【ひとめ惚れ大賞】この本は ケーススタディとして 「使うための本」なんです『82年生まれ、キム・ジヨン』訳者・斎藤真理子インタビュー

文芸・カルチャー

2019/6/12

『82年生まれ、キム・ジヨン』
チョ・ナムジュ:著

斎藤真理子:訳
装丁(日本語版):名久井直子
装画(日本語版):榎本マリコ
編集(日本語版):井口かおり
筑摩書房 1500円(税別)

この作品は韓国で100万部を超えるベストセラーになり、国会議員が300冊買って議員に配ったり、女性アイドルが読んだと言っただけで猛烈な批判を浴びたりと、社会現象となっています。日本でも現在(2019年3月取材時点)発行部数9万部を超え、さまざまな年代の女性から感想が届いていますが、強く共感した読者が多い一方、「読み進めることが難しかった」「読むのがつらかった」という声もありまして。「女性の人生に起こり得る不条理の事例集」のような性質があるので、キム・ジヨンの人生に起こった出来事の何かがそれぞれの読者の記憶に引っかかり、共感や痛みを引き起こすのかもしれません。これはキム・ジヨンの物語であると同時に「あなた(読者)」の物語でもあるわけです。

日本と韓国は社会や家族のあり方に共通点が多いんですね。たとえばお盆の帰省。夫の実家に行くのが憂鬱な女性は日本でも少なくないと思いますが、本書でも同じ状況が描かれています。最近はお姑さんがお嫁さんに気を遣うようになっていたり変化はしてきているようですが、しきたり自体が消えたわけではない。旧来の家族制度との過渡期である状況も、日韓で似ているかもしれません。

この作品において、女性の登場人物はすべてに名前がついているのですが、多くの男性登場人物は名前もないんですよね。そんな風に描かれる男性側からしたら確かに戸惑いはあるかもしれません。韓国では賛否両論に分かれていて、「これは文学とは呼べない」といった批判もあります。でも著者は、「この本は読者自身が完成させてほしい」と言っているんです。本書で男性だけの読書会をしようという方もいると聞きましたが、いいですよね。ケーススタディを行うことで避けられるすれ違いは少なくないはず。本書をきっかけにお互いの想いを交換しあえたらいいなと思います。

|| お話を訊いた人 ||

斎藤真理子さん翻訳家。学生時代から韓国語を学び、ソウルに留学。訳書にパク・ミンギュ『カステラ』(共訳、クレイン。同作で第1回日本翻訳大賞を受賞)、『ピンポン』(白水社)、ハン・ガン『すべての、白いものたちの』(河出書房新社)などがある。

取材・文/田中裕 写真/首藤幹夫