三宅裕司「とりあえず80歳まではつくっていきますよ、東京喜劇。あのとき、僕の背中を押してくださったお客さんのためにも」

あの人と本の話 and more

2019/4/9

毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載「あの人と本の話。今回登場してくれたのは、今年も「熱海五郎一座」を率いて、新橋演舞場に帰ってくる三宅裕司さん。第6弾『翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission〜』のこと、生まれ育った本の街の話、そして“笑い”についての様々を伺った。

三宅裕司さん
三宅裕司
みやけ・ゆうじ●1951年、東京生まれ。79年「劇団スーパー・エキセントリック・シアター」を旗揚げ。テレビ番組司会のほか、ビッグバンド「三宅裕司&Light Joke Jazz Orchestra」で音楽活動も。2006年より東京の笑いである“軽演劇”継承のため「東京喜劇 熱海五郎一座」の座長に。

生まれは東京・神田神保町。三宅さんは本の街で育ってきた。

「古本屋さんに囲まれて僕は大きくなってきました。たくさん本を読んでいたかどうかは別にしてね(笑)。でも推理小説は好きだったなぁ。小学生の頃は江戸川乱歩を夢中で読んでいましたね。僕は大学で落語研究会、中学からはずっとバンドをやっていたのですが、そうすると音楽、落語、日本の古典にちょっと興味がいくわけですよね。神保町に住んでいて、ありがたいなぁと思ったのが、古本屋さんのなかには、それぞれの分野の専門の店があることなんです。昔の落語関係の本を揃えてあるのが矢口書店。その古書店には談志師匠もしょっちゅういらしていたそうです。神保町に行ったときは今も必ず顔を出すんですよ」

 喜劇の舞台をつくるときも、本をひもとくことが多いという。

「もう40年もやっていますから、その都度、買った本が家にはいっぱいあるんです。ギャグを考えたりする際、裏をとるときに調べものをしたり、構想を練っていて、ちょっと詰まったりすると、本のいっぱい置いてある部屋に行って、あれこれとページをめくっていますね」

 今年も新橋演舞場で演る「熱海五郎一座」、第6弾となる『翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission〜』の構想を練っていたときは、ひたすら宇宙関係の本を読んでいたという。

「無重力についてのギャグを考えるためには、無重力っていうものをわかっていないと考えられないわけですよね。そして映画『アルマゲドン』のパロディ的なところもあるので、段ボール3、4箱に詰まっている映画のパンフレットを取り出してきて眺めたり」

 練り込まれた台本を喜劇役者がきちんと演じることによって生まれる“表現としての笑い”――東京の喜劇・軽演劇を継承し続けるべく、2006年に三宅さんを座長とし旗揚げした熱海五郎一座の、人々を抱腹絶倒させる“笑い”。そこには知られざる道のりがあった。

「ここに集まっているのは、みんなプロの喜劇俳優ですから、各々自分のやってきた笑わせ方があるわけですよね。だから当初は、『それぞれの笑わせ方でお客さんを笑わせてください』という脚本のつくり方をしていたんです。ところがどんどんやっていくうちに、僕の笑わせ方でやってほしくなってきた。それぞれの笑いを引っ込め、こちらの笑わせ方に合わせてほしいと。もちろん僕の方も歩み寄ってきたところはあるんですけれど、それを埋めていくのに10年かかりました」

 熱海五郎一座の“笑い”は、喜劇のプロたちが歩み寄り、息を合わせ、丹念につくりあげられてきたものなのだ。

「今、いろんな“笑い”がありますから。でも熱海五郎一座の笑いは“こういう笑いだ”といういつも変わらない答えがあるというのはすごくいいことですよね。それは『熱海五郎一座、好きなんだよねぇ』と言ってくださるお客さんをけっして裏切らないことでもあるから」

 練りこまれた、質の高いプロの笑いをつくること、そしてそれを後の世代にも伝えていくことが自身の使命、と言う。

「8年前に脊柱管狭窄症で入院したのですが、実はそのとき、両足の感覚がまったくなくなってしまったんです。先生はもしかしたら障害が残るかもしれないと事務所には知らせてあったそうなんですが、僕は『診断の結果を自分には知らせないでください』とお願いしたんです。そこから、ただただリハビリを必死にやって、するとある日、足がピクッと動いて。そのとき、お医者さんが、『三宅さん、奇跡ですよ』とおっしゃって、それまでの病状をやっと伺ったんです。そのとき、考えましたね、“なぜ自分は、生かされているんだろうか”と。熱海五郎一座はひと月で5万人のお客さんが観に来てくださるのですが、ああ、あの方たちが背中を押してくれたんだなと。そして僕は東京喜劇をしっかりやらなきゃいけない、この文化を残していかなければ、と強く思ったんです」

「とりあえず、80歳まではつくっていきますよ、東京喜劇」と言って、三宅さんは満面の笑みを浮かべた。

「舞台って、お客さん入れたら、扉閉めて逃げないようにして、ここだけ見て!というものでしょう。みんなで共有する笑いで、笑いの相乗効果をあげていくものなんです。その相乗効果で、どんどん笑いが大きくなっていく興奮をぜひ経験していただきたいんですよね。家路に着かれる頃には、『どんな話だったけ?』って忘れてしまっているかもしれません。でも、それでいいんです。笑って、笑って、笑って、『ああ、楽しかった!明日からまた頑張るぞ』って思っていただければそれでいいんです」

(取材・文:河村道子 写真:干川 修)

 

舞台 熱海五郎一座『翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission~』

舞台 熱海五郎一座『翔べないスペースマンと危険なシナリオ~ギャグマゲドンmission~』

作:吉高寿男 出演・構成・演出:三宅裕司 出演:渡辺正行、ラサール石井、小倉久寛、春風亭昇太、東 貴博、深沢邦之、劇団スーパー・エキセントリック・シアター、高島礼子、橋本マナミ 5月31日(金)~6月26日(水)新橋演舞場で上演
●巨大隕石が日本に衝突!? だが極秘プロジェクトに召集されたメンバーは……。歌、ダンス、アクションなどのエンターテインメントを盛り込んだ抱腹絶倒の東京喜劇第6弾!