役所広司「あの机の前に座る時、“間違いなく、ここで書いていたんだ”という感が溢れて」
更新日:2013/12/19
「思い出や記憶が消えていくことは、
本人にとっても、周りにとっても、
すごく怖いことだけれど、
その時間に向き合ったおかげで、
家族それぞれの記憶と身体に
沁み込んでくるものがあったと思うんです。
実際、井上先生のお母さんは陽気な方だったらしく、
それは本当に救いだったと
お子さんたちが言っていましたね」
井上邸での撮影には、ご子息たちも見に来て、映画で描かれたエピソードをはじめ、家族の財産のような話を聞くことができたと、顔をほころばす役所さん。
「井上先生は、若い頃、
怖いお父さんだったらしいですよ(笑)。
そしてとり憑かれたように書いていたと。
凄まじいエネルギーだったそうです」
井上靖が物語を生み出し続けていた書斎は、映画の中でも様々な想いを映し出す重要な場所。
「撮影であの机の前に座る時は、
“間違いなく、ここで書いていたんだ”という感が溢れて。
すっと先生に近づいていくような感覚がありましたね」
(取材・文=河村道子 撮影=高山泰幸)
やくしょ・こうじ●1956年、長崎県出身。俳優。96年、『Shall we ダンス?』『眠る男』『シャブ極道』で、国内14の映画賞で主演男優賞を独占。97年『うなぎ』ではカンヌ国際映画祭パルム・ドール受賞。2009年、『ガマの油』で初監督を務める。出演作に『聯合艦隊司令長官 山本五十六』『キツツキと雨』など。
スタイリング=安野ともこ ヘアメイク=田中マリ子 衣装協力=レザージャケット(BOSS Selection)、Tシャツ・パンツ・靴(BOSS Black)(共にヒューゴ ボス ジャパン株式会社 ☎03-5774-7670)
『蜜のあはれ』(『日本幻想文学集成 室生犀星』所収)
ある時はコケティッシュな令嬢に、ある時は赤い出目金に─変幻自在にその姿を変えては〝をじさま〟と戯れ、きわどいおしゃべりを楽しむ、老小説家の愛人となった金魚。詩人として出発し、作家として創作の限りを尽くしてきた犀星が、最晩年に描き出した全文会話体のみで繰り広げる耽美でコミカルな幻想小説。
映画『わが母の記』
原作/井上靖『わが母の記~花の下・月の光・雪の面~』 監督・脚本/原田眞人 出演/役所広司、樹木希林、宮﨑あおい、他 配給/松竹 4月28日(土)全国ロードショー●昭和35年、母・八重の面倒を見ることになった小説家の伊上洪作。幼少時代のわだかまりから、母と距離を置いていた洪作だが、家族に支えられ、八重と向き合うことに。薄れゆく母の記憶の中で、唯一消されることのなかった真実とは──。