「常識から外れても、幸せになれる」――傑作BLで自分の人生を考えてみよう

アニメ・マンガ

2018/11/17

『Life 線上の僕ら』は、BL情報サイトちるちる主催「BLアワード2018」ベストコミック部門第1位となり、タレントの池田裕子さんがジャニーズアイドルA.B.C-Zのバラエティ番組『ABChanZoo』で紹介するなど、大きな評判になったボーイズラブマンガ。

 同い年の伊東晃と西夕希が、高校生で出会ってから、それぞれの生を終えるまでの一生を描いた作品だ。出会い、愛し合い、別れ、そして――。たった1冊の中に、二人の男性の人生の輝きや喜びや哀しみが凝縮され、読後には大きな感動が残る。普段BLを読まない人にも読んでほしい傑作である。作者の常倉三矢さんはBLデビュー2作目にして、圧倒的話題作を上梓した大注目の新星である。作品に込めた想いなど、貴重なお話をうかがった。

■「男性が主人公のストーリーマンガを描きたい」――BLを描くまでの、長い道のり

――2015年に『咬みつきたい』でBLデビューされ、昨年『Life 線上の僕ら』が大ヒット。過去には別名義で、少女マンガ誌などでもご活躍でした。ご自身のヒストリーを教えてください。

常倉三矢さん(以下、常倉) 思春期の17歳のころ、萩尾望都先生など24年組の先生方の作品や、『LaLa』の山岸凉子先生、成田美名子先生、清水玲子先生、樹なつみ先生など、男性が主役のマンガを読みふけっていて、マンガでこんなに深い精神性を描けるんだ、と心を打たれ、私もこんなマンガが描けたら、と憧れていました。でもマンガ家になれるとは思いませんでした。新聞や雑誌に絵を投稿するのは好きだったので、少ないページで完成するギャグマンガを投稿したら、ショートギャグマンガ家として20歳でデビューすることになりました。

――ギャグマンガ家としても、代表作がアニメ化されて人気に。このころのギャグ作品も主人公は男性で、ほかにもタイプの違うイケメンキャラを複数描いていらっしゃいます。

常倉 思春期に読んでいたマンガの影響なのか、男性のほうが動かしやすくて。あと、10代の頃は、『JUNE』(BL草創期の草分け的雑誌)も読んでいたんです。少女マンガ誌でデビューして以降、自分で描くようになるまでBLからは遠ざかっていましたが。10年くらいはギャグマンガを描いていることに満足していたのですが、だんだん何を描けばいいのか分からなくなり…。そこからしばらく迷走してしまい、周囲の提案に乗る形でさまざまなルポマンガを根無し草的に描いていました。

 ほとんどショートマンガしか描いてこなかったので、思春期に自分の魂を震わせた「男性が主人公のストーリーマンガを描きたい」という気持ちはありつつも、そんな気持ちを持つこと自体が自分にはおこがましいと思い込んでいて。少女マンガ誌の編集さんにも、いまの少女マンガ誌ではそういうマンガは贅沢品だからできない、メディア化を目指せる作品でないと企画が通らない、と言われ、もう自分に出来る事は無い……とあきらめるようになりました。

――そこからどんなきっかけで、BLを描くことに?

常倉 BLを読む習慣はなかったのですが、もうマンガを描くのをやめようと思ったとき、SHOOWA先生の『イベリコ豚と恋と椿。』の電子書籍の広告バナーを見て、絵がとても好みだったので読んでみたら衝撃で。かっこいい男の子たちが生き生きと描かれていて、ものすごく自由に見えて、「私は何もこんな風に自由には表現できなかった」という悔しさがふつふつと湧いてきました。どうせ辞めるなら最後に描きたいものを描こうと。いざBLを描いてみたら、スラスラ描けて(笑) 『花音』に持ち込みをして、デビューできました。面識はありませんが、SHOOWA先生は恩人ですね(笑)

■どうしてもこれを描くしかない。売れなかったら切られてもいい

――そしてBL作家として『咬みつきたい』でデビューされ、二作目に大傑作『Life 線上の僕ら』が生まれるのですね。

常倉 『Life』の企画を提案した時点では、ちょっとBLとしてはイレギュラーなのでは…など、いろいろと心配されて、編集部から若干難色を示されたんですが、そのときはどうしてもこれを描くしかないと思って、売れなかったら切られてもいいから、と強引にお願いして通してもらいました。

 描いていて気持ちが沸き立つ、ドーパミンが出る作品というのは絶対あきらめてはいけないと思って。いままで自分を表現しきれないまま沢山失敗を重ねてきて、それらとは違うとはっきり自分の中で感じていたんです。

 幸い掲載が決まってからは、編集部には作品を生かすためにあらゆるサポートをいただいて、おかげでより良い形で発表でき、本当に感謝しています。

17歳、互いの空想の白線の上で出会う二人
(C)常倉三矢/芳文社

――まさに不退転の決意で執筆に臨まれたのですね。

常倉 描いているあいだは、目に見える周囲に理解者がいないとしても、シンパシーを感じてくれる人が遠い世界に必ずいるはずだと、無根拠に信じていました。そして読んだ後に、ふっと気持ちが明るいほうに向くように、ほんの少し、いい生を生きよう、と読者に思っていただけたら、と願いつつ。

 ただ、そういう感覚で描きはじめると、不誠実なことができないんです。レポマンガなど描いているときは、目の前の編集者や、取材相手など、顔の見える人のために描いて、その人さえクリアできれば良いので、良くも悪くも妥協を混ぜつつややれました。でもこのときは、目に見えない、心でつながる誰かに伝えるために描きたかった。それは17歳の自分に向けてでもあります。そうすると小手先でごまかそうと思ってもできない。嘘があると、心でつながれないからです。

 たとえば、『Life』では、最後のベッドシーンの作画で、急に筆が止まったんです。前作の『咬みつきたい』は、荒々しい感情の昂りとセックスシーンのタイミングが自分の中でぴったりはまっていて、必然性を感じていました。でもそういう点で、『Life』は若干ズレがあって。感情は既に手前の場面で描ききったのに、ベッドシーンが必要なのはどうしてなのか? ただの読者サービスなのか?

――妥協せず向き合われたんですね。

常倉 自問して出た答えは、意味付けするとしたらベッドシーンは「邂逅の後の転生」だということでした。ついに再会した晃と夕希の二人が、自分の本質を受け入れて、新しい生を生きる儀式。BLでなぜエロスが必要なのか、という疑問はよく耳にしますが、自分にとっての答えはそれなんだろうと思います。

『Life』は、形としては晃と夕希の物語として描きましたが、単純に出会ってから死ぬまでを描いたから「ライフ」というタイトルなのではなくて、私が思う人生とは、こういうものだ、という人生観を描いた「ライフ」なんです。キャラクター独自のストーリーというより、本質としては、誰の人生にでも用意されている愛の形を描いたつもりです。

高校生の晃と夕希は恋に落ちる
(C)常倉三矢/芳文社

 その愛とは恋愛に限りません。仕事や趣味や家族かもしれない。だからキャラクターと同じ経験をしなくても共感できる、そういう、人生のひとつのテンプレートを描きたかった。タイトルの「僕ら」は、晃と夕希であり、穂香であり、読者や私自身でもある。みんながそれぞれ自分を投影して自分の人生を考えられる話にしたかった。なので、1巻完結のあの長さなんです。2巻以上になると、それはキャラクターの物語になってしまう。二人の人生はあくまで象徴で、誰の人生にも、その人だけの邂逅があると私は信じています。

■BLは少女マンガの頂点。ジャンルにとらわれず読んでほしい

28歳、晃は常識に逃げ、夕希から離れていく
(C)常倉三矢/芳文社

――『Life』を読むことで、自分の人生を考えるきっかけになりそうですね。

常倉 私は17歳ですばらしいマンガに心を打たれて、純粋な喜びを知って、自分もこんなすごいマンガを描いてみたいと思ったけれど、ずっとその喜びとは別の――たとえば、依頼されるマンガや、適齢期の女性のライフイベントといった「常識」を意識して生きてきました。けれど、ついに常識と自分が折り合わなくなって、マンガ家をやめようという絶望に陷って、BLに出会った。そして描きたいBLを描けたことで、自分の魂がほんとうに満たされた喜びを実感できたんです。

 私の純粋な喜びは17歳のときのまま形を変えずに、ちゃんとそこにいた。そしてこういう瞬間は、みんなに用意されていて、ちゃんと訪れるんだと思いました。それを見つけていく旅が人生で、みんなそれを思い出す瞬間がきっとあるのだと。マンガを描くより気楽に生きる方法はあると思うけれど、描けたときの魂の満たされる感じには代えられないんです。

32歳、自分に嘘をつけなくなり、苦しむ晃
(C)常倉三矢/芳文社

――自分の人生の喜びがなにかを知っておくことは、幸せに生きることなんですね。

常倉 まわりを見て合わせるより、自分が心からそうしたい、という気持ちがあるなら、そちらを大切にしてほしいですね。私はマンガ家という常識からはずれた職業についてしまったけど、普通に常識の恩恵を受けて育ってきたので、長いあいだ、一生懸命まわりに合わせなきゃ、みんなみたいにならなきゃ、という意識が強かった。BLに出会ったいまは、もう、そういうふうに生まれついてしまったから、それをまっとうするしかない、と思っています。さとりですね(笑)

 結局自分を認められるかどうかなんです。自分を認めていれば、なにを言われてもゆらがない。でも自分を認めて、そこに飛び込むのは怖い。その恐怖から逃げる先が常識です。『Life』でも晃が常識に逃げますが、心は決して満たされない。

 BLは、それを描くジャンルだと思います。常識から外れている自分を認めるまでの葛藤と、認めた先にある魂が満たされる喜び。多くの人が共感できるテーマです。私は今、17歳の頃からタイムスリップしてきたような心境なので、少女マンガの頂点がBLだと思っています。思春期のころから『風と木の詩』や『日出処の天子』など、今ならBLに分類されるであろう少女マンガの頂点の作品を読んできました。だからいまBLにカテゴライズされているものも、たくさんの人に読んでほしい。マニアの読み物に限定されたくないんです。『Life』が少しでも、ジャンルの架け橋になれたらいいなと思います。

36歳、夕希に再会し、晃はやっと本音を伝える
(C)常倉三矢/芳文社

――常識に逃げても魂は満たされない、というのは、生き方が多様化する現代の世相に合致するテーマですね。『Life 線上の僕ら』に共感する人は多いと思います。

常倉 海外の読者からもメッセージをいただくことが多くて、そんなことは今回が初めてなので驚きつつ、間違っていなかったんだと感じています。ありがたく自動翻訳でなんとか拝読しています(笑)

 前作もそうでしたが、「仕事で疲れたときに、読んで笑って気持ちが明るくなった」といったお手紙をいただいたりすると、それが自分の心の支えになって、またお返しできたら、と心を込められる。そういう素敵な循環を断ち切らないでいられるように、また描き続けることができたら、と思っています。

常倉三矢(とこくら・みや)
『Life 線上の僕ら』が「BLアワード2018」ベストコミック部門1位受賞。本作は台湾・韓国・フランス語・ポーランド語でも翻訳出版(予定含む)されている。その他の作品に、『咬みつきたい』(芳文社)など。

取材・文=波多野公美