャリア」という考え方、クラウドファンディングを利用した開店資金集め、ただの本屋ではなく「本屋×○○」という「ビジネスとして成立させるための掛け算」から導き出した「本屋×猫(+ビール)」…そして、保護猫への思い。情熱をカタチにするまでの奮闘記が、『夢の猫本屋ができるまで~Cat’s Meow Books』(井上理津子:著、安村正也:協力/ホーム社)だ。

 安村さんの物事に対する論理的で合理的な考え方や実行方法は、「いつかは店を持ちたい」と思っている人だけではなく、仕事でプロジェクトを任された人、自分でなにかを作りたい人にも役立つので、詳しい話は本書を読んでいただきたい。が――今回は、猫好きライターの私がお店を紹介しながら、「夢の猫本屋の1年後」について、安村さんにお話をうかがってみやうと思います。

■夢の本屋は「おみやげやさん」? 開店1年でわかったこと

 はじめて訪れた「Cat’s Meow Books」の第一印象は「明るくて楽しそう」。ナチュラルカラーの木で作られた本棚や内装が、ふんわりとやわらかな雰囲気を生み出している。ドアを開けてすぐの部屋には、所狭しと「猫にまつわる本」や猫の雑貨などが並んでいる。

 1冊の本を手にとったそばから、隣の本が気になり、棚に本を戻そうと目を上げると、壁には猫柄のトートバッグが吊り下げられているし、レジに向かえば、カウンターには猫柄のマスキングテープや絵はがき、スタンプなどが「ちょうど手に届くところ」に置かれている。

 どっちを向いても猫、ネコ、猫! 猫目当てにやってくるお客さんにとっては、そこは「夢のような空間」なのだ。「欲しいものがあるかな……」ではなく「こんな本も、あんな本もある! どれにしようかな?」という感覚は、「本屋に来た」感覚とはなにかが違う。そう、この感覚は……

「おみやげ屋さんに近いんじゃないかと思います。いわゆる猫本も扱っているんですが、“これも猫の本なんだ、読んでみようかな”と興味がわいたり、“猫のことだけじゃなくて、本って面白いな”と“本そのものの面白さ”に気づいたりするきっかけになるような本をセレクトしているんです。だから、猫の本を集めているお客さんでも“自分の知らない猫の本がこんなにあるんだ!”と驚かれることもあるんです」(安村正也さん、以下同)

 宝の山から自分だけの一冊を選ぶワクワク感と、予想外の逸品を見つける喜び。それだけではない、買った本にかけてくれる「オリジナルのブックカバー」。Cat’s Meow Booksに行ってきたんだという嬉しい特別感・おみやげ感をマシマシにしてくれるのだ。

 そして、店の奥に進むとそこは、猫店員のいるドリンクも飲めるコーナー。猫が活動しやすいように設計された室内には楽しい仕掛けがある。2Fの生活スペースとつながっている「天井の穴」から下りてきた猫店員さんは、壁の「キャットウォーク」を渡って、「天板や側面に穴の開いた本棚」に飛び込む。棚の穴をくぐり抜け、軽やかに地上に降り立った。そこに、お気に入りのクッションを見つけると、猫店員さんはスヤスヤと眠る。別の猫店員さんは水を飲み、また別の子は室内を駆け回る。

 そんな4匹の猫店員さんたちは、どんな仕事をしてくれるんですか?

「主に、昼間は好きな場所で眠る姿をお客さんに見てもらう――“看板猫”。外が暗くなってくると少し活発になって、座って本を試し読みしているお客さんのヒザに乗ったりしてお相手をする――“ニャバ嬢”になります(笑)。ただ、うちは猫カフェではないので、いつも4匹が店内で待っているわけではないですし、お客さんに近づいていくのも猫店員の裁量にまかせています」

 そう。ここは「猫のいる本屋」。本を手に、お茶やビールを飲み、視界の片隅に猫がいる空間と時間を楽しむ「本屋」さんなのだ。開店当初は「猫カフェ」のつもりでやって来て、猫店員さんたちを無理くり抱っこしようとしたり、遊べないことでガッカリしたりするお客さんもいたそうだが、最近は減ってきたという。オープンから1年、猫本屋というものが浸透してきたのかもしれない。安村さんも、色々なことが見えてきたのでは……?

「これは本屋に限ったことではないと思いますが、商売は天候や季節に大きく売上が左右されるんだと痛感しましたね。梅雨に減るのは想定内でしたけど、意外だったのは“暑いと人はお店に来ない”こと(笑)。猛暑だった今年の夏は特に客足が遠のきました。また、年度末も売上が激減しました。この1年間は、自分の好みの本ばかりを置いていたんですが、今後は、もっとお客さん目線で、季節にあわせて本の並べ方や、扱う本のラインナップも変える必要があると思っています」

 変化といえば、売り場――開店当初は新刊エリアと、古書+カフェコーナーは分かれていたそうですが、今はどちらにも新刊が並んでいますよね?

「開店前は心配していたんですが、うちの猫たちは歯や爪で本を傷つけたりしないことがわかったので、古本のみを扱っていたカフェコーナーにも、新刊本を並べられるようになりました。本の上を歩き回ることはあるんですが、猫が踏んだことで“付加価値が付きました”と、その本を抜き取って喜んでくださるお客さんもいて、優しさに救われています」

 安村さんは、売上の10%を保護猫活動に寄付しているので、猫たちのためにも価格の高い新刊本が売れるほうが良い。カフェでくつろぎながら、新刊本を選んでもらえるようになったのは嬉しい変化だ。「保護猫」への思いも、お店を通して広がっていますか?

「簡単ではありませんが、当店の本が発売されたり、インタビューを受けたりしたことで、保護猫のことを知ってくださった方がいて、紹介したりすることもあります。このお店のリノベーションの担当者さんも2匹の保護猫と家族になりました。犬派のお客さんが、ここでうちの子たちを見て、猫も飼いたいと言ってくださったり」

 ただ、保護猫を引き取るということは、お金もかかるし、最後まで責任を持って飼う覚悟が要る。無責任な飼い主によって捨てられた猫は、再び保護猫になってしまうのだ。

「だから、本屋を開いても会社員を辞められないんです。現時点では本屋の収入だけでは、猫たちが病気になった場合などにかかる多額の治療費などをまかない切れませんから。でも、猫を助けたいからといって、何匹も引き取る必要はないんです。1匹を引き取って家族に迎えるだけでも、十分な“保護猫活動”なんですから」

 本、猫、ビール……そして、保護猫。安村さんの思いの詰まった「猫本屋」は、少しずつ認知度が上がり、リピーターのお客さんも増えてきた。このお店のこれからは……?

「“場所”としてのお店の認知度は少しずつ高まってきたので、次は“安村という人がやってるお店”だと知ってもらえたら、と思っています。というのも、個人書店は店主の人格が色濃く出るので、その店主が外に出ていって、お店のことや保護猫のことを宣伝したり、本の話をしたりする人になりたいと思っています。○○といえば“Cat’s Meow Books の店主の安村”というようになれればいいなと」

 最後に。夢の猫本屋・Cat’s Meow Booksを始めて、一番嬉しかったことはなんですか?

「正直にいうと、この本『夢の猫本屋ができるまで』が出たことです。今は自費出版もありますし、本を出すことは難しくないですけど、自分自身が題材になった本が出版されるなんてめったにあることじゃないですし、メチャメチャ嬉しいです。しかも、それが“本屋”に関する本だというのが、ほんとうに嬉しいですね」

 そう。この店主は、猫とビール……なにより本が大好きなのだ。そんな安村さんが作り上げた「Cat’s Meow Books」は、一歩踏み入れただけで心をつかまれてしまう、夢の猫本屋だ。

 本を片手に、猫店員さんたちを眺めながら飲む一杯は、キャット美味しいんだろうな……なんて感じたあなた、ぜひ行ってミャウ!

取材・文=水陶マコト

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