東京に潜む闇、6つの街と6人の女が織りなす! WOWOWプライムドラマ『東京二十三区女』 原作者・長江俊和インタビュー

エンタメ

2019/4/7

 東京を舞台に、6つの街と6人の女が織りなすオムニバスドラマがいよいよスタート! 原作者の長江俊和さんに、ドラマについて、そして待望の新刊についてもお話を伺った。

長江俊和さん

長江俊和
ながえ・としかず●1966年、大阪府生まれ。映像作家、小説家。フェイク・ドキュメンタリー形式の深夜番組「放送禁止」シリーズで、数多くの熱狂的なファンを生み出した。『出版禁止』『掲載禁止』『検索禁止』など著書多数。

 

 幾度となく再開発を重ね、きらびやかに塗り飾られてきた東京。しかし一枚皮を剥ぐと、そこには仄暗い歴史が横たわっている──。4月からWOWOWでスタートする『東京二十三区女』は、東京に潜む闇を照らし、伝承や怪異を浮き彫りにするドラマ。「港区の女」「江東区の女」など各区の女性にまつわる数奇な運命、その地に根差した恐怖をオムニバス形式で描き出していく。監督・脚本は、フェイク・ドキュメンタリー「放送禁止」シリーズなど、ホラーミステリーに定評のある長江俊和さん。原作は、自身が執筆した同名小説だ。

「深夜番組で一風変わったホラーものを制作した流れで、世界を舞台にしたホラードラマを作らないかと相談されたんです。でも話が進むうちに『予算が……』となり、それなら北海道や沖縄を舞台にしようとしたら、やっぱり『予算が……』と(笑)。そこで、いっそのこと電車で行けるエリアにしようと思ったのがこの企画の発端です。東京23区をテーマにしたホラーはほとんどありませんし、東京には知られざる伝説や事件がたくさんあります。結局そのドラマは形になりませんでしたが、しばらく経って出版社から小説の依頼があった時に、この企画を蘇らせることにしました」

 執筆にあたり、東京23区の歴史を丹念に調べ、数々の伝承や事件を掘り返していった長江さん。「どの区にもそれぞれの歴史があるんです」と熱っぽく語る。

「平将門伝説をはじめ、東京にはさまざまな伝承があり、各エリアには独自の歴史があります。たとえば今や都内有数の繁華街となった渋谷も、かつては谷底の寂れた村でした。現在JR渋谷駅のあるあたりが谷底で、そこから宮益坂、道玄坂へと上がっていくすり鉢状の地形なんですね。だから、地下鉄にもかかわらず東京メトロ銀座線は地上3階から出発し、谷の斜面に突っ込んでいくように線路が敷かれているんです。このように土地の歴史を一から調べ、『へえ、そうなんだ』と感じたことを小説にしていきました」

 最初にとりかかったのは、原作の第1話にあたる板橋区。あまり訪れたこともない区だからこそ、長江さんの好奇心を刺激したという。

「今ではそこまで注目されることのない板橋ですが、江戸時代は宿場町として栄えていたそうです。でも、明治維新後に鉄道を通そうという話が持ち上がった際、板橋の人たちは『ここは由緒正しい宿場町だ。線路なんて通すわけにはいかない』と反対しました。その結果、近代化の波に取り残され、スラム街と化し、事件が多発するようになったのだとか。渋谷とは対照的ですよね。ほかに興味深いのが“縁切榎”です。この木に願をかけると悪縁を断つことができるという言い伝えが江戸時代からあり、今もその場所が残っているんです。実際に足を運んでみると、商店街の一角に小さな祠があり、絵馬がズラーッと並んでいました。『夫と別れたい』というものから『従業員一同、社長と縁を切りたいです』なんて絵馬まであって、自分と相手の名前、住所、電話番号も書かれていて。合格祈願や安産祈願と違って、縁を切るための願かけってネガティブですよね。個人情報をさらしてまで悪縁を断ちたい人がこんなにいるのかと驚きましたし、商店街の一角に負のオーラがあふれていてとてもインパクトがありました。これを小説の題材にできないかと思ったんです」

 板橋に限らず、執筆に際してはその土地を歩き、史跡をめぐったという。小説からは、長江さんが感じたその土地の生々しい空気が皮膚感覚ごと伝わってくる。

「この小説は全編を通し、ライターの原田璃々子が民俗学講師の島野とともにいわくつきの場所をめぐるという体裁をとっています。作中にある璃々子の思いは、ほぼ僕が感じたこと。その地で感じた気持ちから、道を歩いている時に車にクラクションを鳴らされたことまで、そのまま書いています」

 各区の伝承をそのままつづるだけでなく、過去の出来事と今起きている事件をリンクさせているのも面白い。その地に封印された怨念、連鎖する呪いを、現在の事件を通じて浮かび上がらせている。

「単なるホラーではつまらないので、ミステリー仕立てにしました。たとえばたまたま縁切榎を訪れた人が、自分の名前の書かれた絵馬を見つけたらショックじゃないですか。そこから事件に発展したら面白いかなと考え、ストーリーを膨らませていきました。どのエピソードも、その区の代表的なスポットや事件などを調べ、複数の要素を組み合わせて話を作り上げています。ミステリー色の強い『品川区の女』、『世にも奇妙な物語』のように不可思議な味わいの『港区の女』など、各話で構成も変えています。『港区の女』は1960年代の短編映画『ふくろうの河』をモチーフにした話でもあります。どのエピソードも、衝撃的なラスト、意外性のあるオチにしようと頭をひねりながら執筆しました」

ドラマ『東京二十三区女』
ドラマ『東京二十三区女』

封印された東京の歴史を覗き見るカタルシス

 小説では各区の歴史や伝承に紙幅を割いているが、ドラマでは人間の愛憎、狂気をクローズアップ。東京23区の怪に翻弄された人間たちの姿を、ありありと描いている。

「原作をそのまま映像化しようとすると、30分では収まりません。そこで人間ドラマやミステリー要素を抽出して脚本化しました。各区に関するうんちくは減りましたが、その分できる限り実際の場所で撮影しています。苦労したのは、渋谷や原宿の撮影ですね。センター街やキャットストリートのように人が多い場所は、ロケの許可が下りにくいんです。でも、地面の下に渋谷川の暗渠がある場所でどうしてもロケをしたかった。そこでスタッフに何度も警察に足を運んでもらい、ようやく撮影許可が下りました。どの区もリアルな映像が撮れましたし、そこに隠された東京の地霊のようなものを映し出せたのではないかと思っています」

 倉科カナ、安達祐実、桜庭ななみ、壇蜜、中山美穂、島崎遥香と各区の女たちを演じるキャストも超豪華。脇を固める俳優陣も、個性派がそろっている。

「各区の個性が表れた女優さんばかりですし、みなさん原作のイメージを超える演技を披露してくれました。『渋谷区の女』に登場する佐野史郎さんからは演技以上の鬼気迫る狂気を感じましたし、『江東区の女』では愛人役の安達祐実さんと本妻役の鈴木砂羽さんの対比も見事でしたね。璃々子役として全話を通して登場する島崎遥香さんは、透明感があり、本当に霊感がありそうなオーラのある方。これだけのキャストがそろえば、誰が監督しても面白くなったんじゃないでしょうか(笑)」

 春には、豊島区、葛飾区、墨田区、千代田区の4編を収めた続刊も発売予定。続編に収録される「豊島区の女」は、小説の刊行に先駆けてドラマ第3話で映像化されている。

「豊島区について書こうと思った動機のひとつに、帝銀事件がありました。僕が好きな横溝正史もこの事件をモチーフに『悪魔が来りて笛を吹く』を書いていますし、非常に不可解な事件なんですよね。そこで帝銀事件を中心にした『豊島区の女』を書いたのですが、どうもしっくりこなくて……。結局、“池袋の女”という都市伝説と老いらくの恋を結びつけた話にしましたが、どうしても捨てきれずに冒頭に帝銀事件のエピソードを残しています。この話は、小説とドラマで結末が違うので、そこも楽しんでもらえるんじゃないかな。その他の区についても、時間はかかりますがゆっくりと書き継いでいきたいですね」

『東京二十三区女』しかり『放送禁止』しかり、長江さんの作品は封印された呪いや禁忌に触れるものが多い。その理由はどこにあるのだろうか。

「人間は、行動を制限されるとストレスを感じ、そこから解放されたいと願います。これを心理学用語で“心理的リアクタンス”というそうです。つまり、人は誰しも封じられたものを見たいと感じる欲求を抱えているんですね。そしてその欲求こそが、物語の原点ではないかと思うのです。いつの時代にも、本当にあった出来事にもかかわらず、表立って語ることのできない話ってありますよね。人は、それを小説や神話として語ったのではないでしょうか。事実、歌舞伎や浄瑠璃では、幕府に禁じられながらも人名や年代を変えて現実にあった出来事を演じてきました。『東京二十三区女』も、封印された東京の歴史を覗き見る作品です。そこにカタルシスを感じていただければと思います」

取材・文:野本由起 写真:川口宗道

 

ドラマ『東京二十三区女』

ドラマ『東京二十三区女』
4月12日(金)WOWOWにて放送スタート
毎週金曜深夜0:00~ ※第1話無料放送(全6話)
原作:長江俊和『東京二十三区女』(幻冬舎文庫) 監督・脚本:長江俊和 音楽:天休久志 
〜出演〜
第1話:倉科カナ/佐野史郎 第2話:安達祐実/長谷川朝晴 鈴木砂羽 第3話:桜庭ななみ/小日向文世 第4話:壇蜜/竹中直人 第5話:中山美穂/小木茂光 第6話:島崎遥香/白洲 迅 岡山天音 
●渋谷川の暗渠、夢の島、鈴ヶ森刑場跡……。東京23区に実在する恐怖スポットを舞台に、封印された歴史と哀感あふれる事件を1話1区で描くオムニバスドラマ。6区を歩き終えた時、ライター・原田璃々子と相棒・島野をめぐる謎も明らかに。

原作小説

『東京二十三区女』

『東京二十三区女』
長江俊和 幻冬舎文庫 730円(税別)
東京23区のルポを書くため、いわくつきの場所をめぐるライター・原田璃々子。“暗渠”をめぐる渋谷区や“夢の島”を題材にした江東区など5区にまつわる怪異と現実の事件が交錯し、意外な結末へと至る連作短編ホラーミステリー。今春刊行予定の新作では、『濹東綺譚』に描かれた墨田区、“池袋の女”の伝説が残る豊島区などが収録予定。こちらもお楽しみに。