萩原利久「どうしても演じたかったタカヒロ。彼の特徴である吃音の芝居は、誰かを真似することなく、タカヒロならでのパターンを1からつくりあげていきました」

あの人と本の話 and more

2019/2/9

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『十二人の死にたい子どもたち』で、吃音を持つ高校生・タカヒロを演じる萩原利久さん。おすすめ本『コンビニ人間』のなかで、これまでになく惹かれた人物のこと、そしてタカヒロを演じるにあたり、役に注ぎ込んだ熱意についてお伺いした。

萩原利久さん
萩原利久
はぎわら・りく●1999年、埼玉県生まれ。2008年デビュー。主な出演作に、映画『帝一の國』『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』、ドラマ『あなたには帰る家がある』など多数。待機作に映画『あの日のオルガン』『アイネクライネナハトムジーク』。現在、ドラマ『3年A組―今から皆さんは、人質です―』に出演中。

「いるようでいない、本当に生々しいんだけれど、どこかファンタジーっぽい。主人公のキャラクターは、そこを行き来している感覚があって。『コンビニ人間』はそうした登場人物が魅力的で、惹きつけられました」

 公園で死んでいた小鳥を「お父さんが好きだから焼き鳥にして食べよう」と言ったり、男子のケンカを止めるため、スコップで殴ったりして、周囲に奇妙がられる子供だった主人公・古倉恵子。彼女は完璧なマニュアルに沿うコンビニの店員になることで、“普通の人間”として社会と繋がる実感を得た。36歳、独身、彼氏ナシ。18年間、コンビニのアルバイトを続けている。

「でも一番惹かれたのは、婚活目的でコンビニのバイトに入って来た白羽さんという男。登場してきたときは、“うわ、こいつクズだな”と衝撃すら感じていたのですが……」

 コンビニで働く人たちを“底辺”と見下す白羽は35歳。女性との交際経験がない独身。いつかIT起業すると息巻いているが口ばかり。そして恵子の生き方をバカにする。

「本を読むなかで、人の癖みたいなものをこれほどまでに立体的に感じられたのは初めてでした。彼が、縄文時代を引き合いにして、自分の居場所がない社会の状況を語るところが僕はツボにハマってしまって。“この世界は、縄文時代と変わってないんですよ。ムラのためにならない人間は削除されていく”という」

 白羽の口から、“縄文時代”というフレーズが出るたび、「面白いなぁ」と思っていたというが、まじまじ読むと、「それも一理あるなぁ」という考えに至ってきたという。『コンビニ人間』が実写化されたら、白羽を演じたい?という問いに、萩原さんは笑って首を振った。

「白羽さんとは会って、話してみたいんです。だから本人ではなく、彼とコミュニケーションをとる役を演じてみたいです」

 映画『十二人の死にたい子どもたち』のタカヒロは、何が何でも演じたかった役だったという。萩原さんはこの役をオーディションで勝ち取った。

「タカヒロを演じてみたかったのは、ひとつに彼が吃音を持つ人だったから。出演させていただいた『志乃ちゃんは自分の名前が言えない』という映画で、吃音のことを知る機会があり、自分も挑戦してみたいと思っていたんです」

 準備は入念にしたという。

「つっかえてしまったり、無音になってしまったりと、吃音のパターンは100人いれば100通りあるほど、それぞれ違うそうなんです。だから真似するのではなく、タカヒロの吃音を一からつくることに注力しました。彼には、“これを伝えたい”というものがあり、発信をするんだけど、その言葉が、相手に届くまでにタイムラグがある。その空白の時間は新鮮でしたが、芝居をするうえではなかなか消化できない難しい部分でした」

 安楽死を求め、廃病院に集まる12人の未成年たち。だが彼らはそこで13人目のまだあたたかい死体に遭遇する。12人しか知らない計画のはずであるのに、なぜ死体があるのか? 12人のなかには殺人鬼がいるのか?――。死体の謎と犯人をめぐり、疑心暗鬼のなか、嘘と騙し合いが交錯、そこでは12人の死にたい理由が抉られていく。激しい感情と言葉が飛び交うなか、タカヒロは不思議な存在感を醸し出している。

「閉鎖的な環境に閉じ込められていた彼は、外の世界に対して無知というか、ゆえに12人のなかでも、どこか浮いた存在になってしまうんですね。自分の意志が相手に届くまでの、彼特有の空白の時間も、その要因のひとつになっていると思います」

 12人の役者たちは5台のカメラに囲まれ、40分間の長回しも――。現場は凄まじい緊張感に満ちていたという。

「あちこちからエネルギーが飛んでくる。少しでも気を抜くと、それを見逃してしまう。12人それぞれがいろんなことを考え、小さなリアクションひとつとっても12パターン起こっているので、それを見落さないよう、そして、場の空気に飲まれないよう、集中していました」

 その凄まじい緊迫感は、スクリーンから圧のように押し寄せてくる。萩原さんにとって、本作はどんな存在の映画になったのだろうか。

「この先ずっと“振り返る”作品になると思います。今年、僕は20歳になるので、これからは、今、多く演じさせていだいている高校生役とは世代や立場の違う役にも挑戦させていただきたいと考えているんです。これほどまでに時間をかけ、準備し、考えた役は今までなかった。ゆえにこの先、役作りに悩んだときも、振り返ることで、何かの糸口を見つけられる、そんな存在の作品になるのではないかと感じています」

(取材・文:河村道子 写真:山口宏之)

 

映画『十二人の死にたい子どもたち』

映画『十二人の死にたい子どもたち』

原作:冲方 丁(『十二人の死にたい子どもたち』文春文庫) 監督:堤 幸彦 出演:杉咲 花、新田真剣佑、北村匠海、高杉真宙、黒島結菜、橋本環奈、萩原利久ほか 配給:ワーナー・ブラザーズ映画 ロードショー公開中
●「みんなで死ねば、怖くないから」。安楽死を求め、廃病院に集まった12人の未成年。だがそこには13人目の死体が。犯人はいったい誰? 疑心暗鬼の嘘と騙し合いが交錯するノンストップサスペンス。
(c)2019「十二人の死にたい子どもたち」製作委員会