6人の女性の不倫を描く『くだけるプリン』――“子供ができてからセックスレス”の寂しさはどうすれば…?

マンガ

更新日:2019/10/10

「不倫」。辞書には、「人が踏み行うべき道からはずれること。特に、配偶者でない者との男女関係」とある。端的にまとめると、外道の行為だ。しかし、なぜ人は不倫をしてしまうのか。そんな「不倫」をテーマにしたマンガ『ただ離婚してないだけ』(本田優貴)、『くだけるプリン』(黒丸)がヤングアニマルコミックスから刊行されている。それぞれの作者と、それぞれの作品を推してくれている方との2つの対談を通して、作品の魅力と不倫の意味に触れていく。

『くだけるプリン』作者・黒丸さん×書店員・新井見枝香さん

 人はなぜ不倫をするのか――。

 マンガ『くだけるプリン』は、様々な立場の女性6人の「不倫」との関わりを描いた短編集です。

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 冷めてる夫婦、想い人が妻子持ち、寝取られ離婚、不倫歴10年以上、異様な夫婦ごっこ、36歳の婚活事情――6人はそれぞれの人生を過ごす中で、不倫をし、不倫され、不倫に苦しみ、それでも何かを見つけてまた今日を始めます。

 そんな本作を「読んでよかった!」と激賞するのが、カリスマ書店員としてこれまで数多くの本を広めてきた新井見枝香さん。

 マンガ家とカリスマ書店員、同い年の2人による対談「『くだけるプリン』に見る、女性の不倫・恋愛・人生・セックス」をご覧ください。

「友達夫婦と会ったら『この2人してるんだよなー』って思っちゃう」

――『くだけるプリン』に「おもしろかった!読んでよかった!」と非常にありがたいコメントをいただき嬉しかったです。

新井 自分がすごい興味のある話ということもあって、とても面白かったです。大人になって色んな人に会うと「そういうコト(=セックス)」と全く想像がつながらない人がいて。でも結婚してたり子供がいたりして、そういう人に会うと「この人、一体どんな顔してしてるんだろう?」「そういう雰囲気の導入はどんな感じになるんだろう?」って、とっても気になるんです(笑)。

黒丸 それ、すっごくわかります。友達夫婦と会ったりしても、これまで友達のいろんなことは知ってるけど、「そういうコト」のリアルな部分はもちろん知らないじゃないですか。当たり前だけど実際の現場を見たことはないので(笑)。そんな友達が、隣にいる旦那さんと、してるんだよなー、したことあるんだよなーってついつい思ってしまいますよね。

新井 思っちゃいます(笑)。『くだけるプリン』に出てくる人も、想像しやすい人もいれば想像できない人もいて、やっぱりすごく面白かったです。

黒丸 新井さんは「新井賞」を主宰したりしてて、小説がメインの方だと思っていたのですが、思い切って感想を依頼してよかったです。読んでくださって本当にありがとうございます。

新井 小説もマンガも本当にたくさんありますし、不倫がテーマのものだけでもすごいいっぱいあるので、こういう風に自分のところに来た本というのは特別な感じがするというか、意味があるんじゃないかって思ったりしますね。それで面白かったので最高です。

黒丸 嬉しいです。新井さんは3話目「たたかうサカナ」の主人公タコちゃんが好きというのがすごく意外で。

新井 あ、そうですか?

黒丸 「仲良くなるタイプではないけれど」っておっしゃってて、それは私もすごく同意なんですが(笑)。タコちゃんはたぶん女性には嫌われやすいタイプだと思うんです。

新井 ですよね(笑)。自分の事もろくに磨かず、美しい人をひがんだりとか、色々とグダグダ言ったりとか、やっぱり根本はあんまり好きじゃないんですけど、そういう子の「その先」を見ると、ああ憎めないなあって。

黒丸 この子は嫌われるだろうなと思いつつも、でも何とか嫌われたまま終わらないようにと試行錯誤しながら描いていたので、いやーよかったです。

第3話「たたかうサカナ」主人公・晶子。夫の浮気を疑うも、夫に「女として見られない」と言われて…。

新井 人それぞれ好みがありますし、それに読む人の状況次第で感情移入したり嫌いになったりすると思うんですけど、普通は知ることができない「その先」を知ると、結局みんな嫌いにはなれないんじゃないかなと。

黒丸 ネット掲示板の相談なんかで「諸々の事情により不倫に走ってしまったんですけど、やめられなくなってしまってどうすれば…」みたいなのがあるじゃないですか。女性の相談者が自分でもどうしようもない、止むに止まれぬ気持ちや事情を綴っているのを読むと、とても感情移入できるんです。でも回答者の中には、もう烈火のごとく全否定でめちゃくちゃに辛辣な返事を書いている人もいて、相談者の気持ちになったらこれはさぞ辛かろう……と。

新井 ああ、うんうん。

黒丸 もちろん既婚者や、パートナーの浮気で苦しんでいる人からしたら「オマエみたいな女がいるから!」ってなる気持ちはすごいわかるんですけど、今この掲示板にいて書き込んでいる相談者にとっては、それは意味が無いんじゃないかなと思うんですよ。『くだけるプリン』でも5話目「まぼろし夫婦」の女性は経済的には恵まれている奥さんなので、カツカツの暮らしをしてたり夫の浮気に悩む人からしたら「贅沢な悩みですねぇ~~」って言われちゃうと思うので、それでも何とか感情移入して想いを馳せられるようにと常に考えて描いていました。タコちゃんも、友達にはなれないけど好きという新井さんの感想に、すごく励まされました。

新井 読む人によって色んな感想がありそうですけど、「コイツだけは許さん!」ってなることはなさそう。みんなどこかしら好きになるんじゃないかなあ。不倫にしてもどんな話題でも、自分のことじゃないのにすごく怒る人いますよね。

黒丸 いますね。

新井 旦那さんがした不倫でも、女の人って不倫相手の女性に怒りが向きがちです。今の掲示板の話でも、女対女ですよね。アレ、何でなんでしょうね。

黒丸 確かに。「このドロボウ猫!」ってなりますよね。私、昼ドラが好きだったんですけど仕事しながら見てても女が女とバトルになることに何の疑問もないですね(笑)。

新井 女と女が戦っているのって、なんか面白いんでしょうね。男の人もそういうの好きじゃないですか。

黒丸 普段キレイにしているからか、滑稽だったりダサかったり、余計に面白く見えるんですかね。

新井 キレイな髪ひっぱったり服やぶいたり(笑)。でもタコちゃんはそうはならなかったですよね。あそこで好きになったのかも。

黒丸 ああ、なるほど嬉しいです。確かにタコちゃんは女対女にならなかったですね。相手の女に対する強烈な気持ちはあるけど、バトルにはならなかった。男をノックアウトしました(笑)。

「『結婚して子供ができてからセックスしてない』という寂しさはどうすればいいんだろう」

新井 5話目「まぼろし夫婦」もすごい好きですね。裕福な奥さんが寂しさから出張ホストと理想の夫婦ごっこをする話ですけど、女の人ってお金を払って恋人ごっこをしたり性欲を満たしたりっていう場所があんまりないですよね。ゼロではないですけど、それこそ表立って「女性用!」ってビルが建ってるわけじゃないですし。

黒丸 風俗では、たとえば店舗型と派遣型っていうのがあるじゃないですか。男性向けは両方ありますよね、サービスを提供するのが女性で。逆に女性向け風俗でサービスを提供するのが男性だと、店舗型は無理らしいです。男性がもたないということで。

新井 はあ~~~、なるほど!

黒丸 なるほどですよね! 女性はギリギリ、技術と体力でなんとかなるけど、男性はそれが難しい。だから派遣型で、1日1人とか2人とかとじっくりと。「まぼろし夫婦」を描くにあたって更に少し調べたんですけど、そういう派遣型サービスのサイトには、サービスを提供する男性の写真やプロフィールが載っていて、利用した人がレビューを書けるようになってるんです。そのレビューがエロいんですよ(笑)。

新井 えっ(笑)。

黒丸 直接的なことを書いてるわけではなくて、感情的で生々しいというか、生活感が見えてエロいというか。「50代・主婦」って方が「もうずっと夫にも子供たちにも母としか見られていません。久しぶりに女性として大切にされて色々思い出しました。ありがとうございます」とか、エロいなあ~って食い入るように見ちゃって。

新井 エロい。気になる。

第5話「まぼろし夫婦」主人公・笙子。夫の留守中に呼んだ出張ホストに、「理想の夫婦ごっこ」をしたいと依頼する。

黒丸 感動しちゃったんですよ。もちろん「スッキリしにきました。よかったです」とかもあるんですけど、多くは30代や40代やそれ以上で、色んな人生というか背景というかが感じられて。オススメです、派遣型サービスのサイトのレビュー探訪(笑)。男性の事を「セラピスト」と呼ぶみたいなんですけど、タイプが細かく書かれていて、好みが絞り込めるんですよ。さわやか系、ガチムチ系、細マッチョ系、ぽっちゃりとか、スーツ男子とか、色んなタイプで絞り込んでいけるようになってて、きめ細かいなあって。

新井 すごい! でも絶対大事ですよね。ちなみに黒丸さんはどんなタイプにたどり着いたんですか?

黒丸 えっ! いや、その時は「身長高め、サラリーマン風、42歳くらい」みたいな…(笑)。年下のセラピストはみんな可愛い子ばっかりなんですけど、私の手には負えないのでちょっと年上に。新井さんはどうですか?

新井 私はすごいおじさんで、見た目はキレイじゃない方のほうが、利用しやすい気がします(笑)。絶対緊張しますよね、楽しいんだかわかんなくなりそう。

黒丸 確かに。リアルに楽しむんだったら普通な感じの方がいい気がしますね。

新井 そう考えると、普通に街にいるカップルもそういうサービスの利用者かもしれない。女性はどちらかというと性的にというより「寂しくて」とかの精神的なぬくもりがほしい時が多いと思うので、リアルな恋愛として相手を探してヒドイ人に当たってしまうかもしれないことを考えると、そういうサービスで精神的な満足感を安全に得られるのなら、いいかもしれないですね。

黒丸 結婚してたら、余計にそう思っちゃう人がいるかもなと。

新井 そうですよね。マンガにも「結婚して子供ができてからセックスしてない」って女性がいましたけど、そういう寂しさはどうすればいいんだろう。うーん、外に求めるしかないですよね……。結婚って、結婚指輪って、すごい存在ですよね。「結婚してます」というのを人に伝えてるんですもんね。

黒丸 結構目立つところにつけてますしね。

新井 セックスって平等じゃなくて「女の人がOKする、男の人がやらせてもらう」というのが当たり前の図式だと思ってたんですけど、それでもし結婚した後に「ねえ、あなた……」って言って「ちょっと今日忙しいから」って言われたらって想像したら、私はもうすごいショックだし、恥ずかしい……。

黒丸 「あっ、すみませんでした……ふしだらで……」みたいな。

新井 そう、急にそうなりますよね。怖い……。

黒丸 「当たり前の図式」の話だと、「相手の事もそんなに知らないけど男から誘われたらとりあえずしちゃう」っていう女友達に「なぜだ!?」って聞いたら、その子も「なぜだろう!?」って(笑)。でも全然傷ついたとか後悔とかもないみたいで。

新井 そういう「なんでOKしちゃったんだろう?」って経験、ないですか?

黒丸 いや、ないですね……。

新井 何かの弾みでとか、お酒の勢いでとか。

黒丸 ない……。私、つまんない……。新井さんはありますか?

新井 そりゃありますよね。みんなあると思ってました。

黒丸 あわわわわ……。

新井 そんな減るもんじゃないし、と。

黒丸 それは思います。お互いに「OK」でのことなら、むしろ「増えたな」って思うことはある気がします。

新井 ああ、「何かをもらった」って気分にはなるかもしれないですね。それで言うと、付き合っててするものと、何の意味もなくするものは、別の何かをもらえるというか。『くだけるプリン』の1話目っぽい。

黒丸 あ、本当だ。1話目の主人公はコミックスの最終話にもちょこっとだけ出てくるんですけど、なんとなく表情が幸せそうなので浮気がバレた様子はないですね(笑)。

「(不倫は)すると思います」

新井 でも私ももうちょっと何回もそういうことは起こるもんだと思ってたんですけど、全然ないんですよね。いまウチの隣に住んでる女の人はかなり色んな男性を連れ込んでるんですよ(笑)。いつも違う人を。聞こえてくるんですよね(笑)。部屋をひとつ隔てて全然違う状況なんです。頻繁にそういうことをしている部屋と、全然ない部屋。

黒丸 やっぱりそういうことが起こったほうがいいんですかね。

新井 いいと思います。そういうことが起こった人に「いいなー」って思っちゃうから。「あったほうがいい」って思っていますからね。

黒丸 確かに思ってますね。自分に浮ついた話がなさすぎて、ちょっと悔しいぜってくらい思ってます。

新井 セックス自体が好きじゃないって人もたくさんいると思いますけど、自分がまだわかんないだけかもしれない。相手にもよるし。それに人から性欲のようなものを示されると「お、自分はその価値があるのかね?」って喜びがまずありますね。

黒丸 ありますね。その上で受け入れるかどうかを決める権利をいただけるのなら、喜んで考えさせていただきたい。ただ面倒なのが、大人になると色々な経験や知識があるがゆえに、そういうシチュエーションになっても「先」を想像してしまって飛び込めない。飛び込んだとしてハッピーになっても傷ついたとしても、どっちも怖いししんどそう(笑)。『くだけるプリン』は不倫がテーマですけど、新井さんは不倫ってしてしまうと思いますか? 既婚者を相手にだったり、ご自身が結婚後に、とか。

新井 すると思います。

黒丸 断言!(笑)

新井 誰も結婚したくないわ、こんな人(笑)。でも結婚したとたんに他の人に愛を感じたり性欲が湧いたりしないなんて、なんで誓えるのかなって。

第1話「くだけるプリン」主人公・咲子。冷めてる夫婦関係を送る中、とあるきっかけで社食のアルバイト・佐合に…。

黒丸 確かに。だから、みんな苦労してるんでしょうね。私は倫理観が強いほうで、わりとドライなので、すごい追い詰められた「止むに止まれぬ…」みたいな感情ってどんなのだろうという興味はあります。倫理観が強い私がそこまでになってしまうとしたら、相手の男性はどんな男性なんだろう、どういう状況なんだろうっていう。結婚前は「なんで不倫なんて、浮気なんて、するんだろう」って素直に思ってたんですね。でも結婚したとたん、不倫したくなる感覚はわかっちゃった(笑)。なるほどー、わかる気はするわーって。とはいえ私はなかなか思い切ったことはできないので、そんな私が不倫しちゃうとしたら、それは一体どういうことだろう?っていうところの興味ですね。結婚したからこそ不倫しちゃう人もいるんだろうな。私も、結婚しなかったら不倫なんて意味がわからないままだったろうし。

新井 不倫をしちゃった人たちということで言えば、『くだけるプリン』はどの主人公も、お話の「先」がどうなったのかすごい気になります。6話目「とりどり迷子」の男性、すごいよかったです。一番かっこいい。

第6話「とりどり迷子」主人公・翔子が婚活パーティで出会った男性。不愛想な人だが…。

黒丸 いいですよね、私もあの男性が一番かっこいいと思います。『くだけるプリン』で描いたそれぞれの物語の「先」は、全く考えてないんですよね。もし「先」を描いちゃったら、ドラマを起こさないといけなくなるから、みんな何かしらドロドロになりそうで。

新井 確かにそうですね。続きも読みたいですけど、あの後どうなるのかなって想像するのも楽しい。2話目「いつわる絵筆」の主人公のその後とか全くわからない。すごいですよね、あの場面で口でやりましたからね。

黒丸 言わないでください(笑)。私はどの話のセックスシーンも読み返せないんですけど、2話目は最も恥ずかしい……。私の父や夫のお母さんから「新しい本が出たみたいだけどこれはどんな漫画なの?」っていう連絡が来て、「殺せ……」って思いました(笑)。

第2話「いつわる絵筆」主人公・詳子。妻子ある上司に長らく想いを寄せていた。

新井 作品を作る方って、そういう親戚関係とかも大切にして「良い嫁」とか思われたいけど作品も妥協できなくて、困りますよね。

黒丸 こういうテイストのマンガは初めて描いたのでそういうところで今すごいうろたえていて……。エッチなマンガで大ヒットをしてる作家さんはたくさんいて、皆さんどうしてるんだろう……。でも描いたものは私も多くの人に届けたい。こちらはもう腹をかっさばいちゃったので、その血しぶきはできるだけ遠くに届いてほしいですよね。せっかく描いたんだから派手に展開していってほしい。

新井 ウチのお店(HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE)のお客さんはなんとなく、エッチな話とかセックスの話をしなさそうな方が多いんですよ。だからこそそういう人に読んでほしい。そういう人にも、このマンガは安心と希望を与えてくれると思いますから。

黒丸 目立つ陳列をして下さって本当にありがとうございます。これからもぜひよろしくお願いします。

新井 こちらこそ依頼して下さってありがとうございました。本当、すごい面白かったです!

黒丸 ありがとうございます……! 皆さん、ぜひ読んでみて下さい。

撮影:羊肉るとん

なぜ不倫は絶えない? 『ただ離婚してないだけ』作者・本田優貴さん×電子書店バイヤー・竹田裕美さん。

黒丸 くろまる
漫画家。岐阜県出身。
2003年に戦慄の詐欺サスペンス『クロサギ』(原案:夏原武/小学館刊)で連載デビュー。『クロサギ』は小学館漫画賞一般向け部門受賞、TVドラマ化・映画化もされるなど大ヒット作となる。『くだけるプリン』は女性6人のセックスまでの一部始終を描いた性にまつわる短編集。白泉社刊。

新井見枝香 あらいみえか
書店員、エッセイスト。東京都出身。
芥川賞・直木賞の発表と同時に、自身がその半年間で最も面白かった1冊を発表する独自の文学賞「新井賞」を行うなど、カリスマ書店員として注目される。コラム執筆、文庫解説、TV・ラジオ出演など活動は多岐にわたる。現在は東京・有楽町にある書店「HMV&BOOKS HIBIYA COTTAGE」勤務。