いくさの風を感じる、いま一押しの戦国マンガを紹介!『前田慶次 かぶき旅』浪川大輔インタビュー

マンガ・アニメ

2019/8/6

 2013年、アニメ『義風堂々!! 兼続と慶次』で直江兼続役を演じた、声優の浪川大輔さん。生粋の戦国マンガファンだと話す浪川さんが、いま夢中になっている作品が『前田慶次 かぶき旅』だ。本作に登場する前田慶次とはどういう人物なのか。そして、彼のどこに魅力があるのか。熱い想いをぶつけてもらった。

浪川大輔さん

浪川大輔
なみかわ・だいすけ●東京都出身。子役時代から声優としても活躍し、アニメから洋画の吹き替えまで、さまざまな役柄を演じてきた。代表作に「スター・ウォーズ」シリーズのアナキン・スカイウォーカー、「ルパン三世」シリーズの石川五ェ門など。

 

 いまではない、いつか。だけど、確実に存在しており、現代の礎となった時代――。それが戦国時代だ。そんな刀と刀がぶつかり合う戦乱の時代を舞台にしたマンガが、いま、ブームとなっている。

2013年にアニメ『義風堂々!! 兼続と慶次』で直江兼続役を演じた声優・浪川大輔さんも、生粋の戦国マンガファンだという。

「戦国マンガは、とにかくカッコいい。勝つか負けるかがすべての時代において、登場するキャラクターたちの言葉や生き様が胸に響きますし、その駆け引きも含めて人生に通ずるものがあると思うんです。現代って、SNSが発達したことによって人間関係が希薄になってきているなんて言われていますけど、みんな本質的には“人と人とのナマのつながり”を求めているんじゃないかなって。ライブや舞台がいまだに人気なのも、結局、“ナマのライブ感”を欲しているからだと思います。だからこそ、人と人が正面切ってぶつかり合う戦国マンガというものに惹かれるんでしょうし、あの時代に対する憧れみたいなものもあるのかもしれないですね」

 こう語る浪川さんが、いま熱くなっているのが『前田慶次 かぶき旅』だ。本作は当代随一のかぶき者として知られる前田慶次の生き様を描いたマンガだ。

「この作品は前田慶次をはじめとするキャラクターたちに勢いがあって、紙に描かれた絵なんですけど、まるで立体的に浮き上がってくるようなパワーを感じます。絵に命が吹き込まれていて、みんな生き生きと動いているんです」

 浪川さんがなによりも惚れ込んだのは、前田慶次の人となりだ。

『前田慶次 かぶき旅』コマ
こんな誘われ方したら、どんなに重い槍でも持ちたくなる!
権一が少しうらやましい
(c)原哲夫・堀江信彦・出口真人 / NSP 2019

「慶次は、まさに“男が惚れる男”だと思います。いつも堂々としていますし、粋ですよね。どんなことだって受けて立つ、という気概がありますし、それは現代にも通ずる部分なのかな、と。セリフもいちいちオシャレなんです。最初に家来になった権一にも、『お前なら槍ぐらいは持てそうじゃ』と言って付いてくることを許可する。ぼくだったらストレートに『付いてこいよ』って言ってしまうと思うんですけど、慶次は一瞬相手に考えさせるんです。それに、現代では忘れ去られてしまったような男のカッコよさを感じさせてくれるところも魅力的。一時期、“歴女”がブームになりましたけど、彼女たちって武将に対して『守ってもらいたい』『引っ張ってもらえそう』という男のカッコよさを感じてハマっていた部分もあると思うんです。もちろん、時代が変わって、いまではさまざまな価値観が生まれました。性別を感じさせない、ジェンダーレスな男の子たちも素敵だと思います。ただ、慶次のような器の大きい男っていうのは、いつの時代も羨望の対象になるのかなと思いますね」

 なかでも前田慶次が放つセリフの重みには感銘を受けた。

「1巻のラストで、『ここにはいまだ いくさの風が吹いておる』というセリフが登場します。穏やかな風が吹いているにもかかわらず、いくさのニオイを感じ取って、しかもそこに挑戦しようとするんです。普通だったら、穏やかな場所で安住することを選択するでしょうし、その方が楽なのに、慶次は絶対に歩みを止めない。自分を生かせる場所を見つけては、チャレンジを続けるんです。そんなふうに、この作品では慶次の一言一言がズシッと重くて、ただならぬ雰囲気を感じさせます。『厠じゃ』という一言にも重みがあって、それは慶次がとても大きなものを背負っているからなんでしょうね」

『前田慶次 かぶき旅』コマ
取材中、浪川さんが何度も口にした
「この作品には風が吹いている」を表すカット
(c)原哲夫・堀江信彦・出口真人 / NSP 2019

 セリフに重みを感じさせる。これは声優である浪川さん自身が、長年向き合ってきた課題でもあったそう。

「ベテラン声優さんが演じているのを聞いていると、なんの小細工もしていないのに、ズッシリくることがあるんです。それは年齢やキャリアを重ねてきたからこそ生み出せるもので、ぼくも“一言の重み”というものを考えながら演じるようになりました。若い頃は、とにかく熱く叫んで、情熱を持って突き進むような役が多かったんですけど、年齢を重ねると、それだけでは通じないことも多くて。とはいえ、もちろん、そういう熱い部分も大事。その点、慶次はどちらも持っているのかなって」

 そして、生き残りをかけた戦いが繰り広げられる戦国マンガには、声優人生での共通項も見出している。

「声優という仕事には100%の正解がなくて、だから面白いんですけど、日々戦いなんです。命を奪われることこそありませんが、みんな、生き残るために必死でオーディションに挑戦している。それこそ、誰でもいいと思われるような仕事をしていてはダメで、浪川大輔じゃないとって思ってもらわないといけない。そのためにも、慶次のように、『これが俺だ!』って傾くことはありますね。でも、慶次を見ていると、『自分は姑息な手段で生きてきたのかな、まだまだなのかな』って思わされちゃいます(笑)」

『義風堂々!! 兼続と慶次』をはじめ、過去にはさまざまな戦国モノに出演してきた浪川さん。それも相まって、「ずっと戦国モノが好きだった」と話すが、前田慶次以外で好きな武将は?

「子どもの頃から好きだったのは、真田幸村です。圧倒的な力に立ち向かっていくような存在に惹かれてしまうんですよ。あとは、演じたことがあるから言うわけじゃないですけど、やはり直江兼続は好きです。彼は“義”に生きる人だったので、演じながらも、自分自身が戒められるような気がしました。とても学ぶ部分が多い武将だったと思います。振り返ってみると、あのとき、兼続の目線で見ていた慶次と、今回の『前田慶次 かぶき旅』で見る慶次とでは、少し印象が違いますね。今回の作品を一言で言うならば、とても濃い! 慶次だけにスポットが当てられていることもあって、慶次のエッセンスが凝縮されていると思います」

 本作を読んで、あらためて目指すべき生き方が見えてきたという。

「目指しているのは、自分の後ろに道ができるような生き方です。慶次みたいに堂々と進んで、それに付いてきてくれる人がいたらうれしい。でも、ぜんぜんできない。ナビにばっかり頼っていると思います(笑)。そして、やはり“男が惚れる男”にはなりたいですよね。その状況に応じて、自分のスタンスを変えることなく、肝が据わっていて覚悟があるのかどうか。チャラチャラしているように見えても、最後には頼りになる。それがまさに“傾く”ということなんでしょうけど、そこで男が惚れるかどうかは決まってくるんだと思います。どうすればそうなれるんだろう……。それを知るためにも、この作品を追いかけたいですね」

浪川大輔さん

取材・文:五十嵐 大