今の40代は「若者兼高齢者」。今すぐ始めるべき老後対策がある!【『未来の地図帳』河合雅司氏インタビュー】

ビジネス

公開日:2019/8/22

■安心して年を取るヒントは、仲間で助け合う「共助」にある

河合:以前フランス人がこんな皮肉っぽいことを言うのを聞いたことがあります。「世界的に見れば今はまだ人口増が続いており、医療技術の進歩で長寿化が進んでいる。人口が増え続けて食糧難になるかもしれないところ、日本は国家自らが進んで人口を減らしている! 人類が食糧問題に苦しむかもしれない時代に先駆けて、いち早く人口を減らすことで解決に乗り出した!」…という内容で。

――まるでブラックジョークのようですね…。

河合:ともあれ、ジョークとして扱われたとしても、たしかに日本は「課題先進国」であるわけです。先日も「年金2000万円問題」が大きな話題になりました。その金額に根拠があるかどうかは別にして、この問題の本質は、「日本の今までの仕組みが通用しなくなった」ことにあると思います。若い世代が減るということは、公助(公的なサポート)は難しくなるでしょう。税金や社会保障による安心や豊かさのサポートはもはや継続が難しい。ある程度、「自助・自立」を確立しなければならないということが浮き彫りになりました。

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――これから老後を迎える私たちに全員にとても嫌な現実を突きつけましたね。

河合:私が問題だと思ったのは、老後資金2000万円問題において、公助か自助かという極端な二元論で意見を述べる人があまりにも多いことです。そのふたつの間には「共助」という道もあります。個人がお互いに助け合うという重要な選択肢を見失ってはいけません。

――これからの時代の老後は、国の補助や自力だけをあてにして生きることだけじゃなく、お互いに助け合う道を探るべき、ということですか?

河合:もちろん社会保障などの公助は必要不可欠です。けれども、現在ですら、労働人口が減少したことでそのシステムは崩壊しそうになっています。したがって、自分のことはある程度自分でやろうという自助の意識も大事でしょう。ですが、誰もがいつも必ず頑張れるわけじゃない。ならば、個人がお互いに助け合うことの重要性を改めて見つめ直すべきでしょう。

――昔は地域にあったような「助け合う」という精神を持つことが、これからまた重要になってくるということでしょうか。

河合:他人同士で助け合うことは難しいことでもあります。本書の第3章で詳しく紹介しているように、まずは自分の周りに小さなコミュニティを築いて、知り合いをたくさん作りましょう。助け合う輪や、仲間を作るのです。それを本書では「王国」と呼んでいます。ある地域に人口を集中させて効率的に助け合うコンパクトシティではなく、共助の精神によって日本の困難を乗り切るための「コミュニティ」です。

――具体的には、どうやって「コミュニティ」を作ればいいでしょうか?

河合:お隣さんに声をかけることから始めてもいいし、地域のお祭りに参加、あるいは携わるといったことでもいいでしょう。必ずしもリアル世界だけに限らず、SNSのようなネット上のバーチャルな世界を通じて気の合う仲間を見つけるのもいいですね。コミュニティを作るといっても、そんなに肩ひじ張る必要はなくて、趣味の仲間や同好の士でグループを組んでもいいわけです。きっかけ本当になんでもいい。ただ、いきなり他人同士で「助け合いましょう」というのは難しいですよね。これが若者兼高齢者である40代に今求められていることであり、1つの有効な道筋だと考えています。どんなコミュニティでもいいので、ひとりで生きようとするのではなく、共助の輪を作ることがポイントです。

――なるほど、少子高齢化社会を生き抜くヒントは意外に身近なところにあるように感じます。

河合:ひとり世帯が増えるといっても、高齢期に全部ひとりで生きていこうとするのは本当に大変です。介護サービスだけでなく、コンビニや病院といった、生活に必要なサービスを行う人もすべて減少していくことが、人口減少社会の本質的な恐ろしさです。こう進むとたとえいくら貯金しても足りない。そもそも足りないのはお金じゃなくて、人ですね。したがって、「老後いくら必要か」という議論はナンセンスなのです。サービスや産業に関わる人材が減るなかで、お互いに助け合う共助が一番現実的な解決策のはずです。誰かに助けられ、自分も誰かを助ける側に回る。自然に助け合える仲間を40代のうちから作るべきです。資産運用の必要性が叫ばれていますが、「誰かとのつながり」もその人にとって大きな財産になりますよ。

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 日本の未来はとてもネガティブなものになる…そんな予測がある一方で、個人の幸せを得るための一筋の光も見えている。『未来の地図帳 人口減少日本で各地に起きること(講談社現代新書)』(講談社)にはそのヒントが凝縮されている。

 誰もが迎える「老後」が幸せなものになるかどうか、あるいは「未来の書き換え」は可能なのかどうか…それは、私たち一人ひとりの“意識の刷新”にかかっているようだ。

取材・文=いのうえゆきひろ