第25回電撃小説大賞《メディアワークス文庫賞》受賞『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』吹井 賢 インタビュー

小説・エッセイ

2019/6/10

 日本最大級にして最高倍率の新人賞・電撃小説大賞で、応募総数4843作品の中から選ばれた選考委員激賞の問題作! 普通ではない事件に挑む普通ではないキャラクター。息詰まる心理戦とアクション、ミステリー、人間ドラマ……etc。あらゆるジャンルを内包するエンサイクロペディア的サスペンスがここに開幕する!

『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』イラスト

吹井 賢
ふくい・けん●大学生時代より小説の執筆を開始して、小説投稿サイトや新人賞への応募を経て2018年、『破滅の刑死者』で第25回電撃小説大賞〈メディアワークス文庫賞〉を受賞。受賞作を改稿した本作で小説家デビューを飾る。

 

 美しくも不敵な眼差しで、挑発するように笑いかける美貌の少年。散りばめられたカード、背後に浮かび上がる片目だけ光る髑髏……表紙からして尋常ならざる雰囲気が漂ってくる本作は、本年度電撃小説大賞の受賞作中ひときわ異色の輝きを放っている。

 暴力団事務所で発生した襲撃事件を皮切りに、ギャンブル狂の少年トウヤが巻き込まれる国際的な謀略事件。内閣情報調査室の特務部門、通称CIRO-Sの新米捜査官・珠子は彼と協力して事態解決を図る――。作者の吹井賢さんは大学院で社会学を学んだ経歴を持つ。

「社会学の基本は両義性という観点から物事を見ることです。ある考え方や視点は他の立場からだとどのように見えるのか、ということなのですが、小説を書く上でもこの両義性を意識しています。この人物はこの位置からはこう見えるけれど、別の立場からだとこう見える、という具合に」

両義性を象徴するのが作品内で随所に出てくるタロットカードだ。トウヤはタロットにおける『ハングマン(吊された男)』を意味する者として描かれている。正位置からだと吊るされて見えるハングマンだが、逆さまにすると踊っているようにも見える。

 ハングマンの如く自らの命を弄び、軽く明るく、しかして虚ろなトウヤと、彼に振り回される生真面目な珠子。二人のかけ合いにはバディ小説の軽快さがあり、加えて男女の感情の綾もそこはかとなく醸し出される。

「珠子視点で書いている部分が多いので、トウヤはカッコつけているように見えるのですが、実は……という仕掛けを施しています。それが明かされるのは最後の最後ですが、そこで本当の顔が分かるようになっています。一方、珠子は作中でたびたび指摘されるように〝良い人〟なんですが、世間知らずなところもあって、そこをトウヤからつつかれてしまうんですね」

 珠子の上司であるマキャベリストの佐井征一、人智を超えた力を持つ敵ウィリアム=ブラック、超越した目で全てを見渡す謎めいた女性・五辻まゆみ。彼らを取り巻く人物たちも負けず劣らず個性的だ。

「自分が面白いと思えるような小説を書いてみたら、こんな内容になりました(笑)。ディテールをはじめとして現実社会の抱える問題や切実さと地続きになったリアルなファンタジーを目指しています。第2巻もどうぞご期待ください」

 ギャンブル小説でありバディ小説であり、謎解き要素にアクション、さらに様々な思考実験も盛り込まれた、どんなジャンルにも属しきらない独特の世界が展開している。

取材・文=皆川ちか

 

『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』

『破滅の刑死者 内閣情報調査室「特務捜査」部門CIRO-S』
吹井 賢 メディアワークス文庫 610円(税別)
「普通ではない事件」を扱う、内閣情報調査室に極秘裏に設置された特務部門、CIRO-S。その捜査官・雙ヶ岡珠子は、消えた国家機密ファイルの手がかりを持つ少年・戻橋トウヤと出会う。ファイルを狙う犯罪結社と対峙するため彼と手を組むが、自ら危険に飛び込んでいくトウヤに翻弄される――。

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