話題の作家を生み出す大藪春彦新人賞! 赤松利市「後輩と潰し合いがしたい」×西尾潤「罪を犯してしまう、その気持ちが知りたい」

文芸・カルチャー

2019/10/26

 実体験をベースにしたという衝撃作『ボダ子』をはじめ、『鯖』『純子』『らんちう』と、実にさまざまな話題作を生み出し続けている作家・赤松利市さん。9月末には、セクシュアルマイノリティの“老い”をテーマにした『犬』を上梓し、その過激な内容がまたしても物議を醸している。

 そんな赤松さんがデビューするきっかけとなったのは、2018年に創設された「大藪春彦新人賞」だ。応募作『藻屑蟹』は原発の除染作業員を主人公とした物語であり、淡々とした語り口で、人間の欲望や醜さを描ききった。以降の活躍ぶりは言わずもがな。デビューしてまだ2年ほどにもかかわらず、ハイスピードで次々と作品を生み出している。

 そして、同賞から二人目の作家が誕生した。それが『愚か者の身分』でデビューを果たしたばかりの西尾潤さんである。

 本作のテーマとなっているのは、「戸籍ビジネス」。社会の最下層で蠢く半グレたちを主人公に、彼らの闇や一筋の希望を描いている。選考委員からは「突き抜けた何かがある」と評価された西尾さん。デビューしたばかりだが、赤松さんのように文壇で活躍することは想像に難くない。

 そこで、スペシャル対談を実施! 赤松さん、西尾さんによる先輩後輩トークから、『犬』や『愚か者の身分』の読みどころはもちろん、作家としての価値観や2人の関係に迫った。

■「どんどん後輩に出てきてもらって、潰し合いがしたい」(赤松)

――大藪春彦新人賞出身の作家同士ということで、お二人はすでに面識があるんですよね? 第一印象は覚えていますか?

西尾潤さん(以下、西尾):私、会う前は赤松さんのことを怖い人だと思っていたんです。『鯖』に登場する女性の描写が凄まじくて……。笑顔の裏に下心がある、みたいに書かれているんですよ。なので、私がニコニコご挨拶したとしても、「こいつ、裏があるんじゃねえか」と思われるんじゃないかなって。でも、日本推理作家協会のパーティで、赤松さんが「肩が上がらなくなった」と延々とスピーチされていたという話を聞いて、ちょっと面白い人なのかも、と。

赤松利市さん(以下、赤松):肩が上がらなくなってざまあみろって思ったわけや。

西尾:違いますよ! マッサージクッションもプレゼントしたじゃないですか!

赤松:ふん! 私からするとね、西尾さんはまあ印象が悪かった。

西尾:どうしてですか!

赤松:お会いする前に写真を拝見したんですけど、このようにキレイな女性でしょ? そして、職業がスタイリスト・ヘアメイクって。そして、編集者からはすでに「ジュンジュン」って愛称で呼ばれるくらいコミュニケーション能力が高い。もう鼻について仕方ない。

――赤松さんも愛称で呼ばれたいんですか?

西尾:「りっちゃん」って呼ばれたいとか?

赤松:んなわけないやろ! 阿呆か!

――西尾さんはそれまで赤松さんの作品を読まれていたんですか?

西尾:大藪春彦新人賞を受賞してから、『鯖』を読みました。ちょっと衝撃を受けましたね。これまでにあんな作品は読んだことがなかったですし、圧倒されたというのが一番ぴったりくる表現かもしれません。すごい読書体験でした。

 それから今回出された『犬』。これは素直に面白くて、赤松作品のなかで一番好きです。主人公の桜さん、沙希ちゃんのキャラクターがとにかく魅力的。特に桜さんは、人間味があるんです。誰もが老いやお金のことで迷うと思うんですけど、桜さんもそれで悩み揺れていて。そこをつけこまれて嬲られてしまいますが、でも冷静な一面もある。で、最後には立ち上がるんですよ。そこでちょっと勇気をもらいました。

――逆に、赤松さんは西尾さんのデビュー作『愚か者の身分』を読まれてどう思いましたか?

赤松:ホンマに読みやすかったですよ。シーンが浮かんでくるし、テンポも良い。ただ、敢えて言うとすれば、文体とかリズムとか、あるいはもっと言うと、作者が世界を見る視点がまだ感じられへんかった。行間から作者の体臭がにおってくるようなところまでは、まだきてへん。そこが残念やった。これは、いつも自分自身に問いかけていること。自分はそんな風に書けているだろうかって。そこを今後は意識してもらいたいなと思ったね。……ちょっと先輩っぽくキレイにまとめてみたけど、どう?

西尾:先輩、ありがとうございます! いや、指摘されたところは自覚している弱点でもあって。私、普段の人間関係でも浅い……というか深くなれない。たとえば、言いたいことがあっても言いにくいことは「まぁいいか」ってなってしまう。本当は根気強く向き合うべきなんですけどね。そういうところが、もしかしたら文章にも出てしまっているのかもしれません。これからは意識していかないと……。

赤松:いや、でもわからへんよ? それが西尾さんの良さかもしれへんからな。

西尾:まぁ、そうかもしれません。読書初心者には読みやすいんじゃないかな。

赤松:そこで謙遜しなくていいねん! もっと自信持って! そして、はよ次の作品を書かんと。作家はデビューするよりも生き残る方が大変なんやから。新人賞の賞味期限は、ええとこ1年やで。もうカウントダウンははじまってんねん。いつも言うてるやろ? 次の作品書いたら、私が知り合いの編集者に持ち込んだるって。そやのに、受賞して1年が近うてやっと『愚か者の身分』が完成して。

西尾:……はい。

赤松:そこでしんみりしたらあかんがな! マジなトーンになってまうやんか(笑)。

――赤松さんは西尾さんをすごくかわいがっているんですね。やはり、同じ賞出身だからですか?

赤松:それはあります。やっぱり、この賞は盛り上げていきたいです。元々、大藪春彦賞が好きだったんです。選評でボロクソ言われるんですよ。それを読むのが面白くて。そしたら、そこに新人賞が創設されて、私が一回目の受賞者になった。だから、想いもこもってますし、今後にも期待しています。どんどん後輩に出てきてもらいたいし、潰し合いがしたいですね。

西尾:潰し合い(笑)。でも、先輩のその気持ちはとてもありがたいです。

■「人はなぜ罪を犯してしまうのか。その気持ちが知りたい」(西尾)

――同じ賞出身の先輩がこうも活躍されていると、プレッシャーも大きいのではないですか?

西尾:かなり大きいですね。でも、編集さんからは、「マイペースに書いてください」と言われました。赤松さんを追いかけたくても、その背中が米粒みたいに小さく遠いものになってしまっているので(笑)。

 先程の文体の話にも繋がりますけど、赤松さんの小説を読むとオリジナリティに驚かされるんです。『犬』では地の文が関西弁で書かれていて。正直、最初はすごく読みにくいと感じたんですけど、気づけば独特のリズムにどっぷり浸っていました。

赤松:今回はちょっと冒険しすぎてん。最初は200枚くらい標準語で書いたんやけど、なんと無うイマイチやったから、全部関西弁で書き直してん。

西尾:すごい……! 文体って難しいですよね。執筆の途中に他の作品を読むと、どうしても引っ張られてしまうこともありますし。

――文体もそうですが、赤松さんの作品を読んでいると、アイデアにいつも驚かされます。

赤松:私、もう63歳やん。これまでに会社経営してバブルも経験して、かと思えば除染作業員やおっパブの客引きもやった。で、最後にはホームレスになって。だから、引き出しはなんぼでもあるねん。いま頭の中にあるアイデアを2カ月に一冊のペースで形にしていったとしても、すべて消化するのに2年はかかる。

西尾:先輩は人生経験豊富だからなぁ。

赤松:いや、待って。とはいえ、実体験を書いているわけではないで?

西尾:え、そうなんですか?

赤松:そりゃそうやん! 男性経験があるわけでもないし、うんこを食ったこともない。ただ、想像力を駆使して書いているだけやんか。

西尾:それでこのリアリティはすごいですね。

――西尾さんは『愚か者の身分』をどのように書きはじめたんですか?

西尾:私はドキュメンタリー番組が大好きでよく観るんですけど、そこで取り上げられる半グレやロマンス詐欺などをメモしていて。大藪春彦新人賞に応募することを決めたときは、賞の傾向からなるべくハードなものが好まれるよなぁと考えて、そういったメモを参考にしました。でも、締切の4、5日前になってもまったく浮かばなくて。3日前くらいまで、本当に間に合うかどうかドキドキしながら書いていましたね。結局、郵便では間に合わないので、徳間書店の郵便受けに直接届けました(笑)。真夜中、警備員さんに郵便受けの場所を教えてもらって、祈るような気持ちで入れたのを覚えています。

――犯罪者などに興味があるんですね。

西尾:そうですね。どうして罪を犯してしまうのか、その気持ちが知りたいんです。虐待や飲酒運転なんかもそう。これだけダメだと言われている世の中なのに、いまだに凶行に走ってしまう人が後をたたない。貧困が理由で仕方なく罪を犯してしまう人もいますが、そうじゃない、恵まれた環境にいた人たちがなぜ犯罪者になってしまうのかが知りたい。思い返してみれば、今回の受賞作以前にもクライムノベルばかり書いていましたね。

赤松:私がテーマにしているのはマイノリティやな。

西尾:その理由は?

赤松:ずっと会社経営をしてきて、本当にバブリーな暮らしを送っていたんやけど、そこからどん底に堕ちてしもうて、そのとき、いろんなものが目に入ってきてん。自分は社会の上澄みで暮らしていたんやなって実感したんですわ。それで、なかなか可視化されないマイノリティについて書きたくなったんです。

■「読者には、最悪の読後感を提示したい」(赤松)

――お二人とも、それぞれに大きなテーマがあるんですね。それをもとに執筆を続けて、最終的にはどんなことを読者に提示したいと思っていますか?

西尾:私は、現実に抵抗しながら立ち上がる人たちを書きたくて。どんな場所にいたとしても立ち上がる、その姿を通して、読んだ後に気持ちがほんの少しだけでも上向きになってくれたらな、と思います。「人生が変わりました!」なんて大げさなことは求めていませんが、ちょっとだけでも頑張ろうと思ってもらえればうれしいですね。

赤松:私はとにかく最悪の読後感をプレゼントしたい、それだけです。

――最悪の読後感……! それはどうしてですか?

赤松:今の時代を背景に小説を書いて、読後感のええもんなんか書けるわけないですやん。

西尾:刺激が得られる、ということですよね。

赤松:それを狙てるわけやないけどな。そやけど、今回の『犬』は読後感ええねん。読書メーターにも「赤松なのにやさしい」って書かれてて、失敗したわ。

西尾:確かに、『犬』はすごく良いラストですもんね。

赤松:読後感で思い出したけど、あんた、『愚か者の身分』の結末で悩んでるって相談してきたやろ? そのとき、「結末なんか書かんでええ。起承転で止めて、読後感悪うせえ」って言うたのに、キレイに書いたよな。私のアドバイス、無視したんやろ?

西尾:いやいやいや! これ、何度も書き直してるんです。アドバイス通りに書いてもみたんですけど、いろいろ考えて、いまの結末に落ち着いただけで。完全にスルーしたわけじゃないですよ!

赤松:ふんっ!

――執筆の相談もするなんて、やはり同じ賞出身ということで絆が感じられます。

赤松:あのな、絆って言葉が大嫌いやねん。震災のときも散々聞いたやろ? 絆とか頑張ろうとか。同調圧力はもううんざりや。

――それは失礼しました……。では、2人を繋ぐものとは?

赤松:それはデビュー版元が一緒ってことだけと違うかな。

西尾:ドライすぎませんか(笑)。いや、私にとっては、やっぱり追いかけていきたい先輩ですよ。遠い存在になっていますけど、後に続きたいと思っています。

――こんな風に慕ってくれている西尾さんに、先輩から送る言葉があれば!

赤松:絆を大切に、お互い頑張ろうね!

西尾:結局、「絆」使うんですか!

取材・文=五十嵐 大 写真=岡村大輔