鳥飼茜「絶望的なわかりあえなさ」と「それでもわかりあいたい切望」――傷つけあったとしても、ともに生きていくことはできる

マンガ

更新日:2018/11/12

鳥飼茜 9月~12月――怒涛の4カ月連続刊行


不穏な書き出しから始まる、小説のような4カ月間の日記

『漫画みたいな恋ください』書影

『漫画みたいな恋ください』
筑摩書房 1500円(税別)
そろそろ今の彼氏とのリミットが近づいている――好きなのにすれ違い続け、喧嘩は絶えず、絶望的なわかりあえなさに打ちのめされる。その繰り返し。うねり続ける自意識のなかで、母親として、マンガ家として、恋人として鳥飼さんが見いだしたものとは──。

担当編集 筑摩書房 柴山浩紀
●ここがオススメ
鳥飼茜さんいわく「自分の人生のなかで1、2を争うほどのターニングポイント」となった日々を、日記形式で描いたもの。一人の女性として、母として、マンガ家として懸命に生きる姿に、刊行直後から、読んでいて勇気づけられたとの声がたくさん届いています。恋人との関係に悩む人、育児がしんどい人、いろんな人の背中を押してくれる本です。

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●鳥飼さんエピソード
9月末、青山ブックセンター本店でのフリーライター・武田砂鉄さんとのイベントの際、会場の方からの質問に、友人と世間話でもする感じで答えていたのが印象的でした(人生相談会みたいになっていました)。偉ぶったところがなくて、取材やトークイベントの場で、対談相手だけでなく、その場にいる関係者やお客さんとも対等に話ができる。鳥飼茜さんは、人を上下ではなく平場で見ている、公平なひとだと思います。

 

女子高生たちの揺らぎを緻密な鉛筆画で描き出したオムニバス

『前略、前進の君』書影

『前略、前進の君』
小学館 920円(税別)
女子高生であるというだけで価値を見いだされる私たちが、制服を脱いださきに未来なんてあるの? みんなと同じ「フツー」以外に生きていく道は? 悲しみも怒りも呑み込んで、思春期を残酷に煌めく少年少女たちの物語。

担当編集 小学館 金城小百合
●ここがオススメ
たとえば中学生のとき、信号を待つ道の反対側にいた見知らぬ男性から卑猥な単語を叫ばれたことがあります。当時はその怖さを、うまく言葉にできませんでした。自分の何かが悪いのかとも思いました。鳥飼さんとの最初の打ち合わせで、人に初めてこの話をしました。本作では、恋や嫉妬、自己嫌悪、異性の存在……など、10代の時には向き合えず、“無かったこと”にしていた感情を、鳥飼さんがオムニバスで綴っています。同じような事象に今まさに向き合っている10代、かつてそのような隠された?記憶を持った大人の読者、どちらにもに届いてほしいです…!

●鳥飼さんエピソード
「言葉は刃の如し、でも顔はへらへらと笑っている」が鳥飼さんの印象です。一瞬、理解ができないような、社会通念をふわっと飛び越えるびっくりするようなことを鳥飼さんが言う時、鳥飼さんはだいたい、へらへらと笑っているように記憶しています。鳥飼さんの漫画に描かれる主人公、ヒロインよりも、もっとたおやかな身のこなしというか……、だからこそ、この笑顔がデフォルトになるまでに、この人はどれだけその鋭い感性ゆえに傷ついてきたのかな~と思いながら、私はよく鳥飼さんの表情の動きを見つめてしまいます。これからも日常の違和感を見過ごすことなく、当たり前のようで誰かに強制される社会を、鳥飼さんの視点で描き続けてほしいです。

 

彼女との出会いは運命のはずだった── 男性恋愛弱者の性愛的冒険譚

『ロマンス暴風域』1巻書影

『ロマンス暴風域』(全2巻)
扶桑社 各740円(税別)※2巻は12月11日発売予定
たまたま出会った風俗嬢・芹香と運命の恋に落ちたサトミン。浮かれる6年間彼女なしの臨時教員に彼女は突然言う。「私…あした結婚すると」。人妻と一線を越えた経験から彼は何を悟り、誰を選ぶのか。2巻では、さまざまな女性とのセックスに挑むサトミンの奮闘が描かれる。

担当編集 扶桑社 河本翔平
●ここがオススメ
己のスペックを悲観する30代男性・佐藤が、“愛”を求めて迷走する物語です。1巻では、運命的な出会いを果たした風俗嬢との濃く甘く、そして閉鎖的な時間を経験した佐藤。2巻では一転、いろんな女のコたちとヤリまくり⁉ 肩書、年齢、性の商品化──。目を背けることのできない現実に惑う主人公が求める真実の愛とは何か。“恋愛弱者のロマンス”完結!

●鳥飼さんエピソード
鳥飼さんは、作品やインタビュー記事の内容で、特に男性読者の方から“怖い”という印象を持たれることがあるようです。なので、僭越ながらほっこり話を1つ。普段の僕は、原稿を受け取りに行っても「何しに来た」と邪魔者扱い。ところがある大雪の日、いつもの鳥飼さんの事務所ではなく旦那さん(当時はまだ彼氏)の家に打ち合わせにうかがったところ、「寒かったでしょ」と、温かいスープとわざわざ餅を焼いて出してくれました。人情が沁みました……それとも、これは恋人の前だったから⁉ ご結婚おめでとうございます!

 

ダ・ヴィンチ連載『マンダリン・ジプシーキャットの籠城』(上・下)は、11月30日発売!