人気作家二人が挑む恋愛考察エッセイの中身とは?

新刊著者インタビュー

2012/5/7

穂村  この恋愛エッセイがうまれるきっかけは、以前やった対談でした。僕が角田さんに、「女性に『私のどこが好き?』と聞かれたら『間髪入れずに顔と答えるのがいい』」と友人に知恵をつけられた経験を話すと、角田さんが真剣な顔で「違う」と。

角田  細部を数多く挙げ、なるべく具体的に褒めなきゃいけないと言ったと思います(笑)。

穂村  それを聞き、そんなことができる男、見たことも聞いたこともないと言うと、その場にいた女性編集者がそういうズレをそれぞれエッセイに仕立て、往復書簡のようにやり取りするWEB連載をしませんか、と。

角田  あれがきっかけだったんだ。いま初めて知りました。
 今回のこのやり方は、穂村さんが毎回反応してくる所が面白くて、目からウロコが落ちっぱなし。中でもいちばんショックだったのは、二股男が「おまえはひとりで生きていける。でもあいつはおれがいないとだめなんだよ」と言う決まり文句が、言葉通りの意味ではなかったこと。

穂村  う〜ん、でもまあ、僕の意見だから。

角田  いや、でも真実だと思う。言われるがままに、自分は強いからいけないんだって信じ込んできたけど、穂村さんが言うように「きみより好きな人ができた」という意味だと理解すると、いろんなことに合点がいく。

穂村  別れの摩擦係数を低くしたくて、無意識にそういう落とし所を作ってしまうんだろうね。

角田  私は「一人で生きていけない女」というタイプが本当にどこかにいて、そういう人は色白で髪が長くて低血圧で肉の脂身とかは残すんだろうなとか想像してたけど、穂村さんの“解説”で、そういうレベルの話じゃないと分かった。ということは相手にもっと好きな人ができたら、どんな女ももれなく言われちゃう可能性があるわけで、本当にいまだに信じられないです。「一人で生きていけない女」という実態はなかったんだと思うと、呆然とする。

穂村  これでも、きれいなほうに重点を置いて書いたつもりなんです。嘘は書かないけど、あまりにも身も蓋もないことはやはり書けなかった。

角田  例えばどんな?

穂村  やりたい気持ちの身も蓋もなさとか。なにも自分が男を代表してそれを言わなくてもいいだろう。俺が損だもんな、という感じはやっぱりあった。

 

女がもっとも避けたい男

穂村  僕がいちばんショックを受けたのは、「女とつきあったことのない男」の章かな。

角田  わ、ごめんなさい。あれはパッとイメージが浮かぶままに書いただけで。

穂村  でしょうね。だからこそ、グサグサくる。冗談のつもりで失礼なことを言うとか、人の話には笑わなくて自分の話にだけ笑うとか、列挙された特徴にいくつか当てはまるうえ、「髪が黒くて多い(関係ないけど)」というのもあって、髪が黒くて多い僕としては、関係ないからこそ本質を突いてる気がして、ものすごい衝撃を受けた。

角田  いや、私は「女とつきあったことのない男」は、むやみに人を傷つけてくるタイプだと思っていて、ほんと、苦手っていうか怖いんですよ。でも、穂村さんは全然そういうタイプじゃない。私は穂村さんが本の中で振りまいているイメージに惑わされ、そういう人なのかなと思って初対面の場に行ったけど、すぐ「欺されてた」って思った(笑)。だからよもや穂村さんがそこに反応するとは思わなくて。

穂村  角田さんの柔らかい雰囲気とか表情を見ていると、ちょっとくらい失礼なことを言っても許してくれるんじゃないかって、錯覚してしまうのかなあ。

角田  顔は丸いですが、短気で非寛容。本当は「黒い会」代表ってくらい陰湿な人間です。

穂村  角田さんの話の中には、なんかものすごく生々しい空気感みたいなものがあるんだよなあ。例えばダイエットでマラソンを始めた初日、すれ違った中学生に「でけーケツ!」と言われたこととか、何回も読み返してこの感じはなんだろうって。このレベルで対応しなきゃダメだってすごく思った。

角田  私は穂村さんが男の「所有感覚」について書いた所とかも、すごく目からウロコだった。ほんと、長年謎だったんですよ。どうして男は野球とかサッカーとかスポーツの試合を見てて、監督になったり選手になったりするのかって。

穂村  男は言うよね。

角田  「なんで言えるの。自分ではやってないのに」って思う。

穂村  それ言われるの、すごく信じていた者に刺された感じ……。

角田  でも、穂村さんが男の所有感覚は一方的に発動して、サッカー日本代表の俺的ベストメンバーを考えたりするのが好きなのはそのバリエーションなんだと解題してくれて、「あ、こういう気持ちで言ってるんだ」って理解できた。

穂村  なんでそういう男達が現実社会の中では席を譲り合えるかも不気味だよね、女性には剥き出しになるのに(笑)。

角田  私、この辺りで恋愛を超えて、結構難しいことを考えてましたよ。母と息子、母と娘という関係性は実は全然違う。そこから成長していくと、性差も含めて、男と女にはもう決定的に相容れないものがあるんじゃないかとまで考えた。