メジャー3rdアルバム解禁。進化するブクガはどこへ向かうのか――Maison book girl、メンバー全員インタビュー

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公開日:2019/9/22

 9月22日に開催された「Amazon presents Maison book girl LIVE」で、12月18日発売のメジャー3rdアルバム『海と宇宙の子供たち(仮題)』と、2020年1月5日にLINE CUBE SHIBUYAでのワンマンライブ「Solitude HOTEL ∞F」を行うことを発表した4人組、Maison book girl(以下、ブクガ)。音楽家・サクライケンタが手掛ける楽曲はますます研ぎ澄まされてポップな色彩を増し、メンバー4人のパフォーマンスも、リリースやライブを重ねるごとに進化を果たしてきた。7月に発表したシングル『umbla』に収録された“闇色の朝”“シルエット”は特に象徴的で、これまで以上に「歌」を前面に打ち出した楽曲が、ブクガの新たな可能性を切り拓いた1枚だった。来たるべき3rdアルバムの制作を控え、Maison book girlは現在、どのようなモードであるのか。メンバー4人に話を聞いた。

自分たちの力をつけることだけ考えていられるという意味では、最高の状態だと思う(和田)

──今年は、シングル2枚のリリースに、ツアーも2回あって、12月にはメジャー3rdアルバムを出すことも発表されるわけですけど、最近の活動について話してもらえますか。

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コショージメグミ:最近はもっぱらリハです。人見記念講堂のライブとツアーに行って、ツアーが始まると同時くらいにボイトレと筋トレを始めて。その成果を見せる場がツアーで、今はツアーが終わってシングルが出たところです。

──単純に、2019年の活動を見ていると、かなり精力的に動いている印象があって。

コショージ:ツアーはめっちゃやってますね。

和田輪:確かに、ずっと稼働はしてるかもしれない。

コショージ:土日がツアーで、平日はボイトレと筋トレをして。筋トレしてから2日くらいはずっとお腹が痛いから、まあずっと忙しかったです。

井上唯:ずっと筋トレの話してない?(笑)。

コショージ:わたし、筋トレできないんですよ、超きつくて。! ほんとにお腹こわしてたから。でも、みんなケロッとしてるから。

──筋トレしてお腹こわす……?

コショージ:筋トレして、腹筋とかで筋肉が痛くなるじゃないですか。それは筋肉痛か。

矢川葵:ははは。

──ブクガが鍛錬している話、わりと意外かも。

和田:確かに。

井上:コソ勉派なんで(笑)。努力は見せないのがカッコいいんです!

──実際、筋トレって、やらないで済むならやりたくものじゃないですか。でも、やる。

コショージ:まあ、やりたくはないんですけど、4月に人見記念講堂でライブをやって、「ちょっと体力もたないな」って思って。2時間くらいぶっ通しでやるから、それをちゃんとできる体力が欲しいなあって思ってました。レッスンの場も用意していただいたので、それに応えたいですね。

──人見記念講堂のライブで、課題が見つかった、と。他に、そのライブで感じたことは?

和田:もうちょっと遡るんですけど、(2018年11月~12月の)「hiru」「yoru」「yume」のライブで、「hiru」公演に苦手意識を感じてしまって。「yoru」とか「yume」は演出をしてもらって、逆にパフォーマンスが見える状態で煽ったりするようなライブが苦手だなって気づきました。それから、ワンマンやツアーがあって、「鍛えられてるなあ」って思いながら過ごしてます。ツアーは、ライブハウスだからこその近さを大事にしたライブだったので。

矢川:今までは、ダンスレッスンとかも自分たちで正解がわからないままやってきて、ボイトレでも徐々に声が出しやすくなってることはわかってたんですけど、それはほんとに地道な作業で。ずっと、不安になりながらやり続けてきたけど、先生がふたりついたことで、精神的にも安定しました。自分の課題もどんどん見つけられるようになったし、改善方法を言ってもらえると、やっぱりモチベーションも上がるし。なので、次のツアーは前よりもできるかなっていう期待を持っています。

──できなかったことができるようになった感覚は、いろんな部分で感じられている?

矢川:感じます。今まですごく「きついな」と思って出してた音が、けっこう楽に出せるようになったりして。声を前に出す、後ろに出すみたいなことを教えてもらったことはあったんですけど、自分の中で「こういうことか」って理解しながらできています。

──なるほど。シンガーの発言ですな。

矢川:やった~(笑)。

井上:ずっと、自分でがむしゃらに頑張る、というやり方だったので、頭打ちじゃないけど、「何を頑張ればいいんだろう?」みたいな感じがずっと続いていて。ちょっとずつよくはなってるんだろうけど、自分的にはあまり、成長が感じられてなかったというか。でも、先生がついたことで、ライブ中も、考え方も余裕を持てるようになりましたね。何をすればいいか、が明確になった。

──昨年11月の「hiru」「yoruまで遡ったけど、苦手や頭打ちに感じていた部分を克服するために努力していたのが、最近の活動である、と。すごくいい状況じゃないですか。

和田:そうですね。レッスンの場とか、次のライブ、次のリリースをどんどん準備してくれるので、それを目標として、わたしたちは自分たちの力をつけることだけ考えていられるという意味では、最高の状態だと思います。

コショージ:わたしは逆に、その状況に焦ってるかもしれない。今、すごくいい状態なのはわかるけど、気持ち的には今までで一番焦ってるかもしれないです。

──いいサイクルに入ってるし、作品もライブもよいものができているけど、「埋まっていない何かがある」と。それは自分の実力なのか、まわりの状況なのか。何かが足りない、ということですよね。

井上:何が埋まってないかと言われたら、ツアーのライブハウスが埋まってない。

矢川:うまいっ!(笑)。

和田:それは本当にそうなんだよ(笑)。

コショージ:ブクガって基本、東京が拠点なので、地方にめちゃくちゃ弱くて。行ったことがないところにツアーで行くことが、なかなかできずにいたんですよね。で、今やっとやれたんですけど、なんか……焦ってますね。

和田:行ったことがない土地の人たちにどう呼びかけていいものか、わからなくて。もちろん、行った先でいいライブをして、そこで残していこうという気持ちは、大いにあるんですけど。

──まずは、足りていなかった実力をちゃんとつけて、いいライブをしていく。それがひとつの方向性としてありつつ、他にも必要なことがあるわけですね。

コショージ:そう。歌がうまくて、ダンスができて、それでもダメっていうことも全然あるわけじゃないですか。ライブハウスツアーで「何回も観たい」って思ってもらうことも大事、あとはなんだろう、みたいな。

井上:自信は、あるんです。で、ストイックにライブだけを見せるのもいいけど、ちょっとくだけた感じも入れたほうがいいかな、と思って、ツアーでは毎回MCを入れてたんですけど、客席が全然ついてこなくて(笑)。

矢川:みんな、ニコニコはしてくれてるよね(笑)。

──課題が見つかりまくっている昨今である、と。

井上:課題は見つかるけど、解決策を探してます。

コショージ:問題は出てくるばかり(笑)。

和田:ただ、先生がついたことで、技術面における問題が解消されたので、メンタルは健やかですね。悩みは尽きないですけど。

サクライさんの曲は信頼ができるということに、わたしたちもだんだん気づいてきた(井上)

──去年の11月にリリースした2ndアルバム『yume』は素晴らしい作品だったし、歌を届ける側にとっても自信につながるアルバムだったのでは、と思うんですけど、『yume』を出せたことは表現する側としても大きなポイントになってるんじゃないですか。

コショージ:いいアルバムですね。なんか、こう……ポップですか? 『yume』は。

──ポップでしょう、とても。

コショージ:今までって、ずっと薄暗いイメージのジャケットで来て、『yume』から赤が入ったんですけど、それまではイメージが同じだったんですよ。『yume』からちょっと変わったことで、1曲ずつにすごく意味がある気がしていて。ストーリー性があるというか、曲たちが個性的で。

──曲にはもともと個性はあったと思うけど、4人の歌によって、さらに個性を与えられるようになったんじゃないですかね。サクライさんも「出ると思ってなかった声も今のメンバーは出せるから、作る曲の幅が広がった」という話を当時していたけど、4人で表現できる幅が広がった実感もあるのでは?

和田:たぶん、サクライさんにも「こういう曲は歌えないだろう」って思われてたところがあるだろうし、わたしたち的にも「ブクガではこの表現はできないだろう」って思ってた部分を出してもOKだったりしたので、意思疎通というか、「そういう引き出しもあるね」って確認はできたかもしれないです。アルバムを作る時点では、「やってみたら出ちゃった」みたいな感じだったと思うんですけど。

井上:わたし的には、『yume』以前の青っぽい感じを「ああ、ブクガっぽい」って思ってたんですよ。でも、『yume』が出たら、ブクガに対してより理解が深まったというか。で、『yume』が新しいことに挑戦したものだとしたら、(最新シングルの)『umbla』は戻ってきたような――なんか、そんな気しません?

──そうだと思う。今の話って、『yume』以前と以降で、「ブクガとは何であるのか」という理解が全然違うのではないか、という話につながってくると思うんですよ。実際、「ブクガって何なの?」って言われると、ずっと言語化しづらかったわけで。

井上:そうなんです。

──サクライケンタという音楽家はすさまじい才能の持ち主で、彼が作る音楽はすごくポップになっていってる。『yume』はそれが強く出たアルバムだったけど、同時に、歌っている人の個性が『yume』からだんだん出てきていて。今はどのパートを誰が歌ってるかすぐにわかるけど、メジャーデビューの頃とかそれ以前も含めて、誰がどのパート歌ってるか全然わからなかったから。

井上:わたしもわからない(笑)。

和田:確かに。

──曲を体現する歌い手の個性が、サクライさんの音楽にしっかり乗っているのではないかな、と。で、それが最も体現されているのが最新シングルの『umbla』である、と思っていて。『yume』のときはうっかりシンクロしていたのかもしれないけど、今は確信を持って乗せられているんじゃないですか。

和田:以前は、サクライさんの曲を与えられて、サクライさんのディレクションを受けて、「この曲をどう作ろうとしているんだろう」って酌み取ろうとして、「わかんないよー!」ってなってる感じでした。最近は、この曲とメンバーでブクガであるという前提の上で、どうしようかなっていう悩み方に変わっているような気がします。

──もうひとつ『umbla』でいうと、1曲目の“闇色の朝”はまさにひと回り強くなった「らしさ」のあるブクガの曲、という感じがするんだけど、2曲目の“シルエット”にはかなり驚いたんですよ。サクライさんがこんなに歌を信頼して作った曲、今までなかったんじゃないかな、と思って。

コショージ:“シルエット”は2番目に録ったんですけど。仮歌をサクライさんの声で聴いていて、なんか……「ああっ!」ってなって(笑)。

井上:(笑)それだけ歌が聞こえるってことでしょ?

コショージ:あ、そういうこと!? 個人的には、声質をきれいに見せる感じなのかなあって思いながら、歌を録った気がします。

井上:たぶん、自分たちの実力もないときは、サクライさんの仮歌が棒読みで送られてきても、「じゃあ、こう」としか返せなかったけど、自分なりにアレンジをして歌うことができた曲ですね。

和田:歌詞も、《電信柱の影が、枯れた桜の木に重なる景色》とか、きれいで具体的な情景描写があるじゃないですか。曲調も歌詞も、今までは「ブクガの世界が広がった」っていう表現をしてたんですけど、自由になった感じがしました。

──サクライさんの歌詞に何を感じて歌うのか、たぶん最初はそんなに重要じゃなかったと思うんです。ちゃんと意味はあるんだけど、それを知り尽くして歌う必要がない、というか。でも、“シルエット”はそういうものではなくて。歌い手が歌詞から何かを感じて、感じたものを乗せて歌うことでいい曲になる。サクライさんは、そういう曲を作ってるんじゃないかな、と思いますけどね。

和田:確かに!

コショージ:歌詞に関しては、よく言われるように無機質で命がないものばっかり歌ってたけど、“シルエット”は、命が宿ってる感じがしますね。桜とか、生きてるし。

和田:桜、枯れてるけどね(笑)。

コショージ:(笑)《恋》とかもそうだし。

──そう、《柔らかな光の淡い恋》にはだいぶ驚かされて。ブクガの歌詞に《恋》って今まであったかな?と思ったんだけど。

矢川:ないです(笑)。

井上:そういう歌詞も、切ない感じで歌えるようになった、表現力がついてきたから、ぴったりな曲です。歌詞も、《恋》とか絶対に葵ちゃんが歌ったほうが──。

矢川:サクライさんよりはいい、ってなっちゃう(笑)。

和田:デモが上がってくると、毎回「すげえ!」ってなります。ちゃんと、女の子4人の声が乗ることを想定して、最初からデモを録ってるんだとしたら、すごいなって思うんです。

コショージ:(笑)もちろん、そのつもりで書いてるんだよ!

和田:いや、その完成図がサクライさんの脳内に流れた状態で仮歌を録って、渡してもらえてるんだとしたら、すごくない?

矢川:わたしもそれがすごいなって毎回思うんですけど、今回の曲はサビが初めてユニゾンじゃないんですよ。ひとりひとりで歌っていて。4人のユニゾンの相性はすごくいいと思うんですけど、合わさると表現が均一化されるじゃないですか。だけど、サビの一番盛り上がるところでも、それぞれの表現が生きたまま聞こえてくるので、わたしはそこがいいなって思いました。

──サクライさんの歌詞も変わったなっていう感じがしますね。それこそ、『bath room』の、狭い風呂場からブクガの音楽が始まった、と考えると。

コショージ:アー写の撮影も超狭かったですからね。風呂の中に入って、撮ったりしてたから。

井上:でも、あの曲を今ちゃんと歌えるかって言われると、どうなんだろう?

コショージ:昔の曲はずっと難しいままだね。

和田矢川:うんうん。

井上:逆に、“シルエット”のほうがちゃんと歌えるなって思います。

和田:昔の曲、難しい。

井上:難しい、までも行かなかった。「わかんない!」って。

──実際、歌詞の意味がわからないから、自分を乗せられなかった、ということ?

井上:そうなんです。「どうしろっていうんだよ」って感じで終わっちゃってたから。

コショージ:やっぱり、ヘタなままより、うまく歌いたいじゃないですか。でも、『bath room』の曲を歌うと、合格点に達してない感じがしていて。「なんか、練習すればするほど、ヘタになっていく気がする」ってボイトレの先生に言ったら、「それはそうだよ」って言われて。練習すればするほど、自分のヘタな部分が見えてくるから、そこができるようになっても、ヘタになっているように感じるだけなんだって。

井上:欲が出てきてくる、っていうことでしょ。

和田:わかる。耳がそういうふうになってゆく感じ、わかる。

──4人の歌が進歩しているから、ということもあるけど、“シルエット”を聴くとサクライさんの気概を感じますよ。

矢川:この間、「もっと歌、うまくなってほしい」って言ってました。

コショージ:最近は、「どういう曲がいいと思う?」って訊いてきたりしますね。

井上:こっちにも求めてくるようになりました。「前からそういうことも言ってほしかった」みたいなこともちらっと言ってたんですけど――。

矢川:酌み取れなかったね、その気持ち(笑)。

井上:そう(笑)。「わたしが知ってる音楽をブクガに採り入れられる? ないない!」って思っていたけど、サクライさんが「なんでもいい、こういう曲が欲しいとか、言ってほしいなあ」って言うから、この間好きな曲を言ったんだよね。

矢川:うん。「こういうの欲しいです」って。

――その結果は?

井上:「はぁ〜……一応、書いとく」って(笑)。最近は、会うたびに「サクライさん、あの曲まだ?」って言ってて(笑)。

コショージ:タイトルもうちらが決めたもんね。

──ブクガに革命が起きてる!

全員:ははは。

──と見せかけて、全然イメージと違う曲が来るかもしれないけど。

コショージ:全然ありますよ、サクライさんのことだから。

井上:それを期待してるんです。全然違う曲を提案したところで、サクライさんはたぶんブクガ仕様にして作れるだろうなって思うし。いい話にすると(笑)、サクライさんの曲は信頼ができるということに、わたしたちもだんだん気づいてきた、というか、年月を重ねることで、曲を信頼できてきたこともあって、意見が出てきたんだと思います。サクライさんも、「ああ、そう来るなら」って応えようとしてくれると思うので、次の曲にはすごく期待してますね。

コショージ:いい意味で、サクライさんに影響を与えたいと思ってます。ライブとかでわたしたちが影響を与えるようになったら、サクライさんからもさらにアイディアが浮かぶのかな、と思うので。

和田:触媒を放り込めば、化学反応が起きそうな状態ではありますね。

取材・文=清水大輔  写真=小野啓