いよいよTVアニメ2期スタート! 原作・押切蓮介&プロデューサーが語る、「『ハイスコアガール』に託したもの」(前編)

アニメ

公開日:2019/10/24

TVアニメ『ハイスコアガールⅡ』10月25日(金)25:05より毎週金曜、TOKYO MXほかにてROUND16~放送

 90年代のゲーマーな少年と少女の出会いと恋を描いた『ハイスコアガール』。その待望のTVアニメ第2期がいよいよオンエアされる。そこで原作者の押切蓮介と、アニメを手掛けるワーナー・ブラザースジャパンの鶴岡信哉プロデューサーに、第1期から第2期へかける想いを語っていただいた。前編では、アニメ第1期の手応え、劇中で実在するゲームのプレイ画面を出すための苦労や、キャスティングの経緯など、アニメ制作の現場の裏話を伺った。

小春の心情を、僕がゲームプレイで表すことになるとは、思ってもみなかった(押切)

――『ハイスコアガール』は2018年7月から第1期(ROUND1~ROUND12)が放送され、大きな話題となりました。おふたりは放送後に反響を感じることはありましたか?

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押切蓮介:外国の方からの(Twitterの)DMが増えました。すごくほめてくださっているんだなというのが伝わるので、ありがたいです。日本の90年代の話が、海外の人の心にも刺さったんだなと。アニメがきっかけになって、日本だけじゃなく、国境を越えて外国にまで作品が届いたなっていう喜びがあります。

鶴岡プロデューサー:きっとNetflixで配信したのが大きかったんでしょうね。Netflixを介して、中国以外の(中国はiQIYIにて独占配信)全世界一斉配信をしたのですが、海外の方はダイレクトにコメントを寄せてくれる方が多くて、たくさん反応がありました。それぞれの国にゲーム文化があって、遊んできたゲームがあって、コメントにその文化の違いが見えるんですよ。その反応を見るのは、面白かったです。こちらとしては基本、日本語で情報を発信しているんですけど、たまに海外担当が英語で発信したり、海外のイベントに出たりすると、反応がとても大きかったのが印象的でした。でも、やっぱり僕は日本の国内の人々がすごく大きな反応をしてくださったことが嬉しかったですね。この作品は日本の90年代のゲームブーム、格ゲー(対戦格闘ゲーム)ブームとノスタルジックな恋愛を描いているので、そこに懐かしさを感じてくれた方がたくさんいらして。アニメが当時の熱をちゃんと表現できたんだろうなと実感できました。その点ではスタッフの皆さんもすごく頑張ってくださったし、応援してくださったファンの方々もとてもありがたかったですね。

――アニメの中で、それぞれのゲームのプレイ画面を流したり、ゲームの筐体やゲームセンターの細部を再現していて。そのこだわりが素晴らしかったです。

鶴岡:『ハイスコアガール』をアニメ化する以上、本物のゲームが劇中に出ないと意味がない。ゲームタイトルごとに各ゲームメーカーさんに許諾をいただいたのですが、第1期のときはとにかく登場するタイトル数が多かったんです。しかも、昔のタイトルが多いので、権利元がわからなくなっているタイトルもある。かなり早い時期から準備を始めていたので、時間をかけて、ひとつひとつ当たって契約をしていきました。権利関係がグレーなタイトルは別のタイトルに差し替えたりして。メーカー許諾のめどが立ってからシナリオ会議を並行して進めていきましたね。今回、第2期をすることになりましたが、第1期でゲームメーカーさんと契約していたので、その流れを受け継ぐことができて、だいぶ楽にはなりました。

押切:ありがたい話ですよね。

――たとえば、『ときめきメモリアル』が出たときは、当時の声優さんのボイスや歌も流れていましたよね。

鶴岡:あれはコナミさんの確認だけでなく、声優事務所さんの確認もいただいています。劇中でバッドエンド曲の「女々しい野郎どもの詩」も流れるわけですが、あれももちろん、確認をいただいています。大変でしたけど、みなさんにご協力いただけて、ありがたかったです。

――TV放送では、各ゲームメーカーとのコラボCMも流れていたのも印象的でした。劇中に登場していたゲームタイトルやゲーム機を、ハルオたちが紹介するという内容で、各ゲーム会社と『ハイスコアガール』の関係性の深さを感じました。

鶴岡:企画を立ち上げるときに、「ゲームメーカーさんを巻き込んだお祭りにしたいね」という思いがあったんです。時期的にレトロゲームのリバイバルブームが来ている感じもありましたし、ゲームを借りるのであれば僕らも『ハイスコアガール』がきっかけでゲームメーカーさんに恩返しをしたいと思っていて。そんな中で原作元のスクウェア・エニックスさんと打ち合わせをしているときに、「じゃあ、テレビならではのプロモーションとしてコラボCMはどうだろう」という話になったんです。番組内のインフォマーシャルCMとして、単純に商品名を出すのではなく、そのCM自体もアニメの内容をネタにしたクスッと笑えるようなものにしたい。もしハルオたちが今のゲームをやったら、みたいな。「じゃあ、こちらで作ってしまおう」と、AパートとBパートの間に固定して流すことにして、コラボCMも本編の映像とあわせてテレビ局に納品していました。

――コラボCMは本編の一部のようなものだったんですね。

鶴岡:そうですね。番組の一部であり、ゲームメーカーさんへの恩返しであり、パロディもののファンサービスでありす、を意識しています。ゲームメーカーさんも喜んでくれたので、第2期も、このインフォマーシャルは継続して作っています。

――第1期では押切先生も、劇中に登場するゲームのプレイ映像を、プレイヤーとして担当されていたそうですね。

押切:『ヴァンパイアハンター』のフォボス(ゲーム中に登場するロボット型キャラクター)をプレイしましたね。

鶴岡:第1期の後半は『ヴァンパイアハンター』が中心になる展開でしたし、先生自身がフォボス使いだったので、プレイをしていただいたんです。

押切:ゲームプレイの収録は本当に大変で……。まず、ゲームプレイの脚本があるんですよ。「相手がジャンプをしてきたら、パンチを繰り出す」とか。でも、僕たちはプレイをするときに、手が先に出ちゃうんです。普段は勝つためにプレイしていますからね。「対空(相手がジャンプをしてきたときの対抗技)のときはこれでしょう」と、自然と対応する技が出ちゃうんです。でも、今回は演技をしなきゃいけなかった。これが大変で。本来、ゲームで演技をすることってないじゃないですか。たまに、相手に負けてあげるとか、接待プレイ(初心者相手に手加減してプレイ)をするくらいで。まさか小春の心情を、僕がゲームプレイで表すことになるとは、思ってもみなかったです。

鶴岡:ゲームのプレイでは、ミカド勢(高田馬場と池袋にあるゲームセンター・ミカドの常連プレイヤー)にすごく協力していただきまして、とくにハルオ(矢口春雄)と晶(大野晶)の『スパⅡX(スーパーストリートファイターⅡX)』の戦いや、ハルオと小春の「真サム」「KOF」「ハンター」の3番勝負などは、ミカド勢のゲームプレイでもドラマを作ってくださったなと思っています。

押切:彼らはゲームプレイ俳優ですよね。ミカド勢のみなさんも、その難しい役をよくやってくれたなあと。本来、ゲームのガチのプレイについては一流の方ばかりなんですけど……。

鶴岡:今回はガチじゃなくて、魅せるプロレスをするようなものですからね。

ハルオは、90年代のゲームブームを過ごした僕らゲームバカたちの代弁者(鶴岡)

――押切先生にとって、『ハイスコアガール』のキャラクターを声優さんが演じるということは、どんな経験でしたか。

押切:キャラクターに声がつくと、もう、別作品みたいな感じがあるんですよね。僕以外の職人さんが、この『ハイスコアガール』を作るとこうなるんだ……みたいな。『ハイスコアガール』は僕の作品ではあるんですけど、アニメの『ハイスコアガール』は僕の作品だと言えない感じがあったんです。それはいつも映像化していただくときに感じていることでもありました。『ミスミソウ』を実写映画化していただいたときも同じ感覚があって、僕は何も言えないところがあったんです。だって、アニメや実写映画を作る上で、僕が誰よりも「頑張っていない」ですからね(笑)。今回もアニメのために「何もやっていない人」は、僕だけですから。

鶴岡:そんなことないですよ(笑)。

押切:『ハイスコアガール』のキャラクターに声がついて、しゃべっている映像を観ると、普通に「面白いアニメだな」と思ってしまうんです。アフレコ現場でも、もう最初のテスト収録の段階で、「完璧じゃないか!」と思っちゃいますから。普通に、いちファンとして見てる。純粋たる『ハイスコアガール』アニメのファンですね。

――キャスティングはかなり議論があったんでしょうか? 晶のキャストだとか……。

鶴岡:キャスティングは押切先生からもご意見をいただきつつ、音響監督の明田川(仁)さんや山川吉樹監督、松倉友二プロデューサー(アニメーション制作統括/JCスタッフ)らと一緒に決めていきました。まわりからよく聞かれたのは、晶のキャスティングをどうするのかということでしたね。大野さんは無口ではあるけれど、しゃべれないわけじゃない。しゃべらないだけなんです。アニメではリアクションにも息や声が入るものですし、ちゃんとキャスティングしようというのは、最初からありました。メインの3人(ハルオ、晶、小春)はベテラン新人関係なく、その役柄にふさわしい声で揃えたいと思っていましたね。

押切:そうでしたよね。有名で人気の人で揃えるという発想がなくて良かったです。漫画家さんの中にはキャラクターを描くときに、声優さんの声をイメージしながら描く人がいるんです。でも、僕は声優さんのことを何も知らない。だから、どんな人が良いか聞かれても、まったくわからないんです。

鶴岡:そういうわけでメインの3人はオーディションをすることになったのですが、テープオーディションも含め、想像以上に多くの方に参加いただいて。実際に聞くとけっこう迷いましたね。特に晶は3話の泣くシーンと「モガー」くらいしかセリフがなくて、違いが分からん!みたいな(笑)。まあそれは冗談として、微妙な違いや、光るものを見つけていく中で、晶はあまり印象がつきすぎていない人のほうが向いているのかなと思うようになりましたね。

――鈴代さんによる、大野さんのお芝居はいかがでしたか。

鶴岡:鈴代さんは小春役も受けていて、その声の印象も含めてなのですが、かわいらしさの中に、どこかすがすがしい清涼感と強さがある気がしたんですよ。泣きの演技もちゃんと声が張れてましたし。この声なんか気になるなーというのがみんな一致して鈴代紗弓さんが候補にあがって、そのときにプロフィールを見たら真っ白だったんですよ。普通新人でも特徴や、経歴も端役やモブの一つくらいは書いてあるものなんですが、清々しいくらい真っ白で(笑)。そのミステリアスさも面白いかも、と思いました。ただ、ハイスコアの後すぐにいろいろな作品で大活躍されるようになって、全然ミステリアスじゃなくなっちゃいましたけどね(笑)。

押切:僕、ハルオ役はあまり迷わず意見を言った気がします。

鶴岡:ハルオはとにかくセリフ量が多いので、そのセリフ量をこなせる人でないといけないだろうなというのが、まず前提でありましたよね。

押切:一番重要な役が、一番大変なんですよね。

鶴岡:しかも、小学生から高校生まで年齢的かつ精神的な変化もある。女性キャストで少年役をされている方も検討したんですけど、成長期の男子特有のバカさは欲しいし、ハルオは90年代のゲームブームを過ごした僕らゲームバカ(男)たちの代弁者でもあるので、できれば男性キャストで合う人がいたら、という感じで検討していきました。あと、あまりイケメン演技過ぎない、というのも大事なポイントのひとつでしたね。

押切:オーディションのときは、オーディションに来た人の声を聞くたびに、ハルオの顔を書いていたんです。その人の声だったら、どんなハルオになるだろうなと思って。アゴの長いハルオを描いたり、刀を差している侍っぽいハルオを描いたり、眉毛が超濃いハルオを描いたり(笑)。でも、天﨑(滉平)くんが声を出した時に、彼の声が本来のハルオの顔にぴたっとハマったんですよ。それが印象的で。彼は人柄も良かったし、お願いできて嬉しかったです。

鶴岡:ハルオと晶を決めた後に、二人の声のバランスを見ながら小春は決めていきましたね。個人的には小春は自然な感じが良いだろうなと思っていたんです。あまりかわいすぎないというか、ブリッとした感じがないほうが良いだろうと。広瀬ゆうきさんは芸能系の事務所の方で、役者として子役時代から活動されている方というのもあったのか、声の出し方が素朴であまり固まっていないというか、ナチュラルな感じがあったんですよね。

――押切先生はアニメ版の大野さんと小春の声を聞いて、どちらにグッときますか?

押切:どちらにもグッときますよ! いや、全員にグッときます。「声を出すと、こんな感じなんだ!」と、毎回グッときてました。第1期のときはまだ『ハイスコアガール』は連載中だったので、キャラクターの声がわかると、意外と楽しく描けるものなんですよ。とくに小春に関しては、広瀬さんの声を脳内再生しながら、描いていました。執筆のプラスになりましたね。

――現在は原作の『ハイスコアガール』は無事に完結されていますが、アニメ第1期のオンエアの時は、まだ絶賛連載中ですよね。その頃から終わりを想定していらしたんですか?

押切:いつまでもダラダラ描いてはいられないなと。完結しなきゃなーと。

鶴岡:完結の方向へ向かっているというのは、第1期の頃から伺っていました。その頃は単行本の8、9巻が発売されていたのですが、担当編集さんから単行本10巻で完結すると聞いていて、その構想も教えていただいたんですね。そのときに、この終わり方だったら、アニメ第2期をやりたいなと。ちょうどビジネス的な目算も見えてきたタイミングだったこともあり、JCスタッフの松倉プロデューサーと話をして、第2期を作ることを決めたんです。『ハイスコアガール』は「恋愛もの」だし、続けようと思えばもっと続けることもできるかもしれない。でも、単行本10巻で完結するという、押切先生の潔さが素晴らしいなと。僕は他のいろいろな取材でもお話しているんですが、『ハイスコアガール』のハルオと晶の関係って、第1巻のときにある程度完結しているんですよね。もちろん家庭の事情が出てきたり、小春が出てきたりするんですが、基本的にふたりの心情はあまり変わらない。その関係をダラダラと続けると間延びするのですが、10巻でちゃんと決着をつけるということがちょうどよい長さだと思ったし、その終わり方もゲームと絡んで美しいものだったので、そこをアニメ第2期で見てみたいと思ったんです。

後編に続く

取材・文=志田英邦

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