生まれつき生理も排卵もない女性が母に。――血のつながりは関係ない? 徳瑠里香さんが取材した多彩な家族のかたち

恋愛・結婚

2019/8/29

 16歳の時、生まれつき生理と排卵がない「原発性無月経」と診断された編集者でライターの徳 瑠里香さん。原因となる具体的な疾患はわからないまま、それからずっと「自分の子どもは産めないかもしれない」という思いを抱えていた。生理を起こす治療を続けながら結婚し、29歳になる頃、奇跡的に妊娠。そんな自身の事情と妊娠についてハフポスト日本版へブログを投稿したところ、友人知人や、知らない人からも大きな反響があり、たくさんのメッセージが届いた。さまざまな女性たちの抱える事情を知り、彼女たちの人生に興味を持った徳さんは、人の数だけある彩り豊かな人生と家族のかたちについて取材を開始。出産をはさみ、2年をかけて完成した、徳さんにとって初の書籍となる『それでも、母になる――生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(ポプラ社)について、お話を伺った。

『それでも、母になる――生理のない私に子どもができて考えた家族のこと』(徳瑠里香/ポプラ社)

●妊娠5カ月。勢いで書いたブログがすべての始まり

――この本が生まれたきっかけはブログだったんですね。

徳 瑠里香(以下、徳) 妊娠して安定期に入った頃、私と同じ「生理が来ない」ことについて書かれた記事を読んで、こういうことをオープンに話すのも大事なことだと思って衝動的に私もブログを書いたんです。私自身も子どもができたことは奇跡だなあと思っていたのですが、その時、同じような身体の事情のある人がいることを初めて認識して。身体のことも妊娠したことも、すごくプライベートなことだから、ためらいもあったし、誰かを傷つけてしまうことはないか……不安もあったんですが、勢いで書いてみた、というのが始まりです。

――そうしたらすごい反響が。

 知っている人からも知らない人からもたくさんメッセージが届いて、みんなが自分のことを語ってくれたんです。自分の事情をオープンにしたことで、身近にいろいろな家族の物語があることがわかって、見える世界が少し変わりました。

 私と同じような状況で、生理がないから女性性を否定してしまっていて、子どもや家族を作ることはできないと思っていたけれど、ブログを読んで、自分にも家族が作れるのかもしれないと初めて思った、とメッセージをくださった方もいて、心に残りました。

 それで、打ち明けてくれた人たちの家族の事情をもっと聞きたいなと思ったんです。妊娠5カ月で、これから親になるところだったので、家族ってなんだろう、どうやってお母さんになっていくんだろう、という純粋な問いもありました。

 それから、私はそれまで「産めない」と思っていたので、特別養子縁組や里親を真剣に考えていたわけですが、「産む」ことになって、その選択肢が全くなくなるかといえば、そうではないと思ったんです。「産む」「産まない」に限らず、自分とは違う境遇にある人たちの家族のかたちを知りたいと思いました。最初にそれを感じたのは、この本でも紹介している、中学からの友人の美菜子の存在でした。私が産婦人科で「子どもは産めないかもしれない」と言われた16歳の時、美菜子が妊娠したんです。

●ともに16歳。「産めないかもしれない」私と、妊娠した友人

――親しい友人同士が正反対の立場になったんですね。

 美菜子が妊娠した時は、自分とは違う世界へ行ってしまう気がして寂しかったんですが、私たちの関係は途切れることはありませんでした。目の前の子どもと向き合う美菜子の姿を通して、お母さんになる変化や子育ての喜びや大変さを垣間見て、彼女を本当に尊敬しました。お母さんと高校生。たとえ違う立場や境遇にあっても、お互いを認め合って隣にいることができると。

 だから、タイトルには「母になる」を掲げていますが、母になる選択をした人以外も登場しますし、産む・産まないだけではなくて、里親や特別養子縁組、性転換など、いろいろな選択をして家族を築いている人たちに話を聞きたいな、と思っていました。

――ご自身が「産めない」「産める」という両方の立場を経験したからこその思いですね。

 産まない人も産む人も、そのカテゴライズの下にそれぞれの物語があって、この本では、その大きなカテゴライズの中にある小さな、本当にささやかな一人一人の物語を伝えたいという思いがありました。有名な人やなにか新しい特別な選択をした人ではなくて、私の身近にいる人たちにも、じっくり話を聞くと、そこには無数のかけがえのない物語がありました。

――びっくりする展開もありますよね。若くして出産した美菜子さんのことを、力を合わせて支えていたご両親が離婚してしまうとか。事実は小説より奇なりというか。

 生きていると予想外の展開にも遭遇しますよね。美菜子の実家とは、私も中学の頃から付き合いがあって。しっかりしたお父さんに気さくなお母さんで、絵に描いたような理想的な家族に見えました。でも子どもである美菜子が家を出たことで、それまで保たれていた家族のかたちが崩れてしまったんですよね。家族のかたちは変わっていくもので、壊れてしまうこともある。だからこそ、意識して関係を築いていかなくてはいけないんだなと思いました。

 でも美菜子が自立をしたから、お父さんとお母さんが自分の道を選べたということでもあるんですよね。この本では一筋縄ではいかないことや複雑なことも、できるだけ書くようにしています。

――どの人の人生にも、徳さんは寄り添って書かれていますよね。

 一つの物差しで測ることはできない、その人たちそれぞれの家族のかたちや幸せのかたちがあるんですよね。そういう部分を書けたらいいなと。

 正しさとか、普通とか、私もそうですが、思い込んでいる部分もあるから、こうすべきだとか、これはいけないことだと決めつけて書きたくなかったんです。自分の正しさを人に押し付けることは、他の誰かを否定することにもなりかねない。あくまで私は、この人は、今、こういう生き方です、と「私」や「彼女」たちを主語にして書いています。

 私自身もいろいろな話を聞くことで多様な考え方を知って、全員に共感できなくても、それでいいと思っているんです。私が書いているので私の視線は入っているんですけれど、みんな違う人生だから、ニュートラルな気持ちで聞く、できるだけフラットに書くというのは意識していました。

●家族の物語だから、男性にも読んでほしい

――徳さん・夫・娘さんを含めて、個性も環境も違う計12人のバラエティに富んだ家族の物語が紹介されます。

 家族の問題をどうするのか決めるのは本人たちですが、多彩な家族のかたちを知ることも大事だと思います。この本では主に女性の人生を紹介していますが、それぞれのパートナーをはじめ男性も登場しています。家族の物語だから、ぜひ男性にも読んでほしい。

――取材する方は、どんなふうに決まったのでしょうか。

 特別に探してはいなくて、私の身近にいた方ですね。中学・高校からの友人や知人、仕事を通じてご縁があった方など、みんな、私が改めてこの人に会いたい、じっくり話を聞いてみたい、と思った方たちです。彼女たちに話を聞かせてもらって、心を動かされたことが書く力になりました。

●多彩な家族のかたちを知ることで、自分を肯定できた

――物語の中には、女性の身体で産まれたけれど、性別適合手術を受けて戸籍上の性別も男性になり、シングルマザーの女性と結婚したトランスジェンダーのナリさんの物語もあります。当初否定的だった彼女の家族も、彼を「大事な家族の一員」と受け入れています。多様な家族の幸せのかたちがあるということは、最近社会でも少しずつ受容されつつありますね。

 インターネットを通じた個人の発信などによって、さまざまな家族のかたちが垣間見えるようになってきて、少しずつ視点が変わってきているのかなと思います。ちょうど過渡期なのかもしれませんね。いろいろな選択肢があることを知って、その上で自分はこうだ、と選んでいけるといいですよね。私自身も、育った家庭と今の家庭は状況が違うので、比べないようにして、自分たちの家族のかたちを模索しながら、日々を大切に積み重ねています。

 いろいろな人の物語を書いた一冊の中を通じて、自分とは違う境遇の人たちに心を寄せて、共感できなくてもいいし、わかる必要はないんだけれど、こういう人もいるんだ、でも自分はこうだな、こうしたいな、と思いを巡らせてもらえたらうれしいです。多彩な家族のかたちを知ることが、私自身も自分を肯定できるきっかけになったので。

●血がつながっていなくても、幸せな関係は作れる

――実家、パートナー、子ども……それが誰であっても、まわりに安心できる場所があってこそ、いろいろなことが受け入れられる、ということも繰り返し書かれています。

 弱い自分をほんの少し強くしてくれるのは、両親やパートナーなど、私の存在を受け止めてくれる人がいるからだと思っています。血や法律のつながりに関わらず、信頼できる人が一人いるだけで、希望になる。両親や夫、いざという時に頼れる人や帰れる場所があることは、私を支えてくれています。そして今、親になって、娘にとってそういう存在になれたらいいなと思っています。

――「家族に必要なのは血の繋がりではなくて、ともに過ごす日々や、相手を思う気持ち」というメッセージも印象に残りました。

 もともと里親や特別養子縁組を考えていたということもあって、「血のつながりのない子の親になるってどういうことだろう?」という問いを持って、そうした家族に会いに行って話を聞いていました。今回改めていろいろな家族の話を聞き、私自身も親になって、実感を込めてその結論に至りました。

 血がつながった親子でも、パートナーでも、相手をおろそかにすれば関係は崩れてしまいますが、血がつながっていなくても、相手を思いやって日々を積み重ねれば、幸せな関係を作っていけます。

 家族は普遍のテーマですし、特に女性は出産のことなど、人生の選択や家族について考える時期もあると思います。そういう時、自分だけを見つめ過ぎずに、少し外に目を向けてもらえたら。私自身も、いろいろな家族のかたちがあるんだなと知ることで、ちょっと視野が広がって、心が軽くなったり、視点が変わったりすることがあったので。家族について考えるタイミングがある人はぜひ、女性はもちろん、男性をはじめさまざま年代、性別の方に、この本を読んでもらえたらうれしく思います。

取材・文=波多野公美 撮影=内海裕之