人気作家二人が挑む恋愛考察エッセイの中身とは?
更新日:2012/11/1
男の画素数、女のチップ
穂村 男って現在に対するキメが粗い感じがするよね。最後の章で僕は、女性の恋愛当事者意識を長編劇画、男のそれは四コマ漫画とたとえたけど、結局男の現在は画素数が低いんだと思う。そうでなきゃ、「戦国マップで言えば俺、信長タイプ」とか、とてもまともに相づち打てないようなことを言うわけない。でも男性は普通にそれくらいは言うでしょう。女性がそういう愚かさから免れているのは、常に現在に対して画素数が高いからで、逆に男から見ると、関係性というものに対してなぜそう大きなチップを張れるのか謎だったりするんですよ。
角田 は〜〜、穂村さんって本当に説明が上手ですよね〜。ちょっと訊きたいです、その説明の巧みさをもって、嘘をいうこともあるんですか。こう言えば相手が納得するだろうって。
穂村 でも、恋愛の場では通用しないですよ。女性の「本当のことが分かる度」っていうのはすごいから。あれは明らかに言語能力じゃないということが分かる。とても騙せないですよ。
角田 そうか。安心しました。いや、穂村さんに対してじゃないですよ。なんていうか、人間に対して。
穂村 僕もちょっと角田さんに訊いてみたいんだけど、そういえば、なんで女の人は“自分は信長タイプ”みたいな男の話を聞いていられるの。「くだらない」とか「聞いてられない」みたいに言ってる現場を見たことがないんだけど。
角田 信長は極端な例としても、好きな人だから聞いてるという場合と、遮るのが忍びなくて聞いてる場合とあります。
穂村 こいつ馬鹿なんじゃないのって、冷めたりしない?
角田 しない。なんてカッコいいんだろうと思って聞いてる。
穂村 でもヘンじゃない? 「俺は坂本龍馬」って言ってた男が、いきなりレジで「ワリカン」って。
角田 そこで「ん? 坂本龍馬がワリカン?」って気づくことができれば賢い女だけど、そうじゃないと龍馬が自動販売機の小銭入れに手を突っ込んでも、理由があるんだろうなと思っちゃう。言ってることとやってることの開きの荒唐無稽さに気づくのは冷めてからで、始まる前とかその最中じゃないんです。
穂村 う〜ん。肉声のこの度合いが、角田さんだよなあ。角田さんの球は基本的にナチュラルシュート。球速はストレートなんだけど、球筋は自然な変化を含んでる。性差もあるのかもしれないけど、あまりにも魂がこもってて圧倒されるということが多々あった。
それを考えると、今回この“書簡形式の独立型エッセイ”でよかった。これが完全な書簡形式だと、例えば角田さんに「可愛い女の子に『今夜は帰りたくない』と言われたとき、穂村さんはどうしますか?」と聞かれようものなら、どんな答えを書いても危険。毎回とんでもなくオソロシイことが起きそうで。
角田 新鮮な考えですね(笑)。
穂村 いや、普通のリスク管理です(笑)。
角田 私は今回過去の恋愛のことや、犯した過ち、勘違いしていた所とかが新たに分かって、この年になっても新たに分かることがあるんだって思った。恥ずかしい。もう一度チャンスがあったらなあって思う。
穂村 でもリアルなことを語ろうとすると、いくらおしゃれしようとしても同じような洋服を着てしまうのと同じで、やっぱり同じ穴に落ちちゃうよね。いや、穴と決めつけなくてもいいけど、学習しないというか。自分はやっぱりこの穴に落ちるということを書いてしまう。不思議ですね。
角田 うん、そういうものかもしれないですね。
取材・文=温水ゆかり 写真=冨永智子 撮影協力=+床(tasutoko)
『異性』
ともに大学で異性デビューという二人が、恋愛カースト制の中でもがき苦しんだ過去を振り返りつつ、昭和の自意識全開の経験も赤裸々に綴る。ナチュラルストレートの名ピッチャー“カクちゃん”、キャッチャーでありながら名解説者でもある“ほむほむ”。二人の対談は数あれど、共著は初めて。宇野亜喜良と長崎訓子のイラストが同時に楽しめる表紙にもご注目を。