妻夫木 聡「『パラダイス・ネクスト』は監督と何度も再考を重ねて作った映画。こうして完成して、取材を受けることがでできて、本当に幸せな気持ちです(笑)」
公開日:2019/7/6
毎月3人の旬な有名人ゲストがこだわりのある一冊を選んで紹介する、ダ・ヴィンチ本誌の巻頭人気連載『あの人と本の話』。今回登場してくれたのは、映画『パラダイス・ネクスト』の公開を控える妻夫木 聡さん。豊川悦司さんとW主演を務めた映画のこと、そして愛読書『火の鳥』についてお話をうかがいました。
妻夫木さんと手塚作品の最初の出会いをうかがうと、「う〜ん、覚えてないなぁ」との答えが。記憶が曖昧なのは、気づいたら手に取っていて、その後何度も繰り返し読んできたからだ。
「手塚さんのマンガだと、親も許してくれるみたいなところがありましたよね(笑)。確か、作品によっては学校の図書館にもあったんじゃないかな? “大人公認のマンガ”というイメージなんですよね。どの作品にも考えさせられる要素があり、だからといって説教臭いわけでもなくて。特に『火の鳥』はそうした手塚さんの作風の礎になった作品なんじゃないかなと思います」
不老不死の力を持つといわれる“火の鳥”。黎明編は日本の神話をモチーフにした、永遠の命を手に入れようとする者たちの物語だ。
「登場人物たちは、不老不死になればすべての欲求が満たされると思っている。でも、そうじゃないということが描かれていてハッとさせられました。限られた時間の中で一瞬でも輝いて、自分が生きてきたという証拠を残すほうが素晴らしいし、誇れるんじゃないかって思えて。でも、マンガの中では結局、誰も彼もが火の鳥を探し求める。そこに人間の浅はかさと儚さを見たように感じました」
また、手塚作品を読んで驚いたことがもうひとつ。
「結構、重要な人物があっさりと死んでいくんですよね。主人公だと思って読んでいたら、“え、今このタイミングで死ぬの!?”って驚かされたり(笑)。でも、ただ消えていなくなるのではなく、その人物の想いや行動がのちの登場人物たちに少しずつ影響を与えていたりする。そうした“つながり”によってこの世はできているんだろうなとも思わされました。それに、古い時代の話なのに急に電話が出てきたり、辻褄の合わないこともたくさんある。でも、そんなことどうでもいいと感じさせるだけの面白さやパワーが手塚さんの作品にはある。そこも魅力ですよね」
妻夫木さんが主演を務めた映画『パラダイス・ネクスト』。監督は、音楽家としても活動する半野喜弘。彼もまた「常識やセオリーにとらわれない監督でした」と話す。
「発想がすごく自由なんです。長回しで撮る時もあれば、淡々とカット割していくこともあって。映画はこう撮らなければいけない、というルールがないんだと思います。その一方で、当然こだわりも強くて。監督の前作(『雨にゆれる女』)もそうでしたけど、雨のシーンがやたら多かったりする(笑)。あとは夜明けだとか、何かを燃やすとか……半野さんはそうした叙情的な雰囲気が好きなんでしょうね。確かに映像として映えるし、僕も大好きです。特に今回のロケ地となった台湾は雨に濡れた町並みがすごく色っぽいですから。ただ、役者としては大抵、深夜の撮影になるからほんと大変でした(笑)」
実はこの作品、企画の立ち上げから完成まで約3年を要している。その期間、妻夫木さん自身も作品作りに積極的に参加していたそうだ。
「ある日監督から連絡がきたのが最初でした。そこから何度か一緒に食事をするようになり、この映画の企画が動いていったんです。その頃からずいぶんと内容も変わりましたね(笑)。僕からアイデアを出すこともあれば、何度も再考を重ねた結果、初期の形に戻ったりもして。ですから、“シナリオに惚れて出演を決めました!”というのではなく、むしろ一緒に作っていった印象があります。その意味でも、こうして映画が完成して、取材を受けていることが本当に幸せで(笑)。それぐらい妥協せず、いいものを作りたいという思いのもと出来上がった作品ですので、ぜひ多くの方に見ていただきたいです」
(取材・文:倉田モトキ 写真:干川 修)
映画『パラダイス・ネクスト』
監督・脚本・音楽:半野喜弘 出演:妻夫木 聡、豊川悦司ほか 音楽:坂本龍一 配給:ハーク 7月27日(土)より新宿武蔵野館ほか全国順次ロードショー!
●不審な死を遂げた台湾籍の女性。彼女のボディガードをしていた島は事件後、日本から姿を消した。その島の前に現れた見知らぬ男・牧野。事件の真相を知っていると話す牧野を訝しみながらも、命を狙われている彼を守るようにふたりは逃避行の旅に出る。
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