「銭湯を通じて、ちょっとだけ成長する物語」『湯遊ワンダーランド』まんきつ先生×編集・高石さんインタビュー

マンガ・アニメ

2019/7/4

『週刊SPA!』で連載をしていた漫画「湯遊白書」(単行本化の際に「湯遊ワンダーランド」と改題)が、今年2月に完結。最終巻となる第3巻『湯遊ワンダーランド3』(扶桑社)が、5月30日に発売されました。

 この作品は、アルコール依存を激白した『アル中ワンダーランド』でデビューした漫画家、まんきつ(連載時ペンネームは「まんしゅうきつこ」)先生が、サウナを通じて変わっていく様子を描いた、異色の“おふろ漫画”です。

「連載が始まる前、プレッシャーで10円ハゲができた」というまんきつ先生と、作中に幾度となく登場しては笑わせてくれた担当編集・高石智一さんをお迎えし、連載を振り返っていただきました。

■はじめての週刊連載で、パニックに

――最終巻の発売、おめでとうございます。この作品はまんきつ先生にとってはじめての週刊連載だったそうですが、いかがでしたか?

まんきつ先生(以下、まんきつ):想像以上の大変さで、最初はパニックになりました。それでも、1巻はまだつつがなく進んだのですが、ネタ切れを起こしてきた2巻以降は、もう本当に大変で。「私、もたないんじゃないか」と思うことが何度もありました。

 というのも、銭湯って、基本的に何も起こらない平和な空間なんですよ。漫画に描いたような出来事だって8回行って1回あるかどうかです。そんななかで、完結することができたので、今ホッとしています。

高石智一さん(以下、高石):連載中はほとんどネタ切れを起こしてましたよね。思い出したくないですね。

――高石さんは、週刊連載を振り返ってみて、いかがですか?

高石:胃に穴があかなくて良かったです。週刊連載なのでストックが数話ある状態で進めたかったのですが、この作品はそれがなかったので、いつもギリギリでした。直前に描けない、ネタがないと言われるのを毎週繰り返すと、どんどん胃が痛くなっていきます。でも描いている本人が一番胃が痛いんだろうなと思って、やり過ごしました。僕の胃、けっこう丈夫かもしれない。

■“きょうだい漫画”から“おふろ漫画”へ

――印象に残っているエピソードを、理由とともに教えてください。

まんきつ:私は、「サウナー・佐和子」の回ですね。普段は自分をモデルにしたキャラクターを動かしていますが、佐和子は架空の人物なので、いつもよりスラスラ描くことができました。ネームに悩まなかったのも、佐和子の回くらいですね。

高石:僕は、最終回の前編です。個人的に思い入れがあるのが、この一枚です。

高石:連載がはじまる前の企画段階では、“おふろ漫画”ではなく、“きょうだい漫画”になる予定だったんです。きょうだいの確執などを連載にしようとしていたんですよ。そのときに生まれたのが、この絵です。

まんきつ:きょうだい漫画の場合は、これが1話目に来る予定でした。でも、きょうだいのアレコレを連載にするのは難しいなということで、おふろになったんです。

――最終回での弟さんとのエピソードはかなり衝撃的でした。これは実話なんですか?

まんきつ:実話なんです。まだ傷跡残ってます。皮膚が薄いところだから、すごく血が出たんですよ。

まんきつ:実は、1巻の途中で、私は弟の家を出ているんです。なので、2、3巻で出てくる弟のエピソードは、過去のやりとりや会話を思い出しながら描いています。

――回想漫画だったんですね。

まんきつ:そうですね。エッセイ漫画なので、起きた出来事をタイムリーに描きたいところですが、連載当初から、「最終回は家を出て終わる」と決めていたので、リアルタイムではあえて描きませんでした。

■「高石さん」と書くと「お前」に書き換えられる

――高石さんは、作中で何度も登場されていますが、ご自身がキャラクターになるというのは、どんな気分なんでしょうか。

高石:めちゃくちゃな顔なので、自分のようでそうではないような、不思議な感覚でした。でもやっぱり似ているキャラなので、滑ってほしくないなと丁寧に赤字入れました。見た目がかわいそうだからせめて面白いこと言ってほしかったんです。

まんきつ:本当は、高石さんが登場するのは1回だけの予定だったんです。1巻のフルーツ牛乳の回ですね。でもそのときの反響がすごかったので再登場させることにしました。ネタに困ったときは高石さんを出す、という感じですね。

――はじめて見たときは、編集さんをこんな風に書いていいのかな…? と思ってしまいました(笑)。

まんきつ:漫画の中ではああいう感じなので「編集さんと仲悪いんですか?」とたまに聞かれるんですけど、本当はそんなことないんですよ。

高石:まんきつさんは、Twitterで色々書かれているのを気にしてるんです。

まんきつ:Twitterで「まんきつさん、高石さんにいじわるだ」って書かれてることがあったんですよ。でも違うんです。普段はすごく優しくしています。むしろ、そう仕向けているのは高石さんのほうで、私が「高石さん」というセリフを書くと、赤字で「お前」に直されてるんですよ。お前なんて呼びません。

高石:こういうインタビューがあるたびにイメージアップしようと必死なんです。

■作品に込められた読者に伝えたいメッセージ

――連載を終えた今だから言える、お互いへのメッセージがあればお願いします。

高石:まんきつさんは、連載中はずっと「やめたい」と言っていました。でも、それを乗り越えて、こうして3巻まで完走することができました。最初に比べると、絵のスキルも格段に上がったし、コマ運びも上手になったと思います。いつも自信なさげですけど、この経験を自信にして、これからも頑張ってほしいです。

――先生から高石さんにメッセージはありますか?

まんきつ:……。

高石:え、何もないんですか? ここで無言ってひどくないですか?

まんきつ:キツいこと言われると思ってたのに、普通にいいこと言われてしまったので、どうしようかなって……。そうですね、毎回ネームが遅くなって本当に申し訳なかったです。

高石:それメッセージというか謝罪じゃん。

――そんなにギリギリだったんですか?

高石:月曜の朝には完成原稿を入稿しなきゃいけないのですが、日曜日になってもまだネームができていないということも多々ありました。もう少し早くもらえたら、修正したりできたんですけど。常に時間が足りませんでした。

まんきつ:ごめんね! 漫画って孤独な作業なんですよ。でもいざとなったら高石さんが助けてくれるという頼もしさがずっとありました。素晴らしい編集さんだと思いました。

高石:急に褒め出すの嘘くさいですよ。

――読者に向けてのメッセージもお願いします。

高石:この漫画はおふろ漫画ではありますが、サウナを知らない人でも楽しめるように作ったつもりです。なので、サウナに興味のない人にこそ、読んでほしいんです。サウナという心から好きなものを見つけた主人公が、ほんのちょっと、成長する物語です。何か好きなものを見つけたときの人の強さや、その楽しさが伝わればいいなと思います。

まんきつ:言いたいこと、高石さんがほとんど言ってくれました。私はいつも、悩んでいる人の気持ちが少しでも軽くなればと思いながら、漫画を描いています。自分もそうだったので、そういう人のために描いていたいんです。今つらい気持ちでいる人が、この作品を読んで、ちょっとでも笑ってくれたら嬉しいです。

取材・文=中村未来(清談社)
撮影=大貫未来(清談社)