なぜ不倫は絶えない? マンガ『ただ離婚してないだけ』『くだけるプリン』から考える!

マンガ

更新日:2021/1/26

「不倫」。辞書には、「人が踏み行うべき道からはずれること。特に、配偶者でない者との男女関係」とある。端的にまとめると、外道の行為だ。しかし、なぜ人は不倫をしてしまうのか。そんな「不倫」をテーマにしたマンガ『ただ離婚してないだけ』(本田優貴)、『くだけるプリン』(黒丸)がヤングアニマルコミックスから刊行されている。それぞれの作者と、それぞれの作品を推してくれている方との2つの対談を通して、作品の魅力と不倫の意味に触れていく。

『ただ離婚してないだけ』作者・本田優貴さん×電子書店バイヤー・竹田裕美さん

『ただ離婚してないだけ』がひそかに話題だ。

 関係の冷え切った夫婦が「夫の不倫」をきっかけにあれよあれよと殺人・監禁・二度目の殺人に手を染めていってしまう「衝撃の一般人サスペンス」である。

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 今回はそのコミックス最新4巻の発売を記念して、作者の本田優貴さんと電子書店「まんが王国」のバイヤーである竹田裕美さんの対談をお届け。

『ただ離婚してないだけ』は今、マンガ業界になくてはならない電子書店での売上が目立っており、特に「まんが王国」は『ただ離婚してないだけ』にいち早く目をつけ、きめ細かい販売戦略で売上を伸ばしている。

 マンガ家と電子書店バイヤー、そんな2人による対談「『ただ離婚してないだけ』と令和のマンガ事情――電子コミック業界の今」をご覧ください。

※対談中にはマンガ内容のネタバレがございます。ご了承の上、お読みください。

「女性に反感を買うマンガだと思ったけど、女性に読んでもらってると知って意外でした」

――「まんが王国」さんで『ただ離婚してないだけ』を推してくださったり、話売り連載になったいきさつを教えていただけますか?

竹田 1巻が出た時に、弊社の編成担当のメンバー数人が読みながら盛り上がってたんです。私も「どうしたどうした?」と加わったら、「このラストシーンはスゴイ!」と言っているんですね。タイトル的にも電子コミック業界のトレンド的にも「不倫もの」「夫婦もの」かなと思ったんですが、1巻のラストで不倫相手を殺しちゃった(笑)。みんなそこの衝撃で盛り上がっていました(笑)。

本田 そうなんですね、嬉しいです(笑)。

ストーカー化したセフレの萌をはずみで殺してしまう正隆と雪映…。

竹田 ちょうどその日が偶然、白泉社さんとの定例打合せの日だったので「あの展開スゴイですね」という話をさせていただいたら、連載が月刊誌なので2巻が出るのがちょっと先になると教えていただいたんですね。既に1巻の段階で「まんが王国」ユーザーさんには評判で、書影への反応も良かったですし、内容も1話ごとの「引き」が強かったので、おそらく「話売り連載」の形でも売れるんじゃないかなと思って1話売りを提案させていただきました。話売りユーザーさんの感想も皆さん、最初は王道の「不倫もの」と思って読んでらっしゃったんですが、例のシーンで「えっ!?」って、いつかの私達と同じ反応で(笑)。『離婚』はそれ以降の話の展開の早さと「そっちに行くんだ!?」という今までになかった驚きがあって、毎話の引きも強いですし、話売り連載にもユーザーの皆さんはしっかりついてきて下さっています。今思ってもあの「1巻のラストの衝撃」はスゴイです(笑)。

本田 ありがとうございます。いや、嬉しいですね。あまりエゴサーチとかもしないので、感想をこんなにしっかり聞くのはめったになくて。

――本田さんは、売れているという実感はありますか?

本田 うーん、実感……。通帳記入したときとか、確かに実感しますね。うわ、売れてるんだー…って(笑)。

竹田 売れてると思います(笑)。電子コミック業界では「不倫もの」「夫婦もの」は不動の人気ジャンルで数もたくさんありますが、今はそこに「何か」をプラスするマンガが増えてきました。そうじゃないと差別化されないので埋もれてしまうんですね。なので不倫もので年齢差がすごいあるとか、異世界でとか、プラスの「何か」が必要で、『離婚』は「殺人・監禁」といったところが読者さんに驚きとしてインパクトがあります。「まんが王国」のユーザーさんは女性が多いのですが、ベースにある不倫描写や夫婦描写に対して「こういう会話ってあるよね」「こういう夫・妻いるよね」という感想が多いですね。そういう身近な部分の描写がしっかりした上での「殺人・監禁」なので、ギャップが効いているんだと思います。

本田 僕このマンガ、女性にけっこう反感買うんじゃないかなと思ってたんですけど、仕事場のスタッフに「うちのお母さんがハマって読んでますよ」とか教えてもらって(笑)。女性にも全然読んでもらってるんだーって、意外でした。

竹田 女性もたくさん読んでくれてます。女性はやっぱり妻(雪映)の気持ちで読むので、レビューでも「このクズ旦那が!」とかが多かったんですけど(笑)、話が進むにつれて少しずつ夫(正隆)の事情に理解を示す方もいらっしゃれば、変わらず「許せない、クズ!」って怒り続けてる方もいて、今は二派に分かれています。

本田 ただ僕「正隆ってそんなに嫌われるんだ!?」っていう気持ちもあります(笑)。いや、正隆も頑張ってるんですけどね。

竹田 そこがすごくリアルなんだと思います! 男性が頑張ってる感じをすごく出してくるんですけど、女性に「いやいや全然だよ、全然まだ頑張ってないよ!」って言われちゃう感じが、すっごいリアルで夫婦っぽいですよね(笑)。

本田 ああ~(笑)。

トゲトゲした夫婦の会話…。

竹田 佐野を監禁することになったシーンで車のキーを見つけてどうしようってなった夫が妻に報告したら「なんで早く言わないの!?」って怒られて、夫が「いや、だからいま相談しようとしたんだけど…」ってなる感じ(笑)。このやりとりめっちゃリアル!って思いました(笑)。こういう細かいところで共感したり気持ちを持って行かれるので、ずっと飽きずに読者さんが付いてくれてるんだと思います。

「電子コミックで大切なのは『共感』『反感』『タイトル』『引き』『展開の早さ』『継続率』『試し読み』」

――やはり「共感」や「反感」は大事なエッセンスなのですね。

竹田 そうですね。電子コミックは手元に残らないこともあって、読んでいたことを忘れちゃうというのがよくあるんですね。マンガアプリも一度使わなくなるともう全く使わない、ですとか。「まんが王国」も電子書店なのでユーザーさんが「まんが王国に来る」という行動をまずして下さらないと、マンガがどれだけ面白くても読まれることはないわけです。なので「このマンガが読みたい」「あの続きはまだかな」という「訪れるきっかけになるマンガ」が電子書店としてはありがたいんです。たとえ新刊や最新話が1か月先だとしてもユーザーさんが覚えててくれるくらいのマンガというのは、やっぱり共感や反感が強いですね。本田先生のマンガは『東京闇虫』も『ただ離婚してないだけ』もそういう要素が強いので人気で、特に『離婚』はリアル感もあるので非常に人気で、ユーザーさんが忘れられないマンガなんだと思います。

――それはどういうデータから読み取れるのですか?

竹田 「継続率」を見ます。『離婚』は話売りの販売数が落ちないので、読者さんがしっかり付いてきてくれているということで、「最新話を待っている」「読みに訪れてきている」ということで、電子書店としてはありがたいです。継続率が良いマンガは「1話ごとに起承転結の起伏がしっかりある」「ラストの引きが強い」という傾向があります。ユーザーさんはその辺りが本当にシビアで敏感で「最近このマンガの展開ちょっと長くない?」とかレビューに書いていて、実際に売上が落ち着いていったりしますね。

本田 そうなんですね。僕はマンガの基本的なところはもちろんなんですけど、正隆(夫)になんとかなりきって心情的な部分をできるだけリアルに描きたいなあと気をつけていたので、それで共感や反感を得られているならよかったです。でも内容がだいぶ特殊な状況なので、殺人とか監禁とか、この夫婦はどういう気持ちなんだろうというのは悩みました。人を監禁しながら食べる夕飯ってどんな感じなんだろうとか。アクションシーンは描いてて楽しいので、4巻の佐野の脱走とか考えてても楽しかったんですけど、会話劇は本当に難しいですね。

「夫婦の冷めてる関係の描写がめちゃめちゃリアル」

――雪映(妻)を描くのはいかがですか?

本田 女の人の気持ちになって、とは描いていないですね。僕、昔は女の人、全然描けなかったんですけど、今は女の人の気持ちを描こうというのではなくて、僕は男性なのでもう僕の中にある気持ちを雪映に投影して、という感じです。昔はすごい悩んだんですけど、男の人も女の人も考えてることはそんなに差がないと思うんですよ。

竹田 正隆と雪映の考え方の違いの出し方はどのようにしているのですか?

本田 女の人の方が現実的で、男の人の方が理想で動く感じですかね。雪映の方が冷静で、こうだったらいいなで動く正隆にブレーキをかけたり。

竹田 ああー、なるほどです。雪映のセリフで「私たちを繋ぐのは人を殺したから」というのがありましたが、それ言っちゃうんだ!って思いました(笑)。スゴイなと、まさに現実的な一言でしたよね。脅迫にも思えるようなそれを、でも言わないと繋がりが壊れてしまうと感じていた雪映のセリフだったのかなと思うと、計算高いなと。ユーザーさんのレビューでも「お腹にいる子供のために」という現実目線で雪映の行動を支持する人は結構多いですね。

佐野を監禁することになってしまい、離婚を切り出す雪映だが…。

本田 1巻の最初の夫婦の状態は、お互いが向き合わない、意志の疎通が全然できていないというもので、でも人を殺したことで向き合わざるを得なくなって段々と夫婦っぽくなっていく。思ったことをちゃんと言ったりとか成長していくので、だから「人を殺したから繋がっている」というのは、雪映はあえて言ったんですよね。正隆はめっちゃショックだったと思いますけど(笑)。

竹田 「あなたが不倫をしなければ殺す必要はなかった」とかも言ってますよね。しかも体調が悪い雪映を正隆が心配しているところで、今言うかと(笑)。

本田 正隆もそれに対して「いやそれは謝ったのに!」ってイラつくんですけど。蒸し返すのかよって。正隆的にはもう済んだことなんですよね。

竹田 あそこ、すごい良かったです!(笑) 人を殺したり監禁しているというすごい状況なんですけど、そういうところでめちゃめちゃリアルだと思ってしまうんですよね。このマンガで1巻の最後に萌ちゃんを殺してしまうというのは初めから決まったいたのですか?

本田 それは決めていまして、そこに至るまでをどう描こうかなと。企画を考え始めた時はもっとゆっくり、正隆と萌ちゃんの出会いとか初めて浮気するところとか、そういうのも描いて人間関係を作るところも見せたネームだったんですけど、展開がかなり遅いので「初めから不倫している」というスタートにして、それで1巻のラストでの殺人になりました。展開の早さは電子業界的には大切ですか?

竹田 そうですね。ひとつは「試し読み」がポイントで、たとえば電子コミックスで試し読みが1話とか15ページとかできるとして、その中で読者さんを掴むことができないとその読者さんは二度と帰ってきてくれないんですね。「読まない」という側に置かれてしまって……。なので試し読みできるページ数でいかに読者さんを掴んで話売りやコミックスを買っていただくかというのが大切なので、展開が遅くても掴むことができればいいと思います。ただ展開が早い方が、継続率は上がる傾向にありますね。

本田 それで言うと『離婚』は、1巻は展開が遅いほうなんじゃないですか?

竹田 そうだと思います。ただタイミングが良かったのが、1巻が出た直後のタイミングで続きを話売り連載させていただけることになったので、1巻を買った方が続きが気になって話売りを買ってくださっていますね。マンガの評判も良いので、1巻の展開が早くないことはそこまで影響していないと思います。

本田 これまでマンガを作るときに電子というのは意識していなかったんですけど、『東京闇虫』も電子で評判が良いので、今後は少しは考えたりするのかなと思います。今日の話はいろいろ勉強になりますね。

竹田 今、電子でマンガを読んでらっしゃる方というのは全体的に女性の方が多いと言われていまして、なので女性が読めるマンガが今後も需要としてはあると思います。それでいて電子で読むということはやっぱりちょっと「表立っては読めない」という、ちょっとエッチだったり、人には言えない悩みがテーマだったり、という部分があるから電子でとなるので、だから電子書店でも「不倫もの」「夫婦もの」は人気なんですね。読んでいるのが人に知られたら「え、不倫したいの?」「夫婦関係に問題があるの?」という視線が気になりますので(笑)。またはそういう関係性やテーマで悩んでいる方が癒しや慰めや解決方法を求めていたり、という場合でもやっぱり電子の方が読みやすいですよね。だから『ただ離婚してないだけ』はタイトルもいいですし、冷え切った夫婦関係というのも電子にマッチしていました。なにより1巻のラストは驚きました(笑)。

会話なし、笑顔なし、セックスなし…。

本田 『離婚』の正隆と雪映のような「会話の無い夫婦」というのは、多いと思うんです。なぜかというと、いつの間にか夫婦関係が「ガマン対決」になっちゃっているという。お互いに「負けてたまるか」とか「謝ったら負け」とか、そういう感じの生活になっちゃっている夫婦。それをどうすれば会話するようになるかということで、一緒に人を殺したら向き合わざるを得ないのでは、と描き始めました。なので殺す時は夫婦一緒に、と決めていたのでそのシーンを「まんが王国」さんに見つけてもらってよかったです(笑)。これからもぜひよろしくお願いします。

竹田 こちらこそよろしくお願いします。続きも楽しみです!

本田 ありがとうございます、頑張ります。

撮影=中庭愉生

『くだけるプリン』作者・黒丸さん×書店員・新井見枝香さん対談はこちら

本田優貴 ほんだゆうき
漫画家。大阪府出身
2010年に借金まみれの青年の闇仕事を描いた『東京闇虫』(白泉社刊)で連載デビュー。続シリーズ『東京闇虫パンドラ』と2作とも実写映画化されるなどヒット作となる。『ただ離婚してないだけ』はありふれた夫婦が殺人を犯してしまう姿を描いた一般人サスペンス。

竹田裕美 たけだひろみ
「株式会社ビーグリー」営業企画部プランナー。
電子書店「まんが王国」でさまざまな作品をユーザーに届けており、『ただ離婚してないだけ』をいち早く取り上げきめ細かい施策で売上増に導くなど、電子コミック業界の動向に詳しく信頼の厚いマンガバイヤー。