『最高の生き方』ムーギー・キム対談【第3回 島薗進】 宗教は人を幸せにするか――人類の叡智のストックに学び、選択せよ

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公開日:2019/4/9

元気なときはわからない宗教の必要性

ムーギー 先生の死生観は、どういうものでしょうか。

島薗 それは、なかなかひと言では言えませんよ。

ムーギー 私みたいに合理的なビジネスの世界に生きていると、死んだら終わりだと思うんですね。だからお金は全部使い切って、あとは散骨してくれていいからね、絶対にお墓参りはしないでね、と遺書には書いておこうと思うんですけど。

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島薗 それで不便はないんです、元気な時は。でも、どんな人にも死は近づいてくる。私も70だから、そろそろと思っています(笑)。

ムーギー いやいや、今は人生100年時代ですから。

島薗 この年になると、死んだ人のほうが自分とのつながりが多いわけです。だから半分、向こう側に足を突っ込んでいる。その“向こう”ってなんだ? っていうことですよね。昔の人はそれを“あの世”と考えていた。本当にあるかどうかわからないけれど、そういうつながりの感覚はすごく重要だと思うのです。だから、何かというと死んだ親父のことを思うし、辛いことがある時はお袋のことを思い出す。死者があってこそ自分がいるという感覚は、死生観のなかですごく大事なんですよね。

ムーギー 確かに、死者のことを考えたり、心の中で対話すること自体は、現実ですからね。

島薗 ただ、救いの宗教は、信じる人と信じない人が対立する構造も生み出します。三大宗教に限らず天理教も創価学会も救済宗教ですが、人を団結させると共に分裂させるんです。現代人はそのことを経験してきているので、多神教とかアミニズムとか救済宗教の前の宗教に戻ろうとする流れもある。いわゆるネイティブ・アメリカンのような先住民の宗教や、沖縄の宗教もそうです。

ムーギー それは、他の宗教に対して寛容になれるから、ということですか?

島薗 それもあるし、自分を振り返ってみると、目に見えない人間を超えた世界を感じている、というのがあるんですよね。

ムーギー 自然のあらゆるものに神聖なものを感じる、と。

島薗 たとえば、日本人で無宗教っていう人にも、ご飯を食べる前に「いただきます」って言うでしょう? と話すんです。それは、お日様や豊かな水、米や肉や野菜といった大自然の恵みはもちろん、親や先祖に向けた言葉でもあり、まさにアミニズム的なんですよと。

ムーギー 日本の現代社会にもアミニズムは色濃く残っているということですね。

島薗 そうです。でも今は、それを自覚しにくいんですね。

宗教の魅力は「間口の広さ」

ムーギー 特に若い世代は、宗教に関心がない人がほとんどです。しかし、宗教は教養の最たるもの。そこで先生に、ビジネスパーソンが宗教のことを知っておくべき理由をぜひお聞きしたいのですが。

島薗 やはり、宗教は自分の足元を確かなものにする、ということです。ビジネスと言っても、単に成功するためだけにやっているわけじゃないでしょう? であれば、成功を超えたあなたの活動の支えになっているものは何ですか? と。ビジネス以外の人生も、趣味とか家庭とかいろいろあるかもしれないけれど、そういうものを超えて自分自身とは何か? という問いを持つ。そのことによって、仕事や生活のさまざまな問題に対する抵抗力も出てきて、足場がしっかりするのです。

ムーギー そうですよね。どんなに成功しても「結局、俺って何のために生きてるんだっけ?」となった時、自分で納得できる答えが見出せないと、足元が揺らいでしまいますからね。

島薗 哲学も同じテーマにつながっていると思いますけど、難しくて勉強しなきゃいけない。その点、宗教は誰でもアプローチできるように門を開いていますから。難しい教義もあるけれど、入り口は入っていきやすい。