バンド史上最高峰の名曲“僕を見つけて”はどう生まれたのか――fhánaインタビュー

アニメ

公開日:2019/8/30

 2018年1月にリリースされた『わたしのための物語 ~My Uncompleted Story~』以来、実におよそ1年半ぶりのシングルとなるfhánaの『僕を見つけて』(発売中)は、端的に名盤である。本作に収録された3つの新曲では、リーダー・佐藤純一を中心に、4人のメンバーそれぞれのクリエイティブが披露されており、バンドとしての前進を感じさせる。デビュー5周年の節目である2018年に、fhánaは3rdアルバム『World Atlas』と、ベストアルバム『STORIES』を発表した。もともと、さまざまなアニメの物語と向き合い、彼らにしか生み出せない音楽性をもって聴き手に驚きを与えてきたfhánaだが、今回のシングル、特に表題曲の“僕を見つけて”には、堂々とした風格さえ漂っている。fhánaをこの地点まで導いたものは何であるのか、メンバー全員に話を聞いてみた。

(“僕を見つけて”は)fhánaとしてどういうものを出すべきか」をすごく考えながら作った(佐藤)

――“僕を見つけて”、これは名盤ですね。

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佐藤純一:ありがとうございます。手応えは、ありますね。

kevin mitsunaga:表題曲の“僕を見つけて”は、佐藤さんが作った90秒のデモをもらったときに、けっこうびっくりして。佐藤さんって、僕の中では、めちゃくちゃいい角度で超いいカーブやスライダーを投げてくる人だと思っているんですけど、今回はす~げえいいストレートがきたんですよ。だから、めっちゃいいなって思ったし、前回のシングルからちょっと間が空いたタイミングだったこともあって、グッときました。

yuxuki waga:曲がいいから、レコーディングにも熱が入るんですよね。そういう力を持ってる曲で、曲自体の持ってるよさがふ~っと入ってくる感じが、すごく気持ちいいですね。佐藤さんのルーツも感じられるし、メロディもすごくいいし、曲が持つ熱量も高いので、「もう完璧じゃん」みたいな感じで、気合いが入りましたね。

佐藤:そういえば、andropの前田(恭介)くんが今回の新曲について、ライブで演奏してもらったときに「新曲いいね。fhánaの曲は全部好きだけど、今回一番いいかも」みたいな――一今までと違って、これはすごく大きい曲だ、というようなことを言ってくれていましたね。

yuxuki:たぶん、2年前の佐藤さんだったら“僕を見つけて”はもっと難しい曲になってたなって、俺は思うんですよ。

佐藤:ああ~。ここまでシンプルな曲は作れなかったかもね。

yuxuki:なんかこう、また新たなフィールドに行った感は若干あるかな。

佐藤:ビートルズ後期の、フィル・スペクターがアレンジしていてストリングスやオーケストラが入ってくる、そこにちょっとインドっぽい音階も入ってくるような、渾沌とした感じのものがやりたくて。シンプルさの部分で言うと、1年半ぶりのシングルで、「fhánaとしてどういうものを出すべきか」をすごく考えながら作りました。

“星屑のインターリュード”のようにテンポが速くてノリのいい曲がいいんじゃないかっていう話もあったんですけど、それよりもfhánaはドンと構えた曲を作れる段階には来ているんじゃないかと、まず思って。要は、シンプルで、洗練されていて美しい、王道の曲です。これを新人がやっても説得力がないし、でも今のfhánaにはそれをやるだけの説得力があるし、演奏したり歌ったりするだけのスキルもそのレベルに達していると思ったんですよね。だからこそ、最初からシンプルな曲にしよう、と思っていました。昨今のアニメソングって、89秒の中にいろんな展開を入れた高密度な曲が多いじゃないですか。fhánaのシングルもそういう曲が多いんですけど、それとは真逆の方向で、シンプルな構成で堂々と「これ、いい曲でしょ」って出せるカッコよさは目指しました。

――確かに、印象として「堂々としている」はかなり強く感じますね。

佐藤:そうですね、堂々とした曲が作りたかったです。実際、1コーラスのメロディを考えたときに、「うわっ、きた!」みたいな感覚、「いいメロディ書けたぞ」みたいな感覚がありましたね。歌詞に関しては、『ナカノヒトゲノム【実況中】』という作品のエンディング・テーマなので、そこからインスピレーションを得て“僕を見つけて”っていうタイトルをつけたんですけど、この作品の主人公はゲーム実況者の人たちなんですね。で、ゲーム実況者やネットで活動している人たちって、「他の誰かに自分のことを見つけてほしいんじゃないか」って思ったんです。承認欲求みたいな気持ちですね。それは、ゲーム実況者だけじゃなく誰しも普遍的に思っている欲求なんじゃないか、だから“僕を見つけて”っていうタイトルで行こう、と。ちなみに《孤独だった野良猫のように》って歌詞で始まるんですけど、なぜ犬じゃなくて猫なのか。インターネットで活動している人たちって従順な犬じゃないよなあ、自由気ままな猫だよな、と思って。

 それと、この曲の制作期間中に、僕が18年間飼っていた猫が亡くなったんですね。大人になってからの18年間って相当濃厚なので、喪失感がすごく大きくて。その喪失感を抱えた状態で、残りのフルサイズの制作をすることになったんです。なので、おのずとレクイエムになっていったところもあって。『エヴァ』の“甘き死よ、来たれ”もイメージしていて、曲自体も死を意識しているような感じもある。今回の曲の制作過程には猫のことだったり、いろいろと外の仕事をして感じたことも反映されていて、本質のようなものにちょっと触ることができた感じがしてるんですね。「本当のこと」に少し触れられた気がしていて。わりとその感覚は今までにないことで、毎回それができるかはわからないですけど、そういう本質的なものを目指していかないといけないなって思いました。

――“僕を見つけて”は、fhána史上最も普遍的な楽曲になったと思います。曲がどストレートにグッドメロディであることもそうなんだけど、何かと出会って、別れたり失ったりすることって、誰にでも起こり得ることじゃないですか。誰かの特別なことではなく、誰しもが「わかる」ことである。パーソナルな側面もあるけれども、パーソナルに重なるのはなんでなのかというと、普遍的だからで。

佐藤:うん。だから人間って、そういうものが色濃く作品に宿ると、みんなが自分と重ね合わせることができるようになる、みたいな感じですかね。小手先ではなくて。

――そうですね。最初からパーソナルな体験をぶち込んでやろう、という出発はしてないわけで。

佐藤:そう。もう、そうなっちゃったっていう感じです。最近、表現とは人間そのものだな、と思うんですよね。人の心を動かす作品って、作者や中心人物の想念みたいなものが、もうどうしようもなくその人はそうでしかあり得ない、という感じが出ているんですよね。それが伝わってくるものは強いなって思います。この曲に至る必然性は、個人的な経験談だけではなく、外の仕事で作ってきたものも含めて、これが生まれたところは絶対的にあります。僕が提供したGothic×Luckの“きみは帰る場所”(TVアニメ『けものフレンズ2』のエンディング主題歌)っていう曲にも「何万年経って化石になってもまた会えるんだ」っていうフレーズがあって。“再会”についてと、“誰しもに帰りたい場所がある”っていうメッセージの歌なんですよ。そのイメージも実はつながっていて、突然ポッと出てきたものじゃないんですね。

towana:わたしは最初に曲を聴いたとき、「重いな」って思っちゃったんです。曲調自体がバラードで、詞の内容も別れを歌っていて。それもあって、この曲の大きさを表現することにすごくエネルギーを使いました。

――曲のテーマを自分の中に取り入れるために意識したこととは?

towana:もちろん、わたしも佐藤さんの猫ちゃんのことを知ってるし、歌詞も自分にもわかる経験だったので、歌ってみたら自然に力がこもった感じがしました。そういうことを歌う体験が初めてだったので、その分気持ちというか、心が入った歌になったと思います。

昔の言葉は、わたしの中ではすごくきれいなんです。それが、歌詞の礎になってるのかもしれない(towana)

――アーティスト盤カップリングの“真っ白”には、作曲者のyuxuki wagaのパーソナリティがガッツリ出てる感じがするんですけども。

yuxuki:ほんとですか。これはほんとに、1番が一瞬でできました。歌詞は、「僕を見つけて」っていうワードから、ちょっと別の視点に持っていって。逆にこの曲は、ティーンエイジャー感があると思ったんですね。10代の、まだ何者でもない人たちのモラトリアムな気分、「なんかしたい」「俺は何かなんだ!」みたいな感じで、「俺を見つけてくれ」という気持ちと、でも実際にはまだ何もしてない状態のもどかしさ、何かしようと思ってもできない感じを曲にしたら面白いな、と思って。林英樹さんの歌詞には最後の1行でちょっと光が差して次につながる、みたいな作り方が多かったりするんですけど、「今回はそれをやらないでくれ」って言って(笑)。まだもどかしくて悩んでいるまんまなんだけど、ギリギリ飽和している感情をピュアに発信してほしいな、と思ってました。

――確かに、何も成し遂げることなく歌詞が終わっている。

yuxuki:そうそう。でも、もしかしたらこの先何かがあるかもしれない、みたいな曲です。

kevin:めちゃめちゃエバーグリーンですよね。

yuxuki:レコーディングもエバーグリーン感を録りたかったから、錚々たるメンバーに演奏してもらっているにもかかわらず、一回聴いて勢いで録ってくれ、みたいな感じでお願いしていて。焦燥感というか、いい意味でのガチャガチャ感を残したまま、それをパッケージングできてよかったです。

――そして、アニメ盤のカップリングである“Unplugged”が最高でした。fhánaのクリエイティブの幅が広がっていることを感じさせる曲だな、と思います。

佐藤:『World Atlas Tour 2018』のときに“今夜はブギー・バック”のカバーをやって、kevinがラップをやったときに、ほんとによかったんですよね、「これはkevin、ラッパーいけるな」と。

――佐藤さんが“僕を見つけて”に手応えがあって、wagaくんが“真っ白”に満足している、と。“Unplugged”についてはどうですか。

佐藤:この曲は、最初にkevinがAメロ部分のトラックを作って、そこから僕が作曲していったんです。歌詞については、ラップ部分をkevin、メロディ部分をtowanaが書いていて。

kevin:手応え、あります。完全にラップを自分の表現にできたっていうところにはまだ至ってないですけど、今までのfhánaにはなかったヨレヨレのビートをやりたいところからスタートして――こういうレイドバックビートを上手くfhánaに取り込んで、こうしてパッケージできたことには、手応えがありますね。

佐藤:タイトルの“Unplugged”については、僕らの世代だとアンプラグドライブ=アコースティックライブみたいな認識がありますけど、『ナカノヒトゲノム』にはインターネットの世界の人たちの承認欲求もテーマになっている思っていて。今の時代、インスタグラムとかTwitterとかで「いいね」を押されることで承認欲求を満たしがちなんじゃないか、と思っていたので、ネットやSNS、クラウドから離れてもうちょっとリアルな世界、匂いや温もりであるとか、身体で風を感じたりするような……アコースティックな幸せを見つめ直そうよっていうテーマで、“Unplugged”になってます。

 ビジュアル的な舞台設定としては、このシングルのジャケ写のような、東京の夕暮れ時を歌詞にしているんですね。僕の中では、この曲はアーバンな感じではあるけど、東京というよりもニューヨークのイメージがなんとなくあって。ベタなシティポップにはしたくなかったんです。そうではなくて、ちょっと違うテイストを入れたかったので、調整してR&Bだったりジャジーな雰囲気の曲になりましたね。あとは、この曲のtowanaのボーカルはとてもいいですよね。ラップもいいし、歌の部分もすごくいい。最後にR&Bっぽく畳みかけるところがありますけど、ライブでここの部分をロングトーンで歌って、う~んと伸ばしていったらお客さんが盛り上がってくれるかな、とか、そんな画をイメージしながら作っていました。この曲はtowanaが書いた歌詞がよくて。余計なものがなく研ぎ澄まされているし、やっぱりtowanaの人間性みたいなものが見えてくるんですよね。

――実際、佐藤さんがここまで絶賛する歌詞を書けるようになったのはなぜなのか?が気になりますね。前に聞いたのは、「メロディに合っていて、自分が歌ったらこうなる」というイメージからできていく、という話だったけど。

towana:そう。「こうやって歌ったら気持ちいいだろうな」っていう言葉を書く。それがバラバラにならずに、ちゃんとひとつのことを言っている、そこからハズれないように書く、みたいな感じです。でも、やっぱり自分が歌を歌っていることが一番大きいと思う。あと、もともときれいな言葉が好きです。小説でもなんでも、「この人の文体m苦手だな」って思ったら、読めないことがけっこうあって。人の書く文章ってけっこう癖があったり、言い回しとか語尾に読む側の好みがあると思うんですけど、自分は昔からきれいな言葉が好きなんじゃないかなって思います。

――たとえば?

towana:今は現代作家も読みますけど、昔は文豪の小説しか読んでなかった時期があって。日本語に限らず、言葉ってどんどん変わっていくじゃないですか。「マジ」とか「ヤバい」みたいな言葉が普通になってきて、それに最初は違和感がありました。昔の言葉は、わたしの中ではすごくきれいなんです。おしとやかというか。基本的にはそういうものが好きで、それが歌詞の礎になっているのかもしれない。

佐藤:きれいな言葉が好きでも、単にお手本のようなきれいな文章だけだったら、引っ掛かりもないわけじゃないですか。だけど、きれいな言葉でちゃんと胸に飛び込んでくるのは、そこに心のざわめきや人間性みたいなものが宿っているからだろうな、と思います。やっぱりアーティストって、「自分を出すのが恥ずかしいんですよね」とか言いながらも、出てしまっているものがある。一流の人たち、たとえばイチローとか、最近だとサッカーの久保建英くんとかスポーツ選手を見ていて、そういう「僕はこれです」ってい核みたいなものを感じるんです。だから僕たちも、音楽家としてそうやって生きていかないといけない。人の心を動かすコンテンツの中心には、必ずそういう熱い人たちがいるので、自分たちがそうなっていかないといけないと思います。

取材・文=清水大輔