無料アプリから人気に火がついたシュールな脱力系コミック

新刊著者インタビュー

更新日:2012/11/1

 黄色いロンパース姿でおしゃぶりくわえて事件に挑む、謎のこども刑事「めめたん」。この愛くるしい正義の味方の4コマ漫画が、スマートフォンの無料アプリでダウンロード数44万超えとなり話題となっているのをご存じだろうか? 恐らくまだ知らない人もいるだろう。

 というのもめめたんは、もともと作者の森山一保さんがブログに発表していたネタのひとつ。ネットやスマホに熱心でない人は、今まで目にする機会がなかったのだ。

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「めめたんの第一話を書いたのは、3年ほど前になります。思いついたネタをただブログにアップしていたら、見てくださった方のコメントがだんだん増えて、めめたんの話題でブログ内が盛り上がってきたんですね。その後、編集プロダクションの方から書籍化の話もいただいたのですが、出版社側からどういう売り方をしていいかわからないと却下されてしまって、その時は実現できなくて……」

 それでも読者の反響に手応えを感じていた森山さんは、自ら10社ほどの版元に売り込んでみたが、あえなく玉砕。

「どこもマンガ自体に魅力は感じてくれるんですが、やはり売り方がわからないとか、めめたんというキャクターが何なのかよくわからないという意見もありました。ファミリー向け4コマ雑誌の人のアドバイスで、めめたんをちゃんと人間の家族の一員にしたネタを描いたこともあったんですけど、めめたんのミステリアスな神秘性がなくなって、それはそれでいらないって言われちゃって(笑)」

 その時点ですでに100話ほどネタを描いていた森山さんは、書籍化が難しいならまずめめたんを多くの人に知ってもらおうと、無料アプリで公開することに。当時、有料アプリの漫画があまり広まっていなかったのと、出版社にさんざん断られた経緯もあり、無料にすることにまったく抵抗はなかった。

「プログラミングの基礎知識を学んだことがあったので、4カ月ぐらい独学してアプリも自分で開発しました。その3カ月後ぐらいから急に口コミで広がりだして、キャラクターのライセンスに関する問い合わせなどが殺到するようになったんです。最初はとにかくプロモーションしたい一心だったので、そこまで注目されるとは思ってもみませんでした」

 その後めめたんは、女性向けアプリ紹介サイトのランキング上位に常にランクインするほどの人気となったのだ。

 

思いついたら下描きもせずに描いちゃう
「いい加減さ」が生み出す型にハマらない笑い

 めめたんが読み手の心をくすぐるのは、柔らかそうな丸みのある体型とつぶらな瞳。そして予測不能な行動と周りを翻弄するマイペースぶり。言葉はしゃべらないけれども変装好きで、大喰いで、たまに大人をおちょくって幼児らしからぬ存在感を放つところにもぐっとくる。

「めめたんがうちの娘に似てると言って、娘さんの写真画像を送ってくる人とかいるんです(笑)。あと飼っている犬に似ているとか。シンプルなキャラだけに、いろいろ投影しやすいんでしょうね。でも最初からこういうキャラクターを決めたわけではなくて、描いているうちに気がつくとよく食べてたり、急に子どもっぽくなったり大人のフリしたり、自分の性格やら願望がいろいろ出ちゃったんです。出版社に持ち込むと、このキャラクターはどういうキャラクターなのか定義づけしましょうとか言われるんですよ。長期的な視野で売ることを考えれば当然のことなんですが、めめたんはかなり無責任にいい加減にやっているので、それが逆にいい効果を生んでいるような気がします」

 漫画の内容も、オチがあったりなかったり。意味はなくとも場面の流れやインパクトが面白かったり、4コマもあれば劇画調の短編もありで、まったく型にはまっていない。描き下ろしが半分以上あるという今回の作品には、刑事ものとまったく関係ないネタも出てきて、まさに何でもあり。そのぶん読者を飽きさせないのだ。

「4コマ漫画って、論理的につくろうと考えるとどんどんつまらなくなっていくんです。だから、馬鹿なダジャレでも思いついたら下描きもせずに描いちゃうぐらいの感じがいいんですよね。いいものを見せたいっていう気構えがあると、読むほうも構えちゃって読んでくれなくなるので。めめたんの短くてバカバカしい内容が、気軽にアプリを楽しみたいスマホユーザーに合っていたのかなと思います」

 めめたんの相棒刑事の松戸優作、人情家のデカ長、ライバルのメイケル捜査官、ラーメン命の小池刑事など、他の登場人物も少しいかれた個性的でユニークなキャラばかり。70年代の熱血刑事ドラマや金八先生などのパロディもちらほら出てきて、“わかる人にはわかる”笑いも病みつきになる。

「70〜80年代のドラマって、自分にとってインパクトが強いものが多かったので、どうしてもそこに引きずられちゃうところはあります。今の刑事ドラマはあまり違いがわからないんですけど、あの時代はドラマにしても歌にしても、みんなの共通の話題になるほど影響力の大きいものが多かったですから」